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庭には誰もいないようなので門を通って屋敷のドアのところまで歩いていき、そこに付いている
「ごめんくださーい!」
しばらくすると屋敷の中から返事があり、年配の男性が現れる。綺麗な身なりと鋭い眼光、それにどことなく貫禄と落ち着きがあることから、おそらくこの人が村長様なのだろう。
彼は僕たちを軽く見やってから話しかけてくる。
「どちらさまでしょうか? 我が家に何かご用ですかな?」
「僕はアレス、彼女はミューリエと申します。旅をしている者です。あなたが村長様ですか?」
「そうですが……」
「村にアンデッドが出没するという噂を耳にしまして、何か協力できないかと思ってやって参りました。よろしければ詳しいお話を聞かせていただけませんか?」
「場合によってはアンデッドどもを退治してやることが出来るかもしれん。私は腕に自信があるのでな。アレスも見た目は気弱そうだが、そこそこ強いぞ。それとほかにオマケみたいな同行者も居るのだが、ヤツもすばしっこいから囮くらいにはなるだろう」
間髪を入れず、僕に続いてミューリエも言葉を付け加えてくれた。
彼女は僕と違って身のこなしも雰囲気も練度のある冒険者って感じがあるから、話に説得力がある。村長様も素直に受け取ってくれているみたい。
ただ、僕のことはともかく、タックは酷い言われようだなぁと可哀想になってくる。本人がこの場にいたら絶対に怒るんじゃないかな。今ごろどこかでクシャミをしていなければいいけど。
「それは助かります。ですがここへいらっしゃる間にご覧になったかもしれませんが、この村は大して裕福ではありません。解決していただいても御礼は……」
「気にするな。これは私たちが勝手に申し出たことだ。報酬など期待しておらん」
「そうですか。では、中へどうぞ」
村長様は僕たちを家の奥に通してくれた。そしてリビングの椅子に座り、お茶を飲みながら話を聞かせてもらえることとなる。
せっかくなので、僕はまずお茶を一口。するとそのお茶はいつもミューリエが入れてくれるものと比べると芳醇な香りがして、味はやや濃い。もちろん、どちらが上かという話じゃなくて、どちらも美味しい。個性が違うだけという感じかな。
直後、村長様はアンデッド騒ぎについて話を始める。
「数週間前の晩ですが、ヤツらが急に現れたのです。それから数日おきに現れては村人を襲い、もう何人も犠牲になっておりまして……」
「ふむ、どんなモンスターだ?」
胸の前で腕組みをして村長様に問いかけるミューリエ。表情は真剣そのものだ。
「詳しくは知りませんが、目撃した村民の話によるとゾンビのようなヤツだったそうです」
「死因は外傷か? それとも毒か何かか?」
「どちらのケースもありますが、多くの者は毒にやられたようです。亡骸を確認しましたが、触れられたであろう部分の皮膚が赤黒く変色しておりました」
「毒を使う相手となると、厄介だな……」
「幸い、数日ほど前に旅の神父様が偶然にも我が村へお立ち寄りになりまして、護符や浄化の奇跡でお助けいただいております」
それを聞くと、ミューリエは興味津々で身を少し前へ乗り出す。
「ほぅ? その神父はまだこの村にいるのか?」
「はい。私がお願いをして、ご滞在いただいております。護符を作ったり汚れを祓ったり、毎日お忙しいようです。この屋敷や村の家々に貼られている護符のほとんどは、その神父様がお作りになったものです」
「なるほどな。で、その神父はどこに滞在しているのだ?」
「村はずれの空き家を私が提供しまして、そちらをお使いいただいております――」
僕たちはその後も村長様から色々と情報を聞き出していった。騒ぎが始まってからまぁまぁ時間が経っていることもあって、分かっていることもそれなりに多いみたいだ。
神父さんの護符など、被害を減らせる対策も村民たちの間に浸透しているようだし。
それでも根本的な解決に至っていないのだから、それはそれでよろしくないとは思うけど。
そして話が一段落したところでミューリエは何気なく切り出す。
「ところで村長、この村には昔から伝わる道祖神や結界のようなものは存在しているか?」
「いえ、心当たりはありません」
「そうか、分かった」
ミューリエが訊ねたのは、きっと僕が村の出入口付近で見つけた石柱のことだろう。
村長様も知らないとなると、置かれたのは最近ということになるのかもしれない。だとすると、ますますあれが何なのかが気になる。石の性質を考えると、意味もなく置いてあるとは考えにくいからなぁ。
「では、アレス。これから私たちも神父に会いにいこう。護符をもらっておけば役に立つだろうしな」
「うん、そうだね」
そう僕が返事をすると、村長様はポンと軽く手を打った。
「でしたら紹介状を書いて差し上げましょう。安く護符を提供していただけるはずです。ここだけの話、定価ではちと値が張りますのでな」
「えっ? 護符って無償で配っているわけではないんですかっ?」
目を丸くしながら僕が問いかけると、村長様は静かに頷く。
「お布施という形でいくらか納める必要がございます。基本は護符1枚につき3万ルバーなのですが、紹介状を持っていけば1万ルバーでお譲りいただけるでしょう」
「なっ!? いっ、1万ルバーっ!?」
僕は大きく息を呑んだ。だって護符の値段が想像以上に高かったから。
1万ルバーあれば、僕たち3人が並の宿屋に3日は泊まれる金額だ。もし野宿して食事代だけ使う場合なら1週間は過ごせるだろう。だからハッキリ言って、この出費は痛い。
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https://kakuyomu.jp/works/16817330652935815684/episodes/16817330652938345624
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