98
98
ゲドラさんの家を出た僕たちはタックが目星を付けていた宿へ移動し、確保した部屋でしばらく休むことにした。夕ご飯を食べるには少し時間が早いし、出歩くにしても行く当てがないから。
それに村に着いてからも動きっぱなしで、ひと息つきたかったということもある。
そして部屋に着いて早々、ミューリエが僕に話しかけてくる。いつになく深刻な顔をしていて、何か気になることでもありそうな感じだ。
「……アレス、ちょっといいか?」
「どうしたの?」
「さっきの神父なのだが、胡散臭く感じなかったか?」
「そうかな? 僕は普通の人だと思ったけど?」
「表面的な印象ではな。だが、腹の中では私たちのことをあまり歓迎していなかったように感じた」
「えっ?」
「もしアンデッド騒ぎで苦労しているなら、私たちが手助けを申し出た時点で喜んだり安堵したりするんじゃないのか? 神父のほかに協力者はいないようだったしな」
それを聞き、僕はハッとした。
確かにミューリエの言う通りだ。それに思い返してみれば、なんとなくだけど僕たちを遠ざけようとしていた雰囲気もあったような気がする。
「実はオイラもちょっとおかしいなって感じたんだよな。ほかにも気になる点がある」
直後、椅子の背もたれに寄りかかりながらタックも話に入ってくる。普段は陽気な彼も今はクールな真面目モードだ。
「タック、まだ何かあるの?」
「あぁ。タイミングが良すぎないか? アンデッドが現れたら、狙いすましたように巡回神父がやってくるなんてさ。そしてあの護符。1枚の金額が法外な上、村に貼ってあった枚数を考えればあの神父はかなり儲けているはずだぞ」
「ッ!? ゲドラさんがお金儲けのためにアンデッド騒ぎを起こしているってことっ? 信じられないよっ!」
「……落ち着け。あくまでもオイラの推測だ。証拠は何もない」
まるで僕をたしなめるかのように、静かな中にも語気を強めてタックは言い放った。
その反応を目の当たりにした瞬間、僕は『しまった!』と心の中で猛省する。だってタックは何も悪くないのに、つい苛ついてしまったから。
やっぱりまだまだ未熟だな、僕も……。
「ちなみに結果論だが、護符を1枚しか買わなくて正解だったかもな。アレスが持っている護符、何の効力もないようにオイラは感じる」
「だから私は『紙切れ』だと言っただろう」
横から呆れるように言い放つミューリエ。それに対してタックはポリポリと頭を指で掻く。
「ははは、その点は素直に謝るぜ。素直にな。オイラは誰かさんと違って捻くれてないからな」
「どの口が言うか……まったく……。ところでアレスよ、その
「うん。それは構わないけど……」
僕はポケットの中から護符を取り出し、ミューリエに手渡した。
でも紙切れだというなら、どうして彼女は護符を貸してくれなんて言うのだろう? 腑に落ちなくて僕は首を傾げる。
……まぁ、きっと詳しく調べてみるとかそんなところかな。考えても分からないから、そういうことにしておこう。
「それとエルフの小僧、貴様は夜目が利くだろう?」
「まぁな。エルフ族の能力のひとつだからな。新月の夜でも洞窟の中でも、周りがバッチリ見えるぞ」
「今夜、私とアレスは神父の見回りに同行することにする。貴様はヤツに気付かれないように、どこかから観察していてくれ」
「なる~♪ それでおかしな点がないかをチェックするんだな? まっ、ミューリエがそこまでオイラを頼りにしてくれてるのなら聞いてやるぜ」
「適材適所というだけだ。勘違いするな、バカもの」
ミューリエは不満を漏らしたものの、そこにいつものようなトゲを僕は感じなかった。むしろ照れ隠しでツンツンしているかのような雰囲気。なにより初めて同じ目的に向かって動いているかのような一体感を覚える。
ふたりの心の距離が少しは縮まってきているのだとすれば嬉しい。
「アレスはアンデッドに遭遇したら、例の力が通じるかどうか試してみろ。せっかくの機会だしな。もし通用しなかったとしても、護符があれば襲ってこないはずだから心配はなかろう。万が一の時は私がフォローする」
「分かった!」
こうして僕たちはミューリエの立てた作戦を実行することにした。
ただ、僕とミューリエはゲドラさんの家へ行く前に、村の出入口付近にある石柱のところへ立ち寄ることにする。宿を出た直後、彼女がどうしても先にそちらへ行っておきたいと言うから。
そしてその場所へ再び到着すると、石柱は依然として異様な雰囲気を漂わせながら佇んでいる。やっぱり何度見ても嫌な気配がする。
「ミューリエ、この石柱をどうするの? もっと詳しく調べるとか?」
「調べる必要はない。今までに得た情報から考えると、おそらくこれはアンデッド騒ぎを起こしている側に関係がある物の可能性が高いだろう」
「そういえば、村長様もゲドラさんも石柱に心当たりはなさそうだったもんね――って、そっか! ミューリエはそれを確かめるために、会話の中でそれとなくあのふたりに探りを入れたんだね?」
「そういうことだ。それにもし結界や
「デメリット?」
「増幅された黄泉の力によってアンデッドの力が強まるということだ。で、あればこれは破壊しておくべきだ」
そう言うと、ミューリエは剣を抜いて構え、何かの
すると剣身は静かに黒い炎を放ち始め、見ているだけで寒気がするような畏怖と迫力を漂わせる。そしてカッと目を見開いた彼女は剣を振り上げ、石柱を一刀両断。周囲には粉々に砕けた石片が飛び散ったのだった。
◆
その後、僕たちはゲドラさんのところへ赴き、見回りを一緒にさせてもらえないかと提案した。さっき家を訪れてからそんなに時間が経たずにまたやってきたから、彼は少し当惑しているみたいだけど。
「えっ? 私と一緒にアレスさんとミューリエさんも今夜の見回りを?」
「その通りだ。もうひとりのエルフの小僧は護符がないからなのか、土壇場で怖じ気づきおってな。使い物にならんので宿に置いてきた」
…………。
横で聞いていて、僕は思わず顔が引きつった。だってタックが聞いていたら絶対に怒ると思ったから。本人がこの場にいないからって、ミューリエは言いたい放題だ。
宿でのあの一体感は僕の幻覚だったのだろうか……クスン。
「どうだ、神父よ? それとも私たちが一緒では何か問題でもあるか?」
「いえ、とんでもない! むしろ心強いです! ぜひお願いいたします。では、日没の時刻にラート共和国方面の出入口で待ち合わせましょう」
ゲドラさんはにこやかに微笑んでいた。
でもさっきミューリエやタックから彼の疑わしさを聞いたからか、その顔がなんだか作ったもののように僕は感じてしまっている。そんな自分がちょっとだけ嫌になる。
だってこんなに優しそうな人がみんなを騙すなんて考えたくないから。ゲドラさんを信じたいから。事実をハッキリさせるためにも、今夜の見回りは頑張らないと。
――やがて闇が世界を包み込み始めたころ、いよいよ僕たちは村の見回りに出る。
空には無数の星がきらめき、天頂には満月が強く輝いている。時折、星も流れていて願い事でもしたくなる気分だ。せめてこんな夜は静かに星を眺めていたい。
何事もなく朝になってくれればいいんだけれど……。
TRUE END 8-2
※こちらが正史ルートです。『第9幕:驚天動地! アンデッド騒ぎの真実(仮題)』は、この続きから始まります。
◆
※アイテム『勇気の欠片・8』『黄泉の石片』を手に入れました。メモをしておくと今後、役に立つかもしれません。
◆
引き続き、第9幕をご覧になる方はこちら(第9幕のパラグラフ『1』へ移動します)。
※公開までしばらくお待ちください。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます