五、寝言は寝て言え!
それは、"ある存在"が関わっている案件だったが、その度に良い結果は得られず······。
これまでも何十回と空振りしていて、行ってみても何もないという事がずっと続いていただけに、今回は完全に"当たり"のようだ。
しかも運が良いのか悪いのか、
しかし、村に着いて目にしたのは、予想に反していつも通りの
自らも本体の分身であるため、その化身の本性はすぐに解った。
(あの白蛇······
唇を噛み、
この事を知ったら、
「あの白蛇野郎! 腹が立つ! なんならあの時、踏み潰しとけばよかったっ」
「
「なんだ? お前、あいつの味方じゃなかったのかよ。白蛇はお前の眷属でもあるだろう? 直属ではないにしろ、あっちの味方かと思った」
「別に。
先程とは打って変わって、
「え? 今、なんて言った? 弁財天の使い?」
「知らなかったの?」
やれやれと肩を竦めて、
(この禍々しい気配、まさか本当に、)
村からだいぶ距離が離れた場所にあるその森は、薄暗く、まだ昼前だというのに陰鬱としている。雪で覆われた地面を駆け、
「なんだ、この異様な気配」
今更真実を知り、だいぶ動揺していた
ギャーギャーと人のような声で鳴く、無数の鴉の声が急に頭上で響き渡ったかと思えば、一斉にバサバサと木々から逃げるように飛び去って行く姿を目にする。
それは気配に敏感な動物だからこそ、本能的ななにかがそうさせたのだろう。
「気を付けて、来るよ」
左右に散る形で、
それは赤黒い色をした触手で、地面にめり込んでいる先端は、大きな斧のような形をしていた。その破壊力は凄まじく、地面は亀裂が入り、大きく陥没していた。
「まさか、本当に"あれ"がここにいるのか!? あいつらは運が良かったな! あの地仙と白蛇には荷が重い相手だ」
「それが本当なら、僕たちはだいぶ運が悪いことになるよ、」
気配がどんどん近づいて来る。どうやら、噂は本当だったようだ。
「ふん。運が悪いって? 馬鹿を言うな、逆だろう? 天界が数百年手を焼いている、お尋ね者が相手なんだ。やっとその面が拝めるんだから、運が良いってことさ」
底知れない闇を纏ったその姿は、一体どれほどの人間を殺し、喰らった者であるかがすぐに解るほどだ。森の気配が一変するほどの重たい邪気に、神聖な竜であるふたりは吐き気を覚える。
先程まで強がりを言っていた
目の前に現れたのは、あの気色の悪い触手を操っていたとは思えないほど美しい容貌をした、
天界が長年追っていた、"
背中に垂らしたままの、長い黒髪。
血のように赤い瞳。
漆黒の外套を纏ったその者は、ふたりをその視界に捉えると、馬鹿にするような笑みを浮かべて口元を歪めた。
「
天界が追っているのだから、ありえない話でもないが。
(
まるで死人のように色のない肌。
その身体の周りに纏わりつくかのように、悍ましい黒い靄がぐるぐると廻っていた。
「まあ、いい。それより、あのひとはどこです? 贈り物を用意しておいたのですが、気に入ってもらえたでしょうか?」
それを聞いて、ふたりは察する。この
「それに、良い香りの花を喰らうはずが、なぜ生臭い竜がここに?」
「生臭くて悪かったな!」
「あいつを喰らうだと? 寝言は寝て言えっての! あいつの命は俺が握ってんだよ! お前みたいな奴に渡すわけないだろっ」
びしっと人差し指を突き付けて、
「
言って、
強張っていた感情が緩む。こんな時に
それくらい、この
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