広闊な大地の心臓

「一応〈浄純領域〉で活動可能な領域をつくります。岩を採取するのは今は不可能なようですから、ここで魔力の反応を検査して記録したらどうでしょうか? 簡単な分析はその場でできますし、より詳しいことは後で父上に任せればいいと思います」


「いい提案だ」


 私が提案し、百夫長が快く受け入れた。そうして我々の現場調査が始まった。


〈浄純領域〉を拡張して空き地を作った。渦巻く邪毒を完全に除去することはできなかったけど、少なくとも百人隊が岩を調査できるほどの空間は確保した。私とジェリアもそれぞれ騎士たちと一緒に岩を調べ始めた。


 まずは岩に触れて魔力を検査してみようか。


「うーん……特別なことはなさそうだね」


 岩に邪毒神の力が宿っていることは理解した。でも燃える海や北方の大陸で見たものに比べれば弱かった。このくらいの力で何ができるのか、まったく分からないわよね。


[イシリン。データ送るわ。確認してちょうだい]


[うむ、えーと……。ちょっと怪しいわね]


[怪しいって? 危ないの?]


 岩を眺める眼差しが鋭くなったのを自らも感じることができた。やっぱり何か良くない意図が隠れているのかしら。


 イシリンが首を横に振る気配が感じられた。


[言葉を間違えた。危険な意図が感じられるわけじゃないの。特に感じることがなくて怪しいと言ったのよ。あえてこんな構造物を作っておいた理由が見えなくてね。けれど、私なりに推測することはあるの]


[何なの?]


[多分ここをこうして作っておいた触媒なんでしょ。邪毒を増幅させて維持する触媒のことよ。おそらくこの岩が初めて作られた時は、邪毒を大量に含んでいたと思う。それを解放して邪毒の渦を作ったようだね]


[つまり森の邪毒の量を増やすために作られた?] うーん、可能性はありそうだね。


 他の可能性を追加で発見できるかと思って岩に私の魔力を浸透させてみたり、感覚を集中して内部を暴いたりもした。でもこれといった収穫はなかった。


 他の騎士の状況はどうなのかしら?


「何か見つけましたの?」


 周りの騎士に聞いたけど、答えはすべて否定的だった。共通した内容は、特に何も感じられず妙な力がかすかに感じられるということ。おそらくその妙な力は邪毒神の力だろう。


 少なくともここをこのように作ったのが本当に『広闊な大地の心臓』なのか、それとも他の誰なのかを突き止めたいのに。


 その時ふと一人を思い出した。


[シドならこの岩と共鳴できるんじゃないかしら?]


[そうかも]


 私の推測をイシリンが肯定した。


 燃える海の島を掌握した者は『息づく滅亡の太陽』。修飾語は結火を結ぶ者。『結火』の特性を持つリディアと共鳴した。


 北方の大陸のベルフロスト王国を掌握した者は『凍りついた深淵の暴君』。修飾語は猛暴な冬天の主。『冬天』の特性を持つジェリアと共鳴した。


 ……その事実についていろいろ考えることはあるけど、それはともかく。『広闊な大地の心臓』の修飾語は地伸を体現する者。『地伸』の特性を持ったシドが来たら何か反応があるかもしれない。


 でもシドは騎士科じゃないため、今回の現場実習には参加しなかった。こうなると知っていたら、口実を作ってでも彼を連れてくるべきだっただろうか。


 まぁ、こんなものがあることを知った以上、後で別に彼を連れてくればいいんだけどね。この中心部は父上の森の中の基地から少し離れてはいるけど、シドならここまで突破してくるほどの実力はある。来たら私も同行するし。


 それよりこの岩、壊すことができないなら丸ごと抜いてしまうとか……、……!?


「敵襲だ!」


 私が怪しい気配を感じたのとほぼ同時に、百夫長さんは鋭く叫んだ。


 巨大な、あまりにも巨大な気配が突然現れた。深い邪毒の渦の中にあるここでも感じられるほど強大な気配だった。そして、その魔力の波長は記憶にあるものだった。


 左手には栄光の剣を持ち、右手には始祖武装『天上の鍵』を召喚。私が戦闘態勢を整えると同時に、気配の主人公が邪毒の渦を突破した。けれど、その者は私にも騎士にも直接飛びかからかった。


 その代わり――巨大で強力な斬撃が大地を襲った。


 強烈な衝撃波と無数の破片が飛び散った。大地に巨大な線が刻まれ、その衝撃で邪毒の渦も少し散らばって空間がさらに広くなった。私と騎士たちは直撃を避けて後ろに退くしかなかった。


 地面に刻まれた巨大な断層の前に一人の人が着地した。


「ピエリ・ラダス……!」


 うんざりするその男の登場だった。


 この男が突然事態に乱入するのも今回が三度目だ。そして現れるたびにいつもイライラすることが起きた。今度はまた何をしに来たの。


「飽きもしないようだね。来るたびに失敗しながらまた来たの?」


「失敗したから挑戦し続けるんですよ。当たり前じゃないですか?」


「……フン」


 まったく、腹立たせる男め。また私を殺しに来たのかしら。敵対する関係とはいえ、何度も私を殺すと訪ねてくるのはあまり気持ちいいことじゃないわね。


 さらに、ピエリはすでに自分のすべての能力に十倍を与えていた。つまり最初から全力だ。下手すると百人隊と一緒に殺される。


 そう思って緊張していたけれど、ピエリはなぜかじっと立っていた。私が飛びかかると立ち向かう勢いではあったけど、少なくとも先制攻撃をする気配はなかった。最初に放った斬撃も攻撃というより、まるで接近を制限するかのような……。


 ……ちょっと待って。何だって?


 すぐに感覚を拡張して、周りの状況を丸ごと俯瞰した。そして悟った。


 こっち、つまりピエリの前にあるのが私と百人隊のほとんど。でもすべてじゃなかった。つまり、ピエリが地面に刻んだ断層の向こうに隔離された人がいた。その数字は十一人。十人は百人隊の騎士たちだった。そしてこの場に来たのは百人隊の騎士たちと私とジェリア。


 つまり、向こうにいるもう一人は。


―――――


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