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 僕はまずタックから干しキノコをもらうことにした。薬効成分が含まれていて疲れが取れるなら、今の僕には何よりもありがたい。


 以前と比べて体力が付いたとはいえ、まだまだ心許ないからなぁ……。


 それにずっと歩いてきたせいか、ふくらはぎもちょっと痛い。このままだと痙攣して、しばらく歩けなくなってしまうかもしれない。さすがにそれはふたりに多大な迷惑がかかるから、避けなければならない。


「それじゃ、干しキノコからもらおうかな」


「――おぅっ、そうしろそうしろっ! いっぱいあるから、足りなくなったらオイラに遠慮なく言ってくれ!」


 タックは小躍りしながら頷き、持っていた干しキノコを僕に握らせた。


 ただ、その直後のこと、背筋に冷たいものが走ると同時に得も言われぬ威圧感が僕の全身を締め付ける。


 チラリと横へ視線を向けると、そこには満面の笑みを浮かべたミューリエ。もちろん、その目だけは全然笑っていない。しかもよく見ると、干し肉とそれを握る手がかすかに震えている。そしてその干し肉には程なく親指の形の穴が開いて……。


 それを目の当たりにした瞬間、僕の両足と奥歯が小刻みに震え始めた。しかも気を抜くとこの場で……その……おしっこを漏らしちゃいそうな気配までしてくる。


「アレスよ、どうしたのだ? そんなに震えて? 今はそんなに寒くなかろう。もし寒いのなら、その怪しいキノコと一緒に炎の魔法で燃やしてやろうか? 髪の毛の1本すらも完全に灰になるまでな♪」


 ミューリエの手のひらには激しく猛る業火の塊が生まれ、干し肉は一瞬で燃え尽きた。その場に残っているのは焦げ臭さと未だ渦巻く炎の熱風――。


 僕は体がすくみ、思わず『ヒッ!』と小さく悲鳴を上げてしまう。



 ――その時だった。


 即座にタックが間に入り、クールな中にも強い意志の光を瞳に灯してミューリエを睨み付ける。ついさっきまでのおちゃらけた雰囲気は一切感じられない。


「ミューリエ、冗談はそれくらいにしておけ。それともそれがテメェの本心か? どさくさに紛れてアレスに危害を加えようとするなら、オイラも黙ってねぇぞ?」


「…………」


「…………」


 無言のまま睨み合うミューリエとタック。ただ、しばらくしてミューリエがフッと小さく息をつき、手のひらの炎を消滅させる。


 そして彼女は神妙な面持ちになり、僕に向かって静かに頭を下げる。


「……許せ、アレス。戯れにしては少し度が過ぎたようだ」


「あ、うん……。気にしないで。僕、怒ってないから」


 それを聞くとミューリエはいつも通りの穏やかな瞳になり、安堵している様子だった。その春風のような優しい表情を見ていると、僕の心はなんだか熱くなってくる。


 一方、その直後にタックに対して見せた彼女の表情は、素っ気なくて冷ややかなもの。さすがに本気の敵意は持っていないみたいだけど、好意も全く感じられない。


「念のため、エルフの小僧に言っておく。私には断じてアレスに危害を加える気持ちはない。それだけは誤解するな」


「オイラだって分かってるよ、それくらい。短い間だがお前の言動を見てきているからな。そもそもその気があるなら、とっくの昔にアレスはこの世から消されてるだろうよ」


「私は貴様のそういう意地の悪さを遠回しに咎めているのだ。バカもの」


「ケッケッケ♪」


 牽制し合っている感じで打ち解けるには程遠い空気だけど、ふたりとも冷静に会話してくれているようだった。最悪の状態を脱し、ひとまずは停戦状態へ落ち着いたことに僕はちょっとだけ安堵する。


 その後、僕たちはその場で休憩しつつ、水分やエネルギーを補給したのだった。



 →152へ

https://kakuyomu.jp/works/16817330652935815684/episodes/16817330652939964477

 

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