第1話(2)左眼は何色だ?

「な、なんだこいつ……」


 大柄な少年たちは戸惑いの目を日光に向ける。日光がビシっと指を差して口を開く。


「おいお前ら! くだらない行為はやめろ!」


「せ、先輩なんじゃねえか?」


「3階から飛んできたってことはもしかして2年か? やべえな……」


「へっ、大したことねえだろ」


 少年たちの中でもリーダー格と思われる少年が前に進み出る。


「お、おい……」


「マ、マズくねえか?」


 リーダー格の少年が振り返って笑う。


「ビビんなよ。このボロっちい校舎から出てきたってことはアレだろう?」


「あ、ああ……」


「それもそうか……」


 リーダー格の少年の言葉を聞き、他の少年たちも笑みを浮かべる。


「そうだよ、微妙な能力の持ち主ってことだろう? つまり……」


「む……」


「俺ら1年C組の、『超能力者』の敵じゃねえってことだよ!」


「ぐおっ!」


 リーダー格の少年が右手をかざすと、日光が後方に軽く吹き飛ばされて、転倒する。照美が声を上げる。


「日光君!」


「くっ、な、なんだ……?」


「はっ、これが俺の超能力、『強風』だよ」


「きょ、強風だと?」


「どうだ、ビビっただろう?」


 日光はゆっくりと立ち上がって呟く。


「……ふん、そよ風でも吹いたのかと思ったぞ」


「ああん?」


「大した能力ではないな」


「言ってくれるじゃねえか! おい、お前ら!」


「おう!」


「ああ!」


「うおっ⁉」


 リーダー格の少年の号令に従い、他の二人も右手をかざす。三方向から強風を喰らった日光は再び転倒する。リーダー格の少年が笑う。


「へへっ! どうよ、俺らの連携は?」


「ぐっ……」


「やめなさい! あなたたち!」


 照美が注意する。リーダー格の少年が視線を向ける。


「あん?」


「職員室に行って、先生を呼んでくるわよ! いくら1年生だからってやっていいことと悪いことがあるわ!」


「む……」


「能力の制御が上手く出来ていないその現状、撮影させてもらったわ!」


「え?」


「この映像を見れば、何らかの処分が下るでしょうね……『矯正施設』送りとか……」


「お、おい! やべえよ!」


「待て待て、そう慌てんなよ」


 リーダー格の少年が慌てる二人の仲間を落ち着かせる。その余裕に照美は首を捻る。


「なに……?」


「よく見ろよ、このお姉さん、結構いい女じゃねえか……」


「あ、あら……なかなか見る目はあるようね」


 照美は満更でもないというような反応を見せる。


「ちょうどいい。このお姉さんと遊んでもらおうぜ!」


「きゃあ! な、何をするのよ!」


 リーダー格の少年が右手をかざすと、軽い突風が吹き、照美のスカートがめくれそうになる。照美は慌てて、スカートの裾を抑える。リーダー格の少年が笑う。


「へっ、おいお前ら!」


「お、おう!」


「へへっ!」


 他の二人も右手を掲げ、三方向から風が吹く。スカートが今にもめくり上がりそうである。照美がスカートを抑えながら三人組を睨み付ける。


「や、やめなさい! 本気で怒るわよ……」


「そんな状態で一体何が出来るよ!」


「くっ……」


「待て!」


「!」


 皆が視線を向けた先には、眼帯を外し、学ランを脱ぎ捨て、赤いTシャツ姿になった日光の姿があった。リーダー格の少年が大声で笑う。


「なんだよ、パイセン、俺ら今、この美人のお姉さんに遊んでもらっているからさ」


「そうそう、空気読んでもらえる?」


「邪魔しないでくれよ~?」


「そういうわけには……」


「ほらあっ! もう少しであの鉄壁の守備を誇っていたスカートがめくれるぜ⁉」


「おお⁉」


 あろうことか日光もその様子を見物し始めた。照美が怒る。


「ちょっと! 日光君までなにやってんのよ! そこは助けに入る流れでしょう⁉」


「はっ! そ、そうだな。少し、いや、かなり残念だが……」


「本音がダダ漏れよ!」


「くっ、おい、おさげ女!」


 日光が照美の側に近づく。


「東照美よ!」


「そうだった東照美! 俺の左眼を見ろ!」


「ええっ⁉」


「いいから早く!」


「もう、なんなのよ! って、ええ⁉」


 照美が驚く、日光の左眼が緑色に光っていたからである。日光が問う。


「左眼は何色だった⁉」


「み、緑色よ!」


「そうか、今日は緑か!」


「今日はって……どういうことなの⁉」


「あらためて言うぞ! 東照美! 俺の『眷属』になれ!」


「あらためてイヤよ!」


「ぐっ! な、ならば、『同志』というのはどうだ!」


「志を同じくした覚えはないわ!」


「むうっ! ならば、『仲間』というのはどうだ!」


「高二なのに中二病気取りの奴と仲間とか思われたくないわ!」


「くっ……どうしてなかなか我儘だな!」


「あなたに言われたくないわ!」


「そ、それならば、えっと……その……」


 日光が恥ずかしそうな素振りを見せる。照美が呆れる。


「今更恥ずかしがることあるの⁉」


「え、ええーい! 東照美! お、俺の『友達』になれ!」


「……ああ、まあ、友達からなら……」


 照美はとりあえず頷く。日光が不敵な笑みを浮かべる。


「ふふっ! 理解者を得ることによって、俺の持つ能力は強化されるのだ!」


「⁉」


 日光の背中に片翼の大きな黒い翼が生える。

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