第1話(3)翼で羽ばたく

「ふっ……今日もこの片翼の翼は美しい。我ながら惚れ惚れとする……」


「なっ、なんだと……」


「そ、それは……」


「マ、マジかよ……」


「か、片翼の翼……?」


 少年たちと照美が驚いた目で日光を見つめる。日光が髪をかき上げながら笑う。


「ふっ、驚きのあまり言葉もろくに出てこないようだな」


「くっ……」


「今度はこちらの番だ!」


 日光が羽ばたく。少年たちと照美が驚く。


「と、飛んだ⁉」


「に、日光君、本当は凄い能力の持ち主なの⁉」


「少しばかり強風が起こせる程度で、『空の支配者』たる俺を凌駕することが出来るかな⁉」


「くっ⁉ ん?」


 日光がすぐさま着地する。照美が首を傾げる。


「……え?」


「ふっ……俺が空を飛べるのは……一回につき約2秒ほどだ!」


「⁉ こ、これが本当の『宙二秒』……って、やっぱり微妙な能力じゃない!」


 照美が声を上げる。リーダー格の少年が叫ぶ。


「一瞬ちょっと焦ったじゃねえか、この野郎!」


「うおっ⁉」


 日光が強風を受け、校舎にぶつかる。照美が声を上げる。


「日光君!」


「つ、翼が生えた分、多く風を受けてしまったな……」


「馬鹿なの⁉」


「ば、馬鹿とはなんだ!」


「思ったことを正直に言ったまでよ!」


「そういう正直さが相手を傷つけることもあるんだぞ!」


「時には正直な物言いも必要よ!」


 日光と照美が言い争いを始める。少年たちが困惑する。


「な、なあ、どうする……?」


「俺らをほったらかしにして盛り上がっているな……」


「ちっ……おい、お前ら!」


「なんだ!」


「今取り込み中よ!」


「ああん? 随分とナメた真似してくれんじゃねえか!」


「うおっ⁉」


「きゃあ⁉」


 リーダー格の少年が右手を思い切り振るい、先ほどまでよりも強い風が日光と照美を襲う。日光はさらに壁に押し付けられ、照美は必死でスカートを抑える。


「そ、それでもめくれないスカートってなんだ⁉ 本当に鋼鉄で出来ているのか⁉」


「ど、どこを見ているのよ! 人のことは良いから、自分のことをなんとかしなさいよ!」


「おい、お前ら!」


「あ、ああ!」


「分かった!」


「行くぞ! あの高二の癖に中二病を拗らせた痛い奴から片付ける……そらあっ!」


「うらあっ!」


「おらあっ!」


「ぬおああっ⁉」


 強風に煽られて、日光の体は二階から三階の間あたりまで持ち上がってしまった。


「はっ、またそこら辺から落ちたら、今度は結構なケガを負うかもしれねえな~」


 リーダー格の少年が笑う。照美が抗議する。


「あなたたち! やりすぎよ!」


「売られたケンカを買ったまでっすよ……空のなんちゃらなら余裕でしょう?」


「ど、どうするつもり⁉」


「とりあえずこの吹き続ける風が急に止まったら……どうなりますかね?」


「なっ⁉ 馬鹿な真似は止めなさい!」


「能力者ならどうにかするでしょ? おい、お前ら!」


「ああ!」


「へへっ……」


 リーダー格の少年の号令に従い、全員がかざしていた右手を下ろす。強く吹いていた風がピタッと止まり、日光が落下を始める。


「む……」


「日光君! 危ないわ!」


「ふん、この程度造作もない!」


「え⁉」


「な、なんだ⁉」


 照美と少年たちが驚く。校舎に対して90度の体勢になった日光が、勢いよく校舎を駆け下り始めたからである。


「あ、あれも能力かよ⁉」


「い、いいや、どうせハッタリに決まっている!」


「ハッタリかどうかはこれで判断しろ!」


「日光君! 何か策が……!」


「と、止まらん~!」


 日光の情けない叫び声に照美はガクッとなる。リーダー格の少年は笑う。


「はははっ! 自分から地面に直撃しにいってりゃ世話無いぜ!」


「に、日光君! せめて受け身の体勢を!」


「必要ない!」


「必要ないって!」


「何故ならば!」


「がはっ……⁉」


「ぐはっ……⁉」


 次の瞬間、日光の両足が少年たちの顔面にピンポイントに着地した。


「ちょうどいい着地地点があったものでな……」


「なっ……どうやったんだ⁉」


 リーダー格の少年が驚きをあらわにする。日光が髪をかき上げながら答える。


「駆け下りる校舎を助走代わりにして、この片翼の翼で羽ばたいたまでだ……」


「そ、そんな……!」


「俺の能力の練度などにもよるが、2秒もあれば、結構な距離を飛行することが出来る……」


「む……」


「ぐ、ぐう……!」


「む、むう……!」


「お前ら!」


 哀れ日光に顔面を踏まれた二人の少年はその場に崩れ落ちた。あらためて地面に降り立った日光がリーダー格の少年の方に振り返る。


「『非行少年二人、飛行少年に恰好の踏み台にされる』……この学園に新聞部があるかどうかは知らんが、なかなか良い見出しになるんじゃないか?」


「ナメた口を利くんじゃねえ! そんなに飛びたきゃいくらでも飛ばしてやるよ!」


 リーダー格の少年が両手をかざす。強い風が日光に吹き付け、日光の体が再び持ち上がる。


「うおっと⁉ これは……ちょっとマズいな……おい友達!」


「え? わ、私のこと⁉」


 日光の呼びかけに対し、照美が驚く。


「他に誰がいる⁉ お前も能力者なんだろう! 助力をお願いしたい!」


「え~……」


「いや、え~じゃなくて!」


「分かったわよ! え、えっと……『なんとかなれンゴ!』」


「は⁉」


 いきなり訳の分からないことを叫んだ照美に日光は面食らう。

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