集まる情報

「……見つけられなかったって?」


 予想通り……とまではいかないけど、予想していた可能性の一つだった。そのためか、あまり慌てなかった。


 ロベルと共に、マルコと接触した翌日。帰ってきた私を迎えたのは、ガイムス先輩とシドの報告だった。


 いや、それよりガイムス先輩がなんでここにいるの?


「先輩、いつ帰ってきましたの?」


「日程が変わってね。これからしばらく余裕ができたところだったんだ。ちょうどそれを知っていた公子が直接迎えに来てたよ」


 日程が変わった理由は少し気になるけど、今はもっと重要な方を気にしなきゃ。


 ガイムス先輩の報告はこうだった。シドに話を聞いて帰ってきたガイムス先輩は、帰ってくるやいなや自分の能力でアカデミー敷地全域をくまなく探した。完全隔離空間を探すために。結果、平凡な異空間はあっても完全隔離空間はついに見つけられなかった。


「ガイムス先輩の特性でも見つけられなかったら……事実上、完全隔離空間は排除してもいいですわね」


「そんなに信じられる?」


 シドは首をかしげた。ガイムス先輩の特性が何かは聞いたと思うけど、それがどれくらいなのかまでは分からないよね。疑問を感じるのも当然だ。


「ガイムス先輩の特性なら、完全隔離空間の存在程度は簡単に見つけることができますわ。干渉したり破壊したりするのなら話が違うと思いますけれど、単純に発見する程度なら特性に覚醒した子どもでも可能でしょうから」


「……ちょっと大げさだけど、発見自体は簡単だというのはその通り。これは僕の才能や能力の問題ではなく、特性そのものの特徴のおかげだから」


 私の説明に続き、ガイムス先輩も苦笑いして同意した。シドは相変わらず何か釈然としない顔だったけれど、口を閉じて頷いた。おそらく反論し続けるほどよく知っているわけでもないからだろう。


 それより私はシドの方が気になるんだけど。


 実はジェフィスの啓示夢以来、人を見るたびに密かに邪毒を検査している。私の感覚を集中してスキャンする感じというか。目的は『隠された島の主人』がまた誰かに啓示夢を誘発するのかを探すため。


 これまで所得はあまりなかったけど、今のシドから非常にかすかな邪毒の跡が感じられる。すぐ自浄になってもおかしくないほどかすかで薄い邪毒が、まるでガムがくっついたように粘り強く残っていた。


「シド公子。今日もしかして夢を見たのかしら?」


「え? そうなんだけど……」


「どんな内容だったのか話してもらえますの?」


 シドだけでなく、ガイムス先輩も少し怪しそうに眉を上げた。突然の上に突拍子もない言葉だから、そういうこともあるだろう。それでもジェフィスの啓示夢件があったからか、ある程度は察するような気もした。関連情報はすでにみんなと共有していたし。


 あいつなら、多分シドが犯した間違いのようなものを……。


「――お姉様!!」


 私の考えのすき間をバッサリ切ってしまった叫び。アルカだった。悲鳴を上げて飛び込んできたアルカの姿が必死すぎて、私もちょっと驚いた。


 私が話しかけるよりも先に、アルカは私の胸に飛び込んだ。あまりにも突然だったので、少しよろめいてしまった。転ばなかったのは反射的なバランス感覚のおかげでもあったけど、それ以上に必死のアルカを安心させたかったからだった。


「アルカ? どうしたの?」


「お姉様、あの、あの……」


「大丈夫、私がいるじゃない。落ち着いて」


 私の胸に顔を埋めたまま震えるアルカ。頭や背中を撫でて慰めたけど、アルカの震えが収まるには三分かかった。


 落ち着いたのアルカが顔を上げた。やっとガイムス先輩とシドの存在に気づき、恥ずかしそうに顔を赤らめた。それでもアルカは再び私に視線を集中させた。


「お姉様、あの……」


「……悪夢でも見た?」


「えっ!? な、なんで分かったんですか?」


 私はアルカの背中を撫でていた手を上げた。かすかな邪毒の残滓が私の手についていた。撫でていた途中、アルカの体内にあることに気づき抽出した残滓だった。


 あれこれ説明するまでもなく、啓示夢の跡だった。


 それを考えた瞬間、思わず表情が固まった。アルカも私の顔を見て、表情がもっと深刻になった。


「や……やっぱり啓示夢なんですか!?」


「今日夢を見たの?」


「はい。お姉様がジェフィスお兄さんの夢について話したのを思い出して……もしかしてこれもそうなのかなって思って……」


「落ち着いて。また思い出すのがつらいはずけど、夢について話してくれる?」


 アルカのことが少し心配だった。良くない夢なら思い出すだけで心が楽じゃないだろうから。


 けれど、アルカはむしろ決心を固めた顔で頷いた。


「大丈夫です。あの夢が本当に啓示夢なら……それが現実になることより怖いことはないでしょうから。話す程度は問題ありません!」


 ……可愛い。


 覚悟を固めた強い妹に失礼な感想だ。顔がほぐれそうなのを我慢しようとめっちゃ努力してしまった。


 アルカが話し始める前に、私はシドを振り返った。


「シド公子。貴方が見た夢のことも話してください。ごめんなさいけどアルカの次に」


「……俺は構わないよ」


 言われた後、私はアルカの話をじっくり聞いた。


 ……。


 ………。


 …………。


 やっぱり……というか、私の予想を超える内容に少し心から驚いた。


 ゲームの回想シーンに出てきたのは、私がロベルとやり取りしていたシーン。そして中央講堂の建物が爆発し、邪毒獣が飛び出すシーンだった。邪毒獣が出現する直前の光景……封印装置が備え付けられている所の姿とやり取りはゲームでも出てこなかった。


 しかも……補修作業のため封印パーツの機能を停止し、強化パーツの『固定』を亀裂にかけるその短い瞬間に亀裂を増幅させるなんて。そのようなピンポイント狙撃をしたにもかかわらず、いざ完全隔離空間はアカデミーにない。


 いったい何の方法を使ったのかしら……?


―――――


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