最強の団長たち

「確かに君がするような考えだね」


 旦那様は呆れたような表情で言った。


 もちろん発想が非現実的だからではない。あんなアイディアを出せるという意味だから。


 この国の騎士は強い。その騎士たちの軍勢を単独で制圧できる個人なんて、この国でも数えるほどしかない。万夫長さえも普通単独で相手にできる騎士兵力は千夫長以下級で構成された一千から二千程度が限界であり、団長級さえも万夫長を含む軍勢を相手にしては勝算を断言できない。


 現役時代に比べて錆びた今の私さえも歴代の太陽騎士団長の中で誰よりも強いという自信があるし、旦那様は本気で全力を尽くせば私よりも強いということを。そんな私たちを一人で圧倒できると自信を持てる人間なんて、この国どころか全世界を探ってみてもたった一人しかいない。


 そのたった一人が目の前にいるというのが最大の問題なのだ。


「確かに貴方は傲慢になる資格がある人ですわ」


 前に進みながら全身に魔力を循環させる。


〈選別者〉の第二段階に到達した証拠である右目が眼光を噴き出し始め、左目も同じ光を放った。しかしその色は紫光技の紫色ではなかった。


 紫光技を超えた領域――天才であるテリアもまだ到達していない力を、騎士団長から栄転して以来初めて解放する。


 ――極光技〈選別者〉


 極光の魔力が鮮明に爆発した直後。私は眩しい閃光となってパロムへと突進した。


 ――天空流奥義〈万象世界五行陣・木〉


 ――狂竜剣流奥義〈竜王撃・尖竜〉


 斬撃と斬撃が衝突した。その余波は鋭く巨大な魔力波となってラグナス平原を二つに分ける傷痕を残した。


 先が見えない渓谷のように刻まれた大地の傷を、私とパロムは同時に跳び越えた。


「傲慢な選択ですわ!」


 時には魔力で作った足場を。時には砕け散る破片を。様々なものを踏んで跳躍しながら空中を走り回り、あらゆる方向からパロムに向かって剣を振り回した。


 空中機動と戦闘はもともと天空流の領域。それでもあえて足の踏み場のない大地の傷の上に跳躍してきたのは自信の象徴なのだろう。


 それだけの力を持った相手だということが分かるので、私の得意の戦場だといっても油断などしない。


 ――ベティスティア式天空流〈月光蔓延・無限月輪連雷〉


 無数の斬撃を放つ。パロムはそれを全部弾き出したけれど、弾き出された斬撃が彼の周りに巨大な魔力の輪を作った。輪から無数の斬撃が浴びせられた。斬撃そのものの力と極光技が模写した無数の特性の権能がパロムに降り注いだ。


「ふむ!」


 ――狂竜剣流〈竜の咆哮〉


 パロムは剣を空に向けて持ち上げた。全方位へと爆発した魔力砲が魔力の輪を吹き飛ばした。


 その時、旦那様の魔力が周辺を覆った。


 ――『転移』専用技〈いじめの聖域〉


 あちこちに現れた空間の門が衝撃波を飲み込んだ。そしてパロムの周辺に現れた門が衝撃波を再び吐き出した。パロムは素手でそれを全部払ったけれど、小さな牽制になった。


「平原の被害は気にするな。外に漏れるのは僕が防ぐからね」


 旦那様の言葉に私は微笑んだ。


 すでに激突するたびに巨大なクレーターや渓谷のようなものがいくつも生まれていた。その中でも大きな衝突はラグナス平原の外にまで広がっていくだろう。


 こんなに地図が変わる規模の戦いをしながらも被害を気にしなくていいってことはいいわね。それに吸収した余波を全部パロムへの攻撃としてリサイクルもできるし。


 もちろんパロムもその戦法をよく知っていた。


「まだぬるい!」


 暴力的な速さと怪力の猛攻に対抗して、すべてを技巧で受け流す。


 そのためにさらに目を輝かせた。


 ――『看破』専用技〈予知の仙眼〉


 空気の流れ。物事の反応。魔力の動き。筋肉の脈動と心の中に秘めた思い。極限に達した『看破』の力がそのすべてを収集し解釈して完全な予知を実現する。


 パロムの剣路を数十手先まで見抜いて防いで受け流す。この私さえも圧倒されるほどの威力を技術と技量でいなし、時には私の斬撃がパロムの隙を突いた。


 パロムは心から楽しそうに笑った。


「アルケンノヴァの異端児の実力は相変わらずだな。まだこのわしの猛攻に耐えるほどでは残っているな!」


 パロムは大声で剣を振り回し、勢いよく叫んだ。あまりにも巨大で暴力的な魔力の怒涛が起こった。


 これまでで最大の一撃だったけれど、私は正面から立ち向かった。


「はああっ!!」


 全身全霊で双月剣を振り回した。技巧も考察も何もない、ただ全力で振り回すだけの斬撃。それが魔力の怒涛と正面衝突し、恐ろしい暴風を巻き起こした。


 その暴風は相殺の証拠だった。


「私が技巧だけの剣士だって思わないで」


 荒れ狂う魔力の流れを見抜く。流れが一番弱いところに突進しながら剣で道を切り開き、そのままパロムに飛び込んで奇襲した。


「もちろん覚えている」


 パロムは重剣で奇襲を防ぎ、伸ばした左手で拳を握った。その瞬間、荒れ狂う魔力の暴風が歪んだ。


 ――『支配』専用技〈魔力支配〉


 衝突して爆発していた魔力がすべてパロムの制御下に入った。破壊の滝が私に降り注いだ。


 その瞬間、旦那様の『転移』が私を少し離れたところに待避させた。同時に転移門が破壊の滝を飲み込み、別の方向からパロムに吐き出した。


「面倒だが効果的な小細工だぞ」


 だがパロムはそれさえも再び支配権を強奪して私に撃った。


 ――天空流〈月暈〉


 破壊の滝をいなしながら自分の魔力を混ぜて再び支配権を強奪して旋回する。その勢いをそのまま斬撃に変えてパロムに向かって放った。パロムはたった一度の斬撃でそれを払った。


「面白いぞ! もっとわしを楽しませよ!!」


「昔から感じたことだけど本当に憎たらしいわね! 今日こそその傲慢さを後悔させてやるわ!」


―――――


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