安息八賢人会議

「急に安息八賢人会議って、どういうことだろう?」


「相変わらず不満が多いんだな、ピエリ・ラダス」


 私への非難に鼻を鳴らし、私は自分の席に座った。


 まるでこれが悪の組織だと言うような暗い雰囲気……とかは全くなかった。ただどこかのオフィスといっても信じられるほど平凡な部屋で、大きな円卓があるだけ。それでも円卓を囲んで座った奴らが全員頭巾を深くかぶっているということだけが唯一〝怪しく見える〟要素だった。


 これが最悪のテロ組織である安息領の最高幹部、安息八賢人の会議室だなんて。笑わせることだね。


「そう言う貴様こそあまり愉快そうに見えないけど? テシリタ」


 私に話しかけた女性にそう投げかけると、彼女は不機嫌そうに頭巾の下で舌打ちした。


「貴様などと同席するのが不愉快なだけだ」


「それは私のセリフだよ。貴様みたいな気難しい女性は好きじゃないんだ」


「ふん」


 まぁ、あいつが頭巾とマントを外したのを見たことはないから、本当の女なのかどうかはわからないけど。それでも声から察して話した時、本人が否定したことはない。


 その時、他の奴が笑い出した。


「フハハハ! 二人とも気が合うぜ! このまま結婚でもしたらどォだ?」


「戯言を言うな」


「考えただけでもぞっとするよ」


「息が合うんだな! ハハハハ!」


 頭巾で顔を隠しておいても明らかに見える、大きな図体とバカのような豪放な笑い声。ボロスだ。あいつの愚かさは何年経っても変わらないね。


 その他にも席はすべて埋まっていた。普段は勝手に歩き回るため半分も出席しない場合が多く、今回のようなケースは非常に珍しい。


 まぁ、それも当然だろう。


「静かに。筆頭がご覧になっている」


 真剣な声が響き渡るやいなや、あの愚かなボロスでさえ口をつぐんだ。


 突然の静寂の中で、円卓の上座に座った者が口を開いた。


「固い雰囲気はよくないよ。みんな楽にいてもいいよ」


 筆頭。


 安息領を率いる八人の巨悪、その中でも最高の者。安息八賢人のリーダーとして、実質的に安息領を統率するトップ。


 今回八賢人が全員集まったのは、その筆頭が直接会議を招集したためだった。どんなにわがままな奴らでも、筆頭の言葉を無視することはできないから。


 その筆頭は軽い言い方で話し続けた。


「今日お前たちを招集したのはこの前のことについて話し合うためだよ」


「この前のことなら……」


「最近はこれといったことはなかったです。ならば……あいつらが去年失敗したことですか?」


 テシリタが私とボロスを指差しながら言った。直後、八賢人の間から声が流れ始めた。


「大失敗だったな」


「騎士団長どころか、正式な騎士ですらない生徒に阻止されたと言っていたか?」


「今までは筆頭が言及を禁じられたので言えなかったが、実に情けない間違いだったぞ」


 それぞれ私とボロスに向かって不平を吐き始めたが、筆頭がその空気を落ち着かせた。


「やめてよ。そのことについての話だとは正解だけど、二人を責めようと言ったわけじゃないね」


「ですが筆頭。作戦自体を失敗したのはともかく、正式な騎士でもない生徒に八賢人の二人が阻止されたことはオレたちの威信ともつながる問題です」


 テシリタの主張に何人かの奴らが頷いた。しかし、筆頭は依然として頭巾の下に笑い声を流すだけだった。


「大丈夫。それは生徒が主導したものじゃないから」


「ですが……」


「『隠された島の主人』。あいつの分身が降臨した」


 その言葉に何人かが当惑したように声を流した。


『隠された島の主人』は名実共に邪毒神。その片鱗でも降臨するのはとても大変なことだ。……一年も経った今になってそれを知って当惑するバカたちがそれほど愚かだという意味でもあるし。私は確かに報告もしたのにね。


 そしてテシリタは私の報告を一番早く見た奴だった。


「とんでもないです。失敗を恥じたピエリの嘘というのがもっと信憑性が……」


「私が直接確認した。私を疑うということ?」


 その瞬間、会議室の空気が一変した。


 まるで見えない巨大な手が私をつかんだような感覚。テリアさんの〈選別者〉と似たような感じだけど、それなどとは比べ物にならない重圧感だった。まるで騎士団の大師匠のような、いやひょっとしたらそれよりも……。


「い、いいえ。筆頭が直接確認したのなら、オレには何も」


 テシリタの声から冷や汗が感じられるね。


 筆頭の言葉で八賢人の空気が変わった。


「『隠された島の主人』はこれまで俺たちを邪魔し続けてきたな」


「それでも今までは信奉者たちを操るだけだったが、直接降臨までしていたら……」


「いや、いっそ騎士団とぶつかるよう誘導した方が……」


 忙しいね。まぁ、『隠された島の主人』は邪毒神でありながら安息領を極度に敵対している者だから。


 しかし、筆頭の態度は一様だった。


「まぁ、大したことないよ。せいぜいとても小さな片鱗ぐらいだよ。本体の半分くらいが降臨したら話は違うけど、そんなことは起こらないんだから」


 普通ならあんな言葉は蛮勇としか考えられない。邪毒神のごく小さな片鱗だけ降臨しても、王都タラス・メリアくらいは一発で消滅するから。私もそれを狙って信奉者たちの意識を放置したので。


 ……いざ片鱗が降臨したのに邪毒災害が起きなかったことだけは、今でも到底理解できない。


―――――


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