筆頭
率直に言って、あの邪毒神が私に敵対したことは驚くことではなかった。そもそも信奉者たちを利用して安息領を妨害し続けてきた存在だったから。しかし、片鱗が何の問題もなく降臨すると誰が予想できるだろうか。
邪毒神の片鱗が降臨するのは非常に珍しいことではある。でも歴史を探ってみると何度かあったことだ。広大な森全体が邪毒に侵食され魔物化した地域である呪われた森も邪毒神の片鱗降臨によってそのように変わったものであり、その他にも似たような事件で不毛の地になった地域はたまにある。
もちろんこれは常識であり、したがって私だけが考えている部分ではなかった。
「だがおかしくないですか? 『隠された島の主人』の片鱗が降臨したのに、なぜタラス・メリアが無事なのですか? これまでそのような前例は一度もありませんでした」
テシリタの言葉に他の奴らもみんな口をつぐんだ。その問題だけは誰も知らないだろうし、推測できる材料もないから。
しかし筆頭は楽しそうに笑いながら口を開いた。
「特別に考える必要はないよ。あいつの数多い能力の一つに過ぎないから」
「邪毒神がそのような能力を持っているという話は聞いたことがありません」
「邪毒神の数はとても多い。お前たちが知らないことも多いよ。今度は偶然あいつがそんな能力を持っていただけだね」
……なかなか断定的だね。
『隠された島の主人』についてはほとんど知られていない。安息領を敵対するということも信奉者の行動によって知られただけだ。
いや、厳密に言うと、すべての邪毒神は詳細不明だ。安息領が邪毒神を崇拝するというが、それはあくまで一方的なものに過ぎない。邪毒神と神懸かりを試みるとしても、誠実に応答する奴らはごく少数だ。それさえも情報が知られた邪毒神たちも、半分程度はそのような神懸かりを通じて自分に対してごく一部知らせただけだ。
……そして残り半分の出所が、まさに安息八賢人の筆頭。
個人的には筆頭を尊敬する。家族を失って失意に陥った私に復讐の方向と意志をくれたから。そして安息領に加担した後も、筆頭の助言と助力は私の計画に大きく役立った。筆頭の方が私のことをどう思っているかは分からないが……たとえただ利用するだけの道具だとしても、喜んで利用されるつもりはある。
しかし、そんな私さえも筆頭の正体や背景は全然わからない。男なのか女なのかさえ。
個人的に筆頭に会って情報や指示を受けたことは多い。でもあの頭巾の下にある顔や変造されていない本当の声を聞いたことはない。ひょっとしたら八賢人の中には筆頭の素顔を見た奴がいるかもしれないが……少なくともボロスはそうではないことを知っている。
そのような存在であるからこそ、筆頭が邪毒神についての情報をいったいどこから持ってきたのかは分からない。
それでも今までは邪毒神と直接関連することがほとんどなかったため、気にしなかった。邪毒神についての情報とはいえ、私とは関係ない隣の国の話を聞くのと変わらない感覚だったから。しかし、今回は違う。
「質問を一つしてもよろしいでしょうか?」
「どうして『隠された島の主人』の能力について知っているのかと?」
「そうです」
私の話にテシリタが「貴様……」と不機嫌そうに声を流した。しかし筆頭がクスクス笑って彼女を制止した。
「気になることもあるよね。むしろ質問のない方がおかしいかも。そういう意味で褒めないと」
「……ありがとうございます」
「あまり感謝していないようだけど? ……それにしても、どうして知っているのか、か。ふむ……悪縁というか?」
「悪縁……ですか? 邪毒神と? 以前にも邪魔されたことはありましたか?」
「反対だよ。あいつの方が私に恨みを抱いているんだ。最近私たちをしきりに邪魔するのも考えてみればそのせいだよ」
邪毒神が人間に恨みを持っているって?
いったいどうすればそんなことになるのか分からない。そもそも邪毒神が一人の人間とそれほど絡むことが可能なのか? まさか筆頭が人間ではないという意味なのか。さっきからあの邪毒神のことを〝あいつ〟と呼ぶのもそうだし、妙に距離感が近いという感じがするんだ。
その時筆頭が頭巾の下でニッコリ笑った……ような感じがした。
「大体何を考えているのか分かるね。……まぁ、どうしてそうなったのかは教えられないけどね」
「期待もしていませんでした」
「何だよ、つまらない」
どうせ聞いたところで意味もない。
しかし……筆頭が見せてくれた覇気や洞察力を考えれば、もしかしたら本当に平凡な人間ではない可能性もある。
「まったく……筆頭に無礼なのは相変わらずだな。筆頭が貴様を寵愛されるのが理解できない」
「テシリタ、貴様は私のことを非難しないと死ぬ病気にでもかかったか?」
「フン。王都の基盤も失った無能な奴が暴れるのが気に入らないのだ。去年の作戦が失敗したのは『隠された島の主人』のせいだとしても、貴様が下手に出たせいでせいぜい積み上げた基盤まで失ったのは笑いものに過ぎない」
「失ったんじゃない。使い道がなくなったから最後まで有効に活用したんだよ」
「話だけはうまいな。その結果にいったい何の利益があったんだ?」
「種はもう撒いておいたよ。もうただ自分で育つのを待つだけだよ。これ以上手を出す必要もない」
テシリタはまだ何か不平を言おうとした。しかし、その前に筆頭が片手を上げてそれを制止した。
「もういい、もういい。去年のことは私が助言したことだよ。結果もあいつが出たことを除けば全部予想通りになったし」
「……かしこまりました」
そう、その仕事には筆頭の助言が大きな役割を果たした。
種はすべてまかれた。残りはそれらが発芽し、おいしそうに熟成するのを待つだけ。多分待つことは長いと思うが……すでに三十年を待ってきた私にとって、わずか数年程度の新しい待ちはいくらでも耐えられるものに過ぎない。
……ああ、そういえばもうすぐ〝あのこと〟もあるんだね。そちらも楽しみだ。
そう思いながら、私は一人で笑った。
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