バルメリア王家

「ジェリア、これはどういうこと?」


「知らぬ。急にテリアが一人で行っちゃったんだ」


「ふむ……一応位置は魔力の気配で確認されてはいるよ。恐らく拉致された人やこの村の住民たちが集まった所に行ったようだね」


「人質を救出しに行ったようだな」


「せっかちだね。後で理由を聞いてみないと」


 ケイン殿下と姉君がそのような話をしていたが、僕は二人の平然とした態度がうらやましいだけだった。


 突然安息領の奴らが取り出し始めた大きなバケモノたち。一匹一匹がかなり強そうだ。感じられる魔力だけを見ても、今の僕としては一人では絶対に勝てない奴らだ。なのに肉体もとても固いようだ。


 しかし、姉君は奴らを見ながら闘志を燃やすだけで、ケイン殿下は冷静に分析するだけだった。


 テリアの使用人さえも同じだった。末っ子とはいえ、このジェフィスは四大公爵家の中で最も強くて激しい戦士と呼ばれるフィリスノヴァ公爵家の一員だ。そんな僕よりも、テリアの使用人たちははるかに落ち着いて冷静だった。


「今すぐにでもテリアを追いかけたいが、この奴らを放置するわけにはいかない。行かせてくれなさそうだしな」


 姉君はそう言って魔力を高めた。瞬く間に泰山のように魔力が増幅した。


 それが頂点に達した瞬間、姉君は剣で地面を強打した。そこを基点に巨大な氷が四方に噴き出した。


「わっ!?」


 氷壁があちこちに湧き出て、まるで村全体を覆う迷路のような構造体を作った。小さな魔物たちは壁に閉じ込められて絶命したり、壁に向かって何の役にも立たない攻撃をしていた。


 対照的に、大きなバケモノは氷壁を壊す力を十分持っていた。


「ケイン」


 姉君が低い声でケイン殿下を呼ぶと、ケイン殿下は小さくため息をついた。


「行けよ。どうせ止めても聞きもしないだろね?」


「よく知っているな。ロベルとトリアも連れて行くぞ」


「勝手にしろよ」


 姉君は氷壁越しに走った。テリアの使用人たちも小さく目礼をして、すぐに姉君の後を追っていった。


「殿下? あんな風に行かせても大丈……」


「準備しろ」


「はい? 何か……うわっ!?」


 僕が話を終える前に、空から落ちた巨大なバケモノが目の前に着地した。騒がしい轟音が響いた。


「殿下、退いてください!」


 騎士たちが殿下と僕を保護しながら前に出た。


 現れたバケモノは他の奴らと同様に大きくて強大な魔物だった。それも一匹じゃなくて二匹。百戦錬磨の騎士でさえ、奴らが吐き出す威圧感に緊張しているようだった。


 しかしケイン殿下は退くどころか、むしろ前に出た。


「退け」


「殿下!? 危険……」


「命令だ」


 騎士たちは殿下を制止しようとし、バケモノたちは近づいてくる殿下を見て咆哮した。巨大な拳が殿下を襲った。だけど、騎士たちが殿下を保護する前に、地から伸びてきた結界の糸数本が殿下とバケモノの間を遮った。それを中心に展開された防御結界がバケモノたちの拳を防いだ。


「邪魔だ。もう一方を支援するように」


 すると、殿下は返事も待たずに結界を展開した。騎士たちは結界の力によって強制的に追い出され、殿下の傍には僕だけが残ることになった。


「あえて殿下が直接乗り出す必要はないのではないですか?」


「興味があってね。こいつらは四年前にテリア公女が一人で討伐したというそのバケモノと似ているよ。そして騎士たちは他の所に行かせる方が効率ももっといいじゃない」


 ケイン殿下はそう言って眉をひそめた。


 その直後、結界が破壊され、拳がケイン殿下に向かって飛んできた。


「ふん。やっぱり特性を惜しむような状況ではないね」


 ――バルメリア式結界術〈暴悪のもり〉


 地面から伸びた結界の糸数本がバケモノの腕を貫いた。その糸から展開された力場がバケモノの動きを完全に拘束した。


「一匹牽制頼むよ、ジェフィス」


「わかりました」


 僕は剣を抜いて前に出た。


 一人で一匹討伐したい気持ちは山々だけど、僕の実力に対するうぬぼれは少しもない。僕一人では時間を稼ぐことはできても、勝つには手一杯だ。


 どうせケイン殿下が牽制と言った以上、殿下は本気で出るつもりだろう。それなら僕が無理する必要はない。


 僕に突進してくるバケモノを見て、僕は冷静に戦術を立てた。




 ***




 バルメリア王家の血を引く王子の資格で身につけた結界術。私のレベルはまだ未熟だ。しかし、『覇王の鎧』はその結界術を極限まで強化する始祖武装。これだけでもこの場で勝利するのは可能だろう。


 しかし、敵は多い。ここで時間を浪費することはできない。


 ――『無限遍在』専用技〈遍在分身〉


 特性を使った瞬間、地面から『私』が七人現れた。


 分身系の上位能力、『無限遍在』。魔力がある限り、対象の形状と能力を完璧に複製できる力。本体と分身、合計八人の私がバケモノと対峙した。


 ミッドレースアルファのプロトタイプ……だっけ。報告書にその名称を記載した人がテリア公女だったそうだ。彼女が四年前に倒したというこのバケモノのレベルを見れば、彼女の力がどの程度なのか推算できるはずだ。


 本気の短期決戦に行く。


 ――バルメリア式結界術〈結界兵器作成〉


 結界の糸が無数にまとまり、武器の形状を作った。分身には剣やハンマー、槍などの武器を。そして本体である私の手には長くて巨大なバトルアックス。それ自体が結界の核として非常に強力な結界を展開することができ、それを応用して切断や打撃など多様な効果を再現する。


「クオオオ!」


 その時、バケモノが咆哮しながら体をひねった。奴を縛った〈暴悪のもり〉が壊れた。そして奴の体から雷電があふれた。しかし、私のバトルアックスを中心に展開された防御結界は雷電を完全に防いだ。


「行くぞ!」


 分身と一緒にバケモノに突撃した。


 バケモノが拳を突き出した。早い。ハンマーと大剣を持った分身の二人を前面に出してその攻撃を受け流し、バトルアックスで奴の肘を打った。血と悲鳴が噴出した。


 もう一度〈暴悪のもり〉で腕を拘束し、バトルアックスを振り回し続けた。傷を正確に狙った一撃がバケモノの腕を完全に切断した。


「キャアアアアア!!」


 悲鳴がそのまま咆哮に変わり、眩しい雷電が爆発した。恐ろしい魔力で防御結界が壊れそうになった。


 ――バルメリア式結界術〈デリンの格子〉


 より強い防御結界を展開した。


 ……しかしバケモノは強かった。先のものはもちろん、〈デリンの格子〉までも暴れる雷電に破壊された。それでもまだ残っている力が分身二人を消滅させた。


「ちっ!」


 再び分身二人を追加で作り出した。その分身たちにあげた武器は銃。それで遠距離牽制をさせ、残った分身たちと私はそのまま突撃しようとした。しかし、その前にバケモノの手が一人の分身を握った。


 さっき切った手だった。


「再生した!?」


 尋常でない再生速度だ。


 一瞬慌てたが、よく見ると奴から噴き出していた圧迫感が少し減った。早い再生の代価として魔力をかなり消耗したのだろう。


 奴に捕まった分身はそのまま粉砕されたが、その間に私はバトルアックスを振り回した。奴は反対側の手に魔力をまとって私の攻撃を防いだ。しかしその間、私の分身たちが奴の肩と頭に飛びかかった。


「キャオオ!」


 咆哮と同時に雷電が爆発した。しかし〈デリンの格子〉を五重に展開してそれを防ぎ、分身のハンマーと大剣が雷電を突き破って奴に直撃した。


 私は結界を踏んで跳躍した後、空中で体を回転させた。その回転力を込めたバトルアックスが奴の肩に突き刺さった。切断には至らなかったが、その瞬間バトルアックスを中心に展開された力場が奴の動きを拘束した。


「クルァッ!?」


「いい加減に死ね!」


 ――バルメリア式結界術〈加速結界〉


 バトルアックスから手を離し、拳で奴の腹を殴った。そして上に跳躍しながら出した蹴りであごを蹴飛ばし、空中で体を回してもう一度顔面にキック。同時に分身たちが一斉に攻撃を浴びせた。バケモノは瞬く間に傷だらけになった。


「グアアアアア!」


 再び拘束を振り払ったバケモノと分身たちが激しく戦っている間、私はしばらく退いた。〈結界兵器作成〉でまた作り出したバトルアックスを握ってしばらく集中すると、バトルアックスの斧刃の中に赤い光が宿った。バトルアックスで尋常でない魔力が脈打つ。


「クオ!?」


 その瞬間、バケモノは分身たちの猛攻さえ忘れたように私を睨んだ。


 この赤い光は私の奥義。バケモノだからこそ、この力に本能的な警戒心を覚えたかもしれない。


 でも、もう遅いよ。


 地面を蹴ってバケモノに突進。奴は濃密に圧縮された雷電の魔力を全身にまとって私に突進してきた。分身たちの結界兵器も、その結界兵器たちが展開した結界も、奴の雷電に無力化された。しかし本体の私は、私が持っているバトルアックスから展開された赤い結界は奴の雷電を完璧に遮断した。


「はああああっ!


「クアアアアア!」


 バケモノと私は同時に咆哮し、互いを攻撃した。雷電をまとった拳と赤い光を放つバトルアックスがぶつかり合った。その瞬間、斧の赤い光がさらに強くなり、バケモノの拳は二つに割れた。


「ギャアッ!?」


 もう一度バトルアックスを振り回した。赤い光の力が奴の雷電を取り除いた。その隙から分身たちを突撃させ、多重で〈暴悪のもり〉を展開。動けなくなった奴の両足をバトルアックスの一閃で切断した。


 バケモノは魔力を高めて抵抗した。しかし私の分身たちが展開し続けた結界が、奴の動きを拘束し続けた。その間、私が振り回したバトルアックスが奴の心臓がある位置を正確に攻撃した。


「クラ……アッ……!」


 すでに一撃で心臓が破壊された場所に、さらに魔力を注ぎ込む。斧から発生した力場が奴の体を内側から膨張させた。奴はそのまま体が裂けて絶命した。


 討伐は成功……したが、あまり満足のいく結果ではないね。このように早く討伐したのも奥義の赤い光を素早く使ったおかげに過ぎない。


 テリア公女はこんな奴を四年前……わずか十一才の時に討伐したということか。


 テリア公女に対する判断をもう一度修正し、私はすぐジェフィスに加勢した。


―――――


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