態度と視線

 あの生徒たちがいることに気づいたのは途中からだった。


 魔物と邪毒を退けながら戦っていたところだったし、あの子たちは結界の内側にいたので、気配探知がまともにできなかった。特に私に敵意を持っているようじゃなかったからそれは構わないけれど……問題はあの子たちの表情だった。


 恐怖が半分くらい。そして残りの半分はあまりにも呆れてしまったような感じだった。何へ……と聞くまでもなく、先ほどまで盛り上がっていた私のせいでしょ。


 ……恥ずかしいわ!!


 私がこの森に招待したのは私と親しいごく少数だけ。そして私が暴れる時の姿を知っているのもそのごく少数だけだ。他の者にあえて見せるつもりもなかったし。


 うぅ……あんな表情を見ると傷つくのよ。


 けれど、すでに見せてしまったのは仕方がない。そもそもリディアが他の人を連れてきたのは魔力の感覚で知っていたから、彼らが私を追いかけてくる状況を想定できなかった私の過ちだし。


 やむを得ず表面だけは努めて平静を装った。


「クラアアッ!」


 ……気の利かない魔物め。


 後ろから魔物が鳴き叫んで私のところに駆け寄ってきた。そっちを一瞥すらせず、ただ雷電を吐いて奴を粉にした。


 ……それを見た生徒たちの表情がもっと深刻になったけど、ここでは勢いで無視よ無視。


「はじめまして、皆さん。リディアが連れてきた方々ですわね?」


 極力警戒されないように、ゆっくり結界に入って声をかけた。生徒たちの肩が上下した。それでも比較的平静を維持している少年が前に一歩乗り出した。


「オステノヴァ公爵家の令嬢にご挨拶します。自分は……」


「おやめください。私がそんなの嫌いだということ、リディアに聞いていませんか? ……立場上、友達として接してもらうのは無理だということくらいは知っていますの。けれど、せめてやりすぎの格式はやめてほしいですわ」


「……わかりました。自分は騎士科の……」


「知っていますの。五年生のアレン・ロンド君とお友達ですわね?」


 アレンは私の言葉に驚いたように目を丸くしたけれど、私としては今更のことだった。


 アレン・ロンド。彼はゲーム……『バルセイ』に登場した人だ。


 彼の外見はまさにゲームで見たままだった。正確に言えばゲームで登場する〝現在の姿〟よりは少し幼いけど、回想シーンに出てきた姿が今と同じだ。彼をリディアが連れてきたのが……正確にはジェフィスと一緒にいた時に来たのが妙な気分を感じさせた。


 なぜならゲームで彼は……ジェフィスが自分の代わりに死んだことを自責していた人だったから。


 ゲームで私が十六才の時、つまり時期的には今年起こる巨大な出来事。ジェフィスはその事件で孤立した生徒たちを守るのに精一杯だった。結局守ろうとした生徒たちはみんな守ったけれど、すべての力を使って致命傷を負った彼はその場で亡くなった。


 そしてアレン・ロンドと友人たちはジェフィスが到着する直前まで生徒たちを守りながら戦った人々だった。


 彼らがいなかったら、ジェフィスが来る前に犠牲者が出ただろう。けれど、ジェフィスが到着した頃には彼らも魔力を使い果たして負傷し、これ以上戦えない状態だった。結局彼らもジェフィスに保護されるしかなかったし……ジェフィスが一人で奮闘した末に死んだのが、彼らには重い心の負い目として残ってしまった。


 ……冷静に言えば彼らはゲームのモブにすぎなかったけれど、その後の危機にも主人公のアルカを助けてくれた。いろいろな面でいい人たちだと言えるだろう。


 もちろん、私が彼らを誘導したのはそのためじゃなかった。


 そもそもアカデミーにいた時から彼らがこっちに注目していたことは知っていた。そのため、わざとジェリアを連れて離脱することで、彼らが近くにいたリディアたちに近づくようにした。彼らならそうするはずだって思ったから。


 ……恥ずかしい姿を見せてしまったことだけは不覚だったけれども。


 一方、アレンは驚いたような顔で口を開いた。


「自分たちのこと、ご存知でしたか? 噂通り優しく、みんなに平等に接する御方のようですね」


「たかが名前を覚えたことだけで優しさとか平等とかなんて、お世辞が言い過ぎですわよ。そんなのなんかを話すために来たのじゃないでしょう?」


 ゲームでは貴族の前に来ると丁寧な言葉ですごく皮肉る性格だったわね。もう片鱗が見えるわよ。


 アレンは私の言うことを聞いてニッコリ笑った。


「この国で四大公爵家は王家とほぼ同等レベルの権力を享受する、国のトップ。そのような公爵家の直系が、単なる平民の名前を覚えてくださること自体が驚くべきことです。しかも普段交流もなかったじゃないですか?」


 ごめんなさい覚えていたのはただ貴方がゲームの登場人物だからでした。


 ……とは口が裂けても言えないので、私はただ微笑んで自分の心をごまかした。


「私やリディア、ジェリアなどが普段どのように過ごしていたのか分からないようですわね。下級貴族や平民の生徒ともかなり付き合いがありましたわ。……それよりこんな話ばかりしていたら切りがなさそうですので、そろそろ本論に入りたいんですけど?」


 しきりに引きずらずに早く本論を言って。という意味であることが分かったらしく、アレンは表情を固めて姿勢を正した。……そんなに緊張する必要はないのに。


「テリア様は……何がお望みですか?」


「質問が抽象的すぎますわね」


「失礼しました。公爵家の令嬢として、そして騎士科の生徒として……何のためにアカデミーに在学中ですか?」


「初対面で急にするにはかなり重くて突然の質問ですわね。人によっては無礼だと感じることもあるんですわよ? ……まぁ私は別にそうじゃないから答えてあげましょう。と言っても、もう私の人生で十分に表現しているようですけど」


「人生……ということは?」


 当初予想していたこととは少し違う質問だったけど、難しくはなかった。


 そもそも私の生き方や目標なんて、もう八年前のその日から決まっていたから。


「この国の騎士は人を守る者。その役割のために強くなるのは当然の義務に過ぎません。私はそのために尽くすだけですの」


―――――


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