邪毒神との手合わせ
私とイシリンが同時に席を立った。
『隠された島の主人』が指パッチンをした直後、空間が大きく歪んだ。あっという間に部屋の光景が消え、何もない漆黒の空間となった。空間そのものを乖離させて異空間を形成する異空間結界であった。
「急にどうしたの?」
【言ったじゃない。見本を見せてあげるって】
『隠された島の主人』がもう一度指パッチンをした。薄い魔力の膜がイシリンを覆った。彼女はすぐにそれを破壊しようとしたが、拳で殴っても魔力を爆発させても膜は全然そのままだった。
【一対一で模擬戦をしようとしているだけだから、あまり警戒しないで】
奴は〈魔装作成〉で魔力剣を二本作った。私もすぐに双剣を作って攻撃に備えた。でも奴はただじっと私を見るだけだった。
【準備はできた?】
「……?」
【……私が少し前に模擬戦だと言ったでしょ?】
まさか本当にただ模擬戦をするというだけなの?
奴は私が混乱しているのを見てため息をついた。
【はぁ。警戒する態度はほめるに値するけど、今はそろそろいい加減にしてちょうだい。まともに理解できなかったようだから少しずつ説明してあげる。さっき言ったように〈五行陣〉と極光技の見本を見せようとするよ。模擬戦を通じて実際に使うのを見せて、貴方はそれを見ながら魔力の流れを感じて分析すればいいよ。そうすれば一人で修練するより早く〈五行陣〉にたどり着くことができるはずよ。理解した?】
「本当にそれだけ?」
【それだけじゃなかったら何? 貴方を傷つけようとしているんじゃないかって? そのつもりだったら、とっくに殺してもお釣りが来るはずよ】
それはそうだけど。
訳もなく一人でオーバーしたようで恥ずかしい。イシリンの方をちらっと見ると、彼女は彼女なりに納得したように腕組みをして見物モードになっていた。意外と気楽だねあいつ。
それより驚くべきことは……。
「貴方は邪毒神でしょ? どうやって〈五行陣〉を使うの?」
【邪毒神も神は神だよ。そのくらいは簡単だよね】
人間は一生努力してもたどり着きにくい〈五行陣〉を〝そのくらい〟だなんて。今更ながら、目の前のこいつが人間を超越した存在だということが実感できる。
【ちなみに、今この分身体の魔力は微弱だよ。肉体自体は私が他の世界でも使っていたものだから丈夫だけど、魔力は少ししか注入してないよ。でもわかるよね? その程度の格差くらいは何でもないということ】
私は静かに頷いた。
極光技は、紫光技の極に達したときに到達できる進化バージョン。少ない魔力量でも圧倒的な力を発揮できる強力な魔力だ。そして〈五行陣〉は圧倒的な魔力制御能力で量と質の格差を超越する絶技。すなわち極光技と〈五行陣〉を駆使するということは、魔力の質と制御能力の両方が圧倒的な優位にあるという意味だ。
「よし、準備できたわ」
【じゃあ行くよ。力の調節は当然するけど、誤ってでも死なないように気をつけてね】
『隠された島の主人』の体から煌びやかな輝きが噴き出した。あまりにも美しく燦然とした極光の色だった。
これがまさに極光技。美しいオーロラの色が目を引く魔力。しかし、外見の美しさ以上に私の心をとらえたのは、芸術的なほど精錬された魔力そのものだった。
【ぼーっとしていて怪我をする可能性もあるからね?】
その瞬間、『隠された島の主人』は私の目の前にいた。
「っ!?」
慌てて剣を傍に立てた。奴の剣が私の剣を叩いた。強烈な衝撃で手がしびれた。奴の剣に込められた魔力量は非常に微弱だったけれど、極光の力が私の魔剣を破壊した。もう一方の剣で逆襲をしたけど、あいつももう一方の剣を立てて防いだ。攻撃したはずの私の剣が極光の力に圧倒され破壊された。
――紫光技特性模写『霧散』
魔力を打ち砕く特性を込めて魔剣を作り出した。特性と魔力量で推し進める心算だった。でも剣と剣が衝突した瞬間、今回も私の魔力は極光の力の前に力なく消えた。
【つまらないと〈五行陣〉を見せられないよ?】
「知って……るわよ!」
――天空流奥義〈空に輝くたった一つの星〉
奥義を二度重ねる。莫大な魔力が凝縮された二本の剣が現れた。今回も『霧散』の魔力剣だった。それに加えて、刃に極限まで凝縮して鋭く磨いた魔力をもう一度重ねた。今度は極光の魔剣と衝突しても壊れなかった。でも剣身にコーティングした魔力が一撃でなくなり、剣身にひびが入った。それをあっという間に修復し、再び魔力でコーティングした。
【へえ、なかなかだね】
いよいよ剣が壊れず攻防が続いたけど、私の劣勢は相変わらずだった。剣が壊れないよう必死に魔力を駆使していたこともあったけど、それ以前純粋な剣術でも押されていた。それに奴はわざと私と同じ速度、同じ力で技巧だけを前面に出していた。
しかもその剣術は。
「邪毒神が……どうやって天空流を使うの!?」
【〈五行陣〉を見せるって言ったじゃない。〈五行陣〉が天空流の境地なんだけど?】
そうだね、クソ。
攻撃は受け流され、防御は巧みに破られる。そんな過程を繰り返していたけれど、その間も私は奴の魔力を注意深く観察していた。極光技の流れを、特徴を、ただ一つも逃さずこの目に刻むために。
どうせ見るだけですぐ真似できるレベルではない。そもそも極光技自体は以前にも見たことはあり、その時も真似できなかったのは同じだった。今はただ極光技のすべてを鮮明に記憶し、その感覚を後で再確認できるように残しておくだけだ。
もちろんだからといって終始殴られてばかりいるわけにはいかない。
――始祖武装『天上の鍵』召喚
右手の剣を捨て、偉大な始祖武装を召喚する。
剣の権能で召喚した〝過去〟は、私の知る最強の剣士の逸話。その逸話から力と技量を借りる。私の肉体の強さと熟練度では完全な再現は不可能だけど、今の私は到達できないほどの剣術を体現する。
『隠された島の主人』は待っていたかのように笑った。
【やっと最低限の条件が完成したよね】
―――――
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