仕事と休み
もちろん、せっかくの現場実習で聞き込み調査ばかりではない。むしろ、アルギスさんが私によろしく頼むと挨拶した本当の理由は別にある。
「やっぱりお前がいると楽なんだから」
「メネンシア十夫長。お嬢様を便利な道具のように言うのはおやめください」
「そんなことないぜ。ったく、お前は相変わらず硬いね」
「いいわよロベル。今はメネンシア十夫長が私の上級者だから」
ロベルは依然として不満そうな顔をしていた。でも私が前に出て引き止めたおかげか、それ以上文句を言わなかった。
私はまた目を向けた。そして魔力を感じる感覚に集中した。清潔できれいな魔力とは異なる、まるで汚れた水を肌につけたような不快な感覚。邪毒特有の感じだ。
今私たちがいる場所は王都から少し離れたある村。普通なら邪毒を感知するはずがない……と思うかもしれないけれど、可能性くらいはいくらでもある。邪毒をほんの少し活用する魔道具くらいは、稀ではあるけれど厳然と実使用されているからね。ディオスがネスティを邪毒病にさせた魔道具もそうだし。
そのため、邪毒があるからといって必ずしも安息領と関連があるという意味ではない。それを区別するために必要なのは、優れた感知能力と邪毒を鑑別できる経験。そして邪毒を感知する能力が最も優れた人は浄化能力者だ。
浄化界の世界権能である『浄潔世界』の保有者なら、感知能力もまた世界一だ。
「……確かに痕跡がありますわね」
私は地面にかすかに残った痕跡を見つめながら言った。
「邪毒魔道具を使用……したほどではないようですわ。この程度の量と濃度なら、たまたま力が少し漏れた程度でしょう。そして痕跡がついたパターンを見れば……多分馬車とかで運んだんでしょうね」
「どっちに行ったかはわかる?」
「これだけじゃ、ただこの道路を正直にたどったということしかわかりません。他の痕跡をもっと探してみないとわかりません。でも、これを運んだのが安息領の確率は高いと思いますの」
私は地面に片膝をついて触った。肉眼では見えないけれど、その場に残っている邪毒の痕跡が指先に感じられた。『浄潔世界』の能力者である私すらもほんの少しだけ感じられないほどだから、私以外はまともに探知することさえできないだろう。たとえ探知したとしても、存在するかどうかだけを知る程度だろうし。
「痕跡に残っている邪毒の量とパターンを見れば、これは公式の認証を受けた魔道具ではありませんもの。痕跡が微弱すぎて私も確実に把握することはできませんけど……おそらく安息領がよく使う違法な黒騎士魔道具だと思いますわ」
「違法な黒騎士魔道具……まさか、邪毒で使用者を強化する代わりに死亡率が高いあれですか?」
「そうよ。一時的に使用者を大きく強化させる代わりに、高い確率で邪毒に汚染されて死亡するものよ。安息領でも実際に持ち歩く奴は少ないわね」
ロベルの言葉に答えた後、私はもう少しあたりを見回した。感覚をできるだけ鋭く整え、集中して広い地域の邪毒をすべて探しましたけれど……残念ながら、この痕跡から続くものは見つからなかった。
でもアルギスさんは私の報告を聞いても笑うだけだった。
「そもそもお前じゃなかったらこんなことを知ることもできなかったぜ。むしろ安息領がこの村にあるかもしれないということだけでも大きな収穫だぞ」
……それはそうだろう。
結局、今日はそれ以上の所得なしに調査が終わった。私とロベルは退勤……という言葉が似合うかはよく分からないけれど、とにかく今日の現場実習を終えて王都タラス・メリアに戻った。
ところが、帰ってくるやいなや突然ロベルの気配が変わった。
「お嬢様、お時間よろしいでしょうか?」
「え? どうしたの?」
「市内を回ってみたらどうかなと思いまして。最近はアカデミーと現場実習地を行き来しただけで、のんびり外出したことがないのではないですか?」
「それはそうね。今日エスコートしてくれるの?」
「そう思っていただいて結構です」
少しからかうつもりだったけれど、ロベルは穏やかに微笑んで頷いた。……ちょっと悔しいわね。
「あらかじめ考えておいたルートとかでもあるの? 楽しみにしているわ」
「期待していただくほどではありませんが、お任せください」
私はロベルに案内されてゆっくりと街を歩いた。
ロベルが言ったように、最近はのんびり外出したことがなかった。特に忙しいわけではなかったけれど、時間があれば剣から取って修練場に直行しちゃったせいで余暇を楽しむ時間を作ることができなかった。
もしかしたら焦っているのかもしれない。ゲームの開始まで三年、開始前の重要な事件までは一年ほど残っているのだから。
悲劇を防ぐためには、それほど強くならなきゃいけない。つまらない強さなんていらない。恐ろしいラスボスさえ力でひざまずかせることができる最強の力が必要だ。……そんな思いから、力をつけることだけに邁進したようだ。
実は今でも時間が少しもったいないという気はするけど、たまにリフレッシュする時間くらいはあってもいいわね。
「今日はどこに行くつもり?」
「あそこはいかがでしょうか?」
ロベルが指差したのは、一つのUFOキャッチャー店だった。四年前、私が非常に下手な実力でお金を使い果たした末、アルカにあげるぬいぐるみを引いた場所だ。
「……フフ。思い出だね。たった四年前なのに」
「お嬢様と僕はたった十五才です。四年は人生の二割を超える歳月です。それをたったって、年齢に合わないのではないですか」
「そんなことを言う貴方も同じなのよ?」
いや、私は前世の記憶でもあるけど。ロベルはそうでもないはずなのに。
それでもせっかく思い出したついでにその店に入った。四年という歳月が経ったけれど、それほど変わったことはなかった。ガチャ用の魔道具の中で古いものがいくつか入れ替わり、中のぬいぐるみが変わっただけ。しかし、私が銀色の猫のぬいぐるみを引いた魔道具はそのままだった。
私はまっすぐそっちに向かった。
「フフッ。四年間成長した私を見せてあげるわよ」
―――――
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