四、いつも、ありがとうございます。
「あの時、できなかったから、」
と、悲し気に言われてしまったら、誰も駄目だとは言えないだろう。
昨日降った雪で、骸も、それを染めている赤も覆われていて、それでも飛び散った肉片や血飛沫は隠せない。悲痛に歪んだ顔も、まるでこちらを見て怯えているかのようだ。
凝固している骸に触れようとしたその時、ふたつの光の玉が、突如目の前に現れた。それは弾け飛ぶように強烈な光を放つと、人の形を成した。
「俺たちが追ってる奴が関わってるかもしれないっていうのは、今回こそはどうやら本当らしいな!」
「うるさい、黙って」
黒装束を纏った青年と、白装束を纏った少年が、骸を避けるように地面に降り立つ。
姿を取るなり騒ぎ立てる黒装束の青年に、間髪入れずに白装束の少年が牽制する。青年に対して少年は頭ふたつ分は背が低く、その表情も真逆だ。
「誰? この
地面に膝を付いていた
「
少年にはいつも通りの
「なんであんたがここに? 悲惨な姿の骸を眺める趣味でもあるのかよ」
「
「なんでお前に指図されないといけないんだ? 俺がお前になにかしたか? 別になんにもしてないだろう? その前に突っ込むところがあるだろうがっ」
「こいつ、化身だぞ。なんで精霊が地仙と一緒にいるんだよ」
「あんたには関係のないことだよ、」
「こいつ、今、俺の事
「品行が最低最悪の、黒竜様だろ?」
「どうやら死にたいようだな、」
ふたりが睨み合う中、
無表情だが、秀麗で美しい少年を見下ろし、思わず同じ目線まで腰を屈める。肩までの綺麗に切り揃えられた白髪と、瑪瑙色の瞳が特徴的な
「
「はい。昨日は不甲斐なくも倒れてしまったんですが、もう、大丈夫です。
「あの化身、まだ君に付きまとってるの? 君、僕たちにはひとりが好きとか言っておいて、結局そこの化身に絆されちゃったの?」
抑揚のない声だが、畳みかけるように問いかけてくる。ええっと、と
「それは······色々と、その、ありましてですね、ええっと、」
「色々ってなに?」
普段無口なのに、どうして今日に限って······と
「契約をしまして······私が天仙になる手助けをしてくれるそうです」
「別に、君は手助けなんてなくても、天仙にくらい簡単になれるでしょ?」
数年前に
「······あまりそこは触れないでください」
本当に困った顔をして、謝って来る
(ホントは、
こっちこそごめんね、と
屈んでいた
その頭が止まった時、
「あげる」
目を細めて、
真冬に花開く、梅に似たその黄色い花は、
「いつも、ありがとうございます」
そのやりとりに、
「はあ? お前、いつもそんなことやってんの!? いや、お前らのそいつに対する過剰な庇護欲は、一体何なんだっ!」
「は? 君のせいで
「それは、こいつがすることで、俺がすることじゃない! それに謝れば赦すって言ってやってんのに、いつまでも意地を張ってるこいつが馬鹿なんだっ」
途端、
前に、
今の
しかも、誰もそれを教えていないので、本人はまったく気付いていないらしい。つまり、その前の自分が他の四竜と同じく、櫻花を庇護していた過去さえ憶えていないのだ。
(なんだか面倒なひとだな····一回死んで流転する前、自分も同じことしてたってこと、誰か教えてあげなよ、俺は嫌だけど)
(······それ、
こそこそと
ふたりの可哀想なものでも見るような表情に、
「あ、あのぉ······? ふたりとも、そのくらいに、」
当の本人はまったく気にしておらず、へらへらと笑って間に入って来る。
そんな
「喚いてる暇があるなら、さっさとこの惨劇を起こした犯人でも捕まえてきなよ」
「言われなくてもそのつもりだ!」
「
三人はそれぞれお互いに牽制しながら、最後にはふんと同時に顔を背ける。
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