六、揺るがぬ誓いと、秘めた想い。
遠い昔、共に誓い合った夢。
怖いものは何もなかった。迷いも、憂いもなく、ただ真っすぐに進んで行けばそれでよかった。神と名の付く者として、すべきことはひとつ。
「私は、この地に生きるすべての者を救うために、この力を使いたい」
「では私は、私の大切な友たちのために、この力を揮おう」
「君は、どうしたい? どんな神になりたいんだ?」
「私は······、」
そんなふたりの背中を見つめ、
世話になっている師が同じ、というだけで親しくしてもらっている身である自分には、ふたりのような壮大な目標などあるはずもない。
花神である
しかしその力は、春や夏に、穀物、鳥、花、木などの万物に生長を齎す特別なもの。いつも笑顔で優しく穏やかな
そんなふたりの間に、後ろから勢いよく飛び込むように突進してきて、
「私、ふたりのことが大好きです!」
「は?」
「うん?」
ふたりはほぼ同時に首を傾げた。
そんな惚けているふたりをよそに、間に挟まって絡めた両腕をきゅっと強く抱いて、
「だから私は、この手の届く場所、この腕に抱えられるものを守ります! だって
そう言って、ね? 良い考えだと思いませんか? と訊ねてくる。
その言葉に、ふたりは
「それで? 争いを嫌う君が、どうやって私たちを守るんだ?」
言って、
本当は絡められた腕と一緒に、胸の奥がじんわりとあたたかくて、その感情を誤魔化すためにそんな言葉を紡ぐしかなかったのだが····。
「うーん。言われてみれば確かにそうですね······どうしましょう?」
その問いに対して
「君は変わらずに、ずっとそのままでいてくれれば、私はいいと思うが?」
「······まあ、そうだな。君はそのままで、いい。余計なことは考えずに、いつもその笑みを私たちに見せてくれれば、それでいい」
顔を背けて右手で口元を覆い、
「ではお言葉に甘えて、そうすることにします」
今だって、絡められたままの腕に意識がいき、まったく落ち着かないのだ。
そういう意味では、
******
その数十年後、永きに亘る天界の神々の争いに、終止符が打たれた。
三人で集まることはほとんどなくなってしまったが、同じ蓬莱山にいる
そして天帝となった
ある日、天界の上部で開かれた宴の席で舞う、
その感情に蓋をして、数多いる神のひとりとして見つめるしかない。
"
一枚の花びらがひらりと盃の中で舞い、沈む。
近くにいるはずなのに、今は遠い。伸ばせば手が届くはずなのに、伸ばすことすら叶わない。それは今も昔も同じ。
「
名を呼ぶ、穏やかで優しい声音。
夢の中でその名を呼ぶ、君に逢った。
「必ず、君の潔白を証明する。そして再び、"花神"として君を天界に迎い入れる。君は、それを望まないかもしれないが」
何度も。
忘れないように、夢の中で君を想う。
名を呼んでもらう。
あの日の誓いが、揺るがないように。
何度も。
何度も。
伸ばした手を、下ろす。
夢の中の君の幻影にさえ触れるのを躊躇う、臆病者の自分。
あの時、君に本当の想いを伝えていたなら、君はこの手を取ってくれたのだろうか? 今も離れずに傍にいてくれたのだろうか? 彼の者によって追放された後、天界に戻って来て欲しいと告げた時、答えは変わっていたのだろうか?
「
自分を嘲笑うかのように口元を歪め、天帝は瞼を閉じる。
転がりだした石は、もはや止まることはない。
ずっと、この時を待っていた。
数百年という永い時を経て、今、固く閉ざされていた禁断の扉が、ゆっくりと開き出す――――。
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