第3話貴族とネズミの主人公
という感じで侵攻された主人公は怒って我が村に来ましたと。何故か慰安旅行みたいにのんびりしてたけど、ちゃんと御魔森に向かってくれてよかった。
後はネズ公、頑張れよ!
※※※
初めてできた彼氏に妊娠を告げると逃げられて絶望の淵にいた私。そうしたら、別部署の上司が相談に乗ってくれて、優しい言葉を掛けてくれた。そしてずるずると大人の関係になってしまった。その人は既婚者だったのに。
当然のようにお腹が大きくなっていくと、上司は会ってくれなくなった。俺を頼ればいいと言ってくれたのに、会社でのあたりも強くなっていた。
そしたらある日、私の前におばさんがやって来てこう言った。
「この淫乱が!ボテ腹でうちの主人を寝取れると思ったのかい!?金を毟ろうったってさせないよ!どうせ上司に孕まされたとかほざいて強請る気だろう!腹打って死んじまいな、売女が!」
それだけ言うと早々に去っていった。そこは会社の前、同僚や通りを歩く他人にもジロジロと見られた。学生時代に味わったようなゴミみたいな気分だった。
出産当日、母が駆けつけてくれた。その時初めて優しくされた気がする。初めて褒められた気がする。外面ばかり気にする母がいやに頼もしかった。
父のいない子供、私と同じ境遇にしてしまうのはとても不憫だった。でも、もう男なんて……
産休が明けて私は辞表を提出した。居られるはずもない。私の噂は悪い形で広まっていたから。
直属の上司に辞表を手渡すと「本当は1ヶ月間居てもらうんだけどね、新しい子が来たからタイミングは任せるよ」と言われた。だから翌日から行かなくなった。
実家に戻って子育てしながら職を探す。割と簡単に職は見つかったけど、どうにも馴染めなかった。その会社が悪いわけじゃない。人間不信になっていたから、うまく溶け込めなかった。
家に戻ると母が子供をあやしていて、私と入れ替わりでパートに出かける。頼って求められて、信頼して優しくされて、輝いていた時間がこんなに切なく感じるとは思わなかった。
目の前にいるのは私の血が流れる子供だけ。半分は私を捨てた男の。弱く脆いこの子供は私がいなければ死んでしまう。そう考えると頑張れる気がして、なんとか踏ん張れた。
ある日母に愚痴をこぼした。同僚がミスを擦り付けてきたことをボヤいただけだった。そしたら母は、学生時代に見たあの目でこう言った。
「アンタが疑われるようなことしたんでしょ?」
最大の味方であるはずの母は、私が学生の頃からこんな調子だ。時間を掛けて事細かに説明すれば理解してくれるかもしれない。けれど、学生時代に学んだのだ。何を言っても無駄だと。
苦しい時に簡単に手を払い除けられれば、聞く気すらないのかと感じるのは当たり前のはず。それをわかった上で言いのけるのだから、この人は本当に取り合う気がないのだと、諦めたのだ。
記憶を掘り返して言い合いをする気力も起きなかった。かさぶたをほじくり返して傷をさらけ出すぐらいなら、味方はいらないと思う癖ができたのだ。だから私は何も言わなかった。そして泣きじゃくる我が子をあやした。
出社して帰宅する、それが毎日のルーティン。代わり映えのしない日常に一筋の光が差したのは突然だった。あまり話したことのなかった同僚との何気ない会話。それが酷く心地よかったのだ。ただ話すだけ、駆け引きも腹の探り合いもない普通の会話。同い年ぐらいの男性だったが、年甲斐もなく恋をしてしまった。人間不信と言っていた自分は何だったのか、会社に行くのが楽しみだったし、たまにしか会えない焦れた関係もいいスパイスになっていた。
いつものようにエレベーターに乗り込むと、閉まりかけのドアに手が掛かり、入ってきたのはその男性だった。いつものように会話をする。寒いですねとか、今日は暖かい方ですよとか。目的階に辿り着いた私がエレベーターを降りようとすると、もし良かったらと食事に誘ってくれた。
じゃあ連絡先を交換しましょうと提案して、今度の日曜日にと約束した。この時初めて青春の甘酸っぱさを感じた気がする。
待ち遠しい日曜日、母に子供を預けて出掛けた。電車に乗って一駅先にある庶民的な居酒屋に向かった。私がここを指定したとき、彼は少しだけ驚いていた。僕は嬉しいですけど、本当にいいんですか?と。私がもっと小洒落た店に行っていると思ったらしい。
確かに行ったことはある。でもそれは、昔の男の見栄であって私の望みではなかった。
彼との楽しい時間はあっという間に過ぎて、名残惜しかった。けれど、あまり強引すぎるのも良くないだろう。軽い女だと思われたくなかったし、逆に重すぎるとも思われたくなかったから、何とか笑顔で帰った。彼はお酒が強くて、私はかなり酔っ払っていた。そのせいで駅に辿り着く前に躓いてしまった。あんなに送るよと言っていたのに、私が頑なに拒んだから、彼は引き下がってくれた。そこはもっと粘っていいのに、今度言ってみよう。
そう考えていると、妙な音が上から聞こえてきた。バサバサとはためくような音が。
ドンッ!
その衝撃音は覚えている。地面に頭を強打したことも覚えている。そして体が動かなくなり、意識が薄れ、震えていたことも朧気に残っている。
目が覚めると草原の中にいた。夢かと思ったけれど、いやにリアルな世界だ。青い香りと強い土の匂い、そしてぼやけた視界。
そこで気付いたのは視線が低いこと。体を起こそうとしても、うまく言うことを聞いてくれない。歩いてみるが、鼻からつんのめってしまう。おかしい、なにか変だ。
そう思って上に目を向けた。あの時何かが降ってきた上を見ると、そこには巨大な木々と大きな青空が広がっていた。ビル一つない、まったく知らない土地。
酔っ払って知らないところに来たのか?それとも事件に巻き込まれた?徐々に鼓動が早まり、手の先からすーっと冷えていく。
落ち着け落ち着けと頭の中で何度も唱えて、冷静になろうと努めた。こういうときにパニックになると、取り返しの付かない結果を巻き起こすからだ。冷えた手を温めるため口元に近づけるがどうにも届かない。体のバランスが取れなくなる。服に引っかかっているのかと思い、首をひねりながらその手を見た。そして、ずっとあった違和感の正体が判明した。
――手が私の手じゃない。
赤ちゃんのように柔らかそうなピンク色の手、そして細い爪もある。腹のあたりには動物のようなグレーの毛が生えている。
何これ……
呆然とするしかなかった。
※※※
極限まで鍛えた
血で地面がぬかるみ、死体で足場が悪くなる中キリキリと攻防を続けていた。囲まれていないのが幸いだが、広範囲に展開すると、上空からの落石に対応できない。防護壁が薄くなってしまうからだ。
『
拡声器で指示を出すかのように、甲高い声が森に氾濫した。
魔力の波を感じる。全身に生ぬるい蜘蛛の巣が掛かったような悪意ある魔力。間違いない、今の声が魔王だ。
オーク達はぐるりと目の色を変え、みちみちと筋肉を隆起させながら突進してきた。格段に向上したスピード、まだ目で追える。格段に向上した攻撃力、俺よりは数段弱い。格段に向上した痛みへの耐性、胴を真っ二つにしようが俺の足首を掴んで離さない。
「閣下!」
まずいっ!
眼前には木の槍が迫っていた。するとアマネの声が俺を呼ぶ。ダメだ、自分の敵に集中するんだ!声に出す余裕はなかった。側で戦っていたアマネがここへ顔を向けた時、鋭利に研がれた石の剣が彼女へ迫っていた。
アマネ……
「ぐふっ」
「がはっ」
槍が俺の右胸を貫いた。そしてアマネの右肩は中途半端に刃が入り、ぱっくりと裂け腕が垂れ下がる。
鼻息荒く続々とやってくるオーク。ヤバい、勝てない。そう思った時だった。
『千刃影斬り』
俺に槍を刺しアマネの肩を裂いたオークは瞬く間に細切れになった。襲い来る後続たちもサイコロのように成形された細切れ肉へと変貌を遂げていく。
これは、この技は!
「本気を出すのは死んだ後か?」
「すまん、
「フンッ」
ウォルシャー男爵家の嫡男、兄弟であり親友だ。つんけんした態度だが、根は優しい。常に俺の側にいて、時には敵の情報を探るためスパイになってくれる。そしてこの技、彼らしい暗殺だ。
影を移動する能力は扱いが難しい。瞬間的な魔力操作と継続的な魔力調整を行いつつ、自分が望む影を思い描き身を守りながら移動する必要があるからだ。一歩間違えれば影に埋もれてしまい、地上に姿を現すことなく消えてしまう。危険かつ繊細な能力を
頼もしくもあり、尖った態度も可愛い兄だ。
「ぼーっとするな」
「おお、悪い。さあて、うようよ出てくるな」
血走った目のオーク達が跳梁し強烈な鉄の臭いが森に跋扈する。
負傷者も少しずつ増えているようだ。右胸に刺さった槍は浅かった。しかし腕を動かすたびに筋肉が悲鳴を上げる。右利きの俺には致命傷に近い傷だった。そしてこの足場の悪さ、徐々に囲まれつつある陣容。形勢は明らかに傾き始めている。だからこそ
「どうする?」
「一旦引くべきだ。見えない敵もいる中でこれ以上は危険すぎる」
見えない敵。
オークの集団が探知に掛かる前からうろついていた。そしてA級冒険者のジョンを瞬殺。するとオーク達がやってきた。なぜ攻撃してこないんだ?何か理由が、攻撃できない理由があるのではないか?
ワイバーンは同士討ちを避けるため、岩の投下を最小限に留めいてた。しかし魔王の声が響いたあとから一気に攻勢を強めている。そしてどこにも姿が見えないブラックドッグ達。確かに危険な状況だが奥の手がないわけでもない。あまり使いたくは無かったが……
「オーク達は任せろ」
怪訝な表情で俺を見つめる
エルフ達が住む森でゴブリン達退治をした時に手に入れた
壊滅したエルフの森を直すのに、剣の魔力を使ったから、今は魔力を欲しているだろう。俺の魔力で持つかどうか……
空中に手を突っ込み剣を掴んだ。
ぐっ、急速に魔力が吸い上げられていく。
軽い目眩を覚えながらも何とか引っ張り出したその剣は妖しげに黒く輝いている。
どうやらこの辺りに漂うオーク達の魔力も吸い上げているらしい。俺の仲間かどうかを峻別してくれているようで、冒険者達はへたる様子もない。
こいつは、ちょっとキツイな。なかなか大食らいだ。思わず膝を付いてしまう。
「ダニエル!」
「ダニー!」
「閣下!」
駆け寄ってきたミカは心配そうな顔で俺を覗き込んでくる。
「大丈夫だ、朝ごはんを抜いたからふらついただけだ」
「――それは!ダニーそれは今、空っぽよ。あなた一人で賄える魔力量じゃないわ」
「見てみろ、オーク達もへばってやがる。アイツらも協力してくれるから問題ないさ。殺れミカ、チャンスだ」
「でも……」
「頼む」
ポンと頭に手を置くと少しだけ驚いていた。頬を赤くしながらも、俺を説得できない不甲斐なさに視線を落としている。なかなか動かないところを見ると、まだ説得する気でいるらしい。本当に頑固だ。こんな状況で俺のために……
「じゃあ皆からも少し貰おうかな」
「う、うん!みんないいよね!?」
おう!とか当たりめえよとか、どうやら話を聞かれていたらしい。そりゃそうか。急にへたり込むオークたちを見れば、何が起きているのか探るはずだ。そして彼らは一流の冒険者、何が原因か、そんなのすぐに見抜かれる。
「みんなありがとう」
白と黒に混じり合う光が剣から溢れる。元々エルフの森の全てを修復できる程の魔力を蓄えていた。膨大な量だ。欲張りな剣だが、みんなの協力があれば……
突然光が消えた。薄っすらと剣身から蒸気のようなものが揺らいでいる。たった今魔力の充填が完了したのだ。
『
魔王!今の声は、なるほど。この魔力を気取ったのか。いくら防御を固めても意味がない。この剣はただの生物には抗えない程の力を秘めているのだから。
俺は言葉にならない雄叫びとともに剣を振り抜いた。
立ち上がりかけたオーク達に向かって斬撃が飛んでいく。彼らを一掃できる程に分厚い斬撃が地面を抉りながらオークにぶつかった。ミキサーにかけられたような挽き肉になっていく。このまま森の奥までぶち抜いてオークを殲滅し魔王を引きずり出せれば最高だ。まあ無理だろうな。だとしたら次の相手は誰だ?ワイバーンかブラックドッグか、それとも正体不明の見えざる敵か。
そんなことを考えていると、斬撃に違和感を覚えた。遠くに行けば斬撃が小さくなるのも分かる。だが何かおかしい。速度が落ちているというより、止められている?斬撃がどんどん縮小している?一体何が起きているんだ!
※※※
はい、俺です。てへっ。
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