二、仙人も木から落ちることだってある。
そして、この商隊が混合の商隊であることを知られないようにすること。
もちろん荷を運んでいる者たちも同様だ。彼らには、お互いに今回の荷を運ぶために用意された者たちだと伝えることで、混乱しないようにする。
夜の森は暗いし、お互いの顔など見ている場合ではないだろう。なぜなら、この森の中で二度に亘って商隊が襲われて以来、誰も怖がって近づこうとしなかった。
どうしても町に行かなければならない場合は、森は抜けずにわざわざ険しい路を選び、遠回りをして荷を運ぶようになっていた。
それくらい避けられているこの森を通り抜けるということは、ただの荷運びの商隊にとってどれだけの恐怖か!
しかも雇い兵もおらず、何の力もない自分たちになんて仕事をさせるんだ、とお互いの主を恨んでいる事だろう。
彼らの唯一の頼りは、先頭の者が手に持っている提灯、後は天で煌々と輝く満月の光のみ。びくびくがたがたしながら、たった十人の商隊は森を行く。
そんな商隊を見下ろしながら、高い木々の枝を軽々と飛び移っていく
(あのふたりの仕業でないとすれば、共倒れするのを目論む者が、犯人ということになります)
お互い疑心暗鬼に陥っており、それも犯人の狙い通りなのだろう。
そんなことを考えていると、下の方がなになら騒がしい。商隊は顔を隠した怪しい者たちによって、いつの間にか囲まれていた。
「お前たちにはなんの怨みもないが、ここで死んでもらう」
武器を手にした者たちは、何のためらいもなく商隊に詰め寄っていく。
刃を振り翳したその瞬間、
「あいたたたた······あ、えっと、どうもみなさん、こんばんは?」
突然上から落ちて来た仙人? のような恰好をした美しい青年に、その場にいた者たちが敵味方関係なく、一斉に怪訝そうな顔を向けて来た。
(おかしいなぁ······こんなはずじゃ)
あはは······と頬を掻いてその痛い視線に苦笑いを浮かべる。さらに先程まで穏やかだった闇空から、雪が降り始めた。いつもならこんな運の悪いことは起こらないのだが。
うーんと首を傾げている
「と、とにかく誰であろうとこの場から生きて帰すな! まずはこの怪しい奴を殺してからだっ」
そのまま真っすぐに突き立てられた先端が、
その瞬間、白い何かが荷台を中心にして、
「ひぃいいっ!? な、なんだっ! 白い布っ!? ち、違う、これは······っ」
「へ、蛇だぁっ!!」
その白い布? 帯? は自分たち以外の、まさに今襲いかかろうとしていた者たちにだけ巻き付き、十数人はいただろう怪しい者たちをあっという間に捕縛した。
その様子を荷台の上からぼんやりと眺めていた
もうなにがどう転がってこの状況になったのか、解る者がいたらぜひ教えて欲しいと思った。
それは商隊の者たちも同じで、自分たちを殺そうとしていた者たちが急に叫び出したかと思えば、なにかに縛られているような様子で地面を這いつくばり、蛇だのなんだの騒いでいるのだから、まったく状況がわからない。
「な、なにが起こっているんだ?」
商隊を率いていた男が提灯を掲げるが、男たちがなぜ怯えた顔でそこら中に転がっているのか、理解できなかった。
ただひとつはっきりと解ることと言えば、自分たちの大事な荷台の上に落ちて来た仙人が、術を使って今の状況を作り出しているのだろうという推測だけだった。
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