収拾と続行

「きゃあっ!」


「うわっ!?」


 近くにいた仲間たちが当惑する声が聞こえた。


 でも巨大な炎風の勢いに最も激しく向き合ったのは最も近くにいた私だった。


 平原全体を覆って父上の結界にまで到達するほどの魔力量。けれどその無分別な放出から意志や方向性は感じられなかった。ただ魔力を放つだけ。


 それが意味することは明確だった。


「トリア!!」


 灼熱の中心地に手を伸ばした。


 まるで地獄に手を伸ばしたような感覚。手先どころか、ひじまで瞬時に燃え尽きて消えた。けれど私が発揮できる最大出力の魔力量すべてを『再生』で投入し、何とか機能するだけの腕の形状を作り出した。その手はトリアの巨大な異形の腕に触れた。


 その瞬間、異形の腕が折れた。


「お姉様……!?」


「みんな! なんとか炎風を弱めてちょうだい……!」


 アルカが『万魔掌握』で複製した魔力とロベルが実体化させた幻影が炎風を少し弱くしてくれた。特性が役に立たないジェフィスは二人に魔力を加えた。依然として地獄のような炎だったけれど少しは進むことができた。


 ついにトリアの肩に手を当てて彼女の状態を確認した。


 ……意識がない。


 今のこれは攻撃ではない。ただ意識を失ったトリアの体から、彼女の手に負えない魔力が一気に放出されただけ。


 そもそもこの圧倒的な力はミッドレースのコアと邪毒獣の破片が彼女の体に融合し、彼女が強制的にハイレースの領域にまで触れて得たもの。


 コアが摘出された後も既に生成された魔力は残った。でも彼女にはこの力を制御する能力がない。


 それによって限界を超えてしまった力がそのまま体外に放出され、トリア自身まで燃やしていた。


「うっ……はああああ!」


 ――紫光技特性模写『獄炎』・『天風』二重複合


 ――天空流奥義〈五行陣・水〉


 炎風を制御するために『獄炎』と『天風』を模写し、魔力を強奪して集束する最高の奥義で炎風を強奪した。


 もちろんこの莫大な量を私が全部奪うことは不可能だ。けれど吸収した魔力を空に放出してから再び吸収することを繰り返して量を減らした。そこにアルカが『万魔掌握』の力で炎風を奪って減らし、父上の空間の門まで加勢した。


 何秒か、何分か、それとも何時間か。時間感覚が完全に麻痺したまま同じ行動だけを繰り返した末、トリアの炎風がついに静まった。


 もちろんまだ完全には収まっていない。けれど目立って炎風が減るやいなや父上の力が炎風を恐ろしく吸い込んだ。いや、今までもそうしていたけれど見当たらなかったんだろう。


 とにかくあっという間に炎風が消え、ついにトリアの姿を目で確認した。


 ひどい。服は跡形もなく消え、四肢も肥大化した異形の腕以外はすべて燃えて消えた。異形の腕さえも形が二割ほどしか残っていない。胴体と頭もめちゃくちゃに焼けた跡が歴然としていた。


 けれど心臓はまだ動いている。とても微弱ではあるけれど確かに生きている。


「よかっ……た」


 力なく手を伸ばして気づいた。私も両腕のひじの下が消えていた。残った部分も火傷を負ったならむしろ幸いで、完全に溶けてしまったり燃えて消えた部位もあった。


「お姉様! 酷い……!」


 アルカは走ってきて口を覆った。顔色が真っ青になっていたけれど、そんなアルカも炎風に耐えたせいでめちゃくちゃだった。


 私は半分は本気で、半分は安心させるために笑った。


「大丈、夫よ。再生は……できる、くッ、から」


「でも痛いじゃないですか!」


 アルカはそう言って治療系の魔力で私を治そうとした。けれど私は礼の代わりにあごでトリアを指差した。


 アルカは息をのんで、次は歯を食いしばって両手をそれぞれ私とトリアに伸ばした。同時に治療するということだ。


「アル……」


「大丈夫です。この程度は可能です」


 ……泣きそうな顔だから何とも言えない。


 それで黙って治療を待っていたけれど……途中でアルカが目を大きく開けた。


 それよりも私は少し早く気配を察知した。


「きゃっ!?」


 圧倒的な魔力の波。量で言えばトリアが最後に噴き出した炎風に匹敵するほどだ。けれどそれは破壊のための魔力ではなかった。


『支配』。


「ふむ。通じないか。なかなかな小娘だ」


 全力の魔力で『支配』を振り払うと、公爵が品定めのように言った。


 ちっ、こっちは今のそれのせいで頭痛が酷いけれど……!


 遠くで母上と戦い続けていた公爵だけど、こっちの状況を機に攻撃をかけてきたのだ。圧倒的な魔力で母上を瞬間的に押し出して作った隙間を利用して。


「支配できないなら後患を残しておくわけにはいかない」


 ――パロム式狂竜剣流奥義〈覇竜の進撃〉


 圧倒的な斬撃の嵐が起こった。


 私たちを見下すどころか全力の一撃。万全の私たちでさえちゃんと受け止めることができないほどの奥義だった。今の私たちなら少しの対抗もできない。


 でも大人しく死んでくれる気はない。


 魔力で臨時の義手を作って剣を持った。溶けてしまった足まで代替する時間はない。どうしても少しでも隙間を作らなきゃ。


 そんな覚悟で剣を持ち上げた私の前を白い制服の背中が塞がった。


「母上!?」


 公爵の牽制にしばらく押されていた母上がここまで神速で駆けつけたのだ。


 私たちを守るために。


「母上、ダメ……!」


 反射的に母上に向かって手を伸ばした。同時に公爵がそっと笑った。


 母上は斬撃の嵐の前で私たちを守るように立って――。




「まったく。敵も味方も私を過小評価するのは気持ちがひどく悪いわね」




 ――ベティスティア式天空流奥義〈天地を継ぐ巨木〉


 天と大地を結ぶ一本の線。


〈五行陣・木〉をより一層高い境地に引き上げた斬撃が公爵の嵐を切り裂いた。それだけでなく斬撃が公爵にまで届いた。公爵は魔力を集中した剣でそれを打ち返したけれど、魔力が衝突し公爵を後ろに押し出すほどすごい爆発が起きた。


 公爵が睨みつけて私たちが呆然として見つめる中で、母上は傲慢に立って鼻を鳴らした。


「いくら現役を退いて錆びたとしても、これほどの攻撃なんかで娘を失うほどじゃありませんもの」


―――――


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