始めての反抗

 兄様の魔力が大きく揺れた。


 いつも私を相手にする価値さえないと言ってまともに引き出したことがなかった魔力が、初めて私の目の前で発揮された。その魔力に向き合うと背中に冷や汗が流れた。


 さすがにアルケンノヴァの次世代エース。みんなを抑えて最も有力な後継者として浮上するに値する。恐らくこの程度なら私と手合わせしてくれた時、手加減をたくさんしてくれたテリアさんと良い勝負になりそうだ。


「ディ、ディオス様!?」


「まさか今するつもりですか!?」


 私たちの会話についていくことができず、呆然としていた取り巻きたちが混乱した。


 兄様にへつらうことしかできない無能者たち。気持ち悪い人種だ。今でも彼らは安全や規範などを考慮して止めるのではないだろう。


 あの人たちの前で私の反抗心を誇示するためにも、今は落ち込んでいるわけにはいかない。


「本決闘の前にヤルわけにはいかない。しかし、その前に少しくらいは分際を教えてやるぜ」


 薄く伸び、まるで羽毛のような鋼片が兄様を中心に渦巻いた。一つ一つが相当な魔力の魔道具と変わらなかった。


 羽が槍の周りに集まって羽のように広がった。


「殺せはせぬ。決闘前に治療能力者が完治させてくれるほどで終わらせる。しかし、その生意気の代価は覚悟しろ」


 怖い。


 今も手足がブルブルする。まともに戦ったことはないけれど、そもそも兄様もまた私を相手に本気を出したことは全くなかった。それでも私はいつもやられてばかりだったから、私がもっと力を出しても勝つという保障はないだろう。


 でも……何だろう、この気持ちは。


 あの兄様が私を相手にあんなに魔力を引き出したという事実自体が、不思議なほど気持ちが良かった。


「まずはそのヘラヘラする口から破ってやるぜ!」


 兄様は瞬く間に距離を縮めて槍を突き出した。


 早い。手合わせの時のアルカさんよりもっと。まるでテリアさんが死角を奇襲した時と似たような感じだ。


 だけど――私はあのテリアさんの奇襲さえも無傷で防いだよ!!


「はあ!」


 瞬く間に剣に魔力を込めて振り回した。槍刃を横から弾き飛ばした瞬間、騒々しい爆音と共に衝撃波で地に砕けた。兄様は少し驚いたようだったけれど、攻勢を止めなかった。


 肩、脇腹、お腹、太もも。立て続けに突き刺す槍を避け、最後に大振りした。剣で槍を弾き出すたびに魔力の衝撃が手に伝わってブルブルしたけど、その程度は魔力で抑えられる。そして槍が横に弾き出されて露出した隙を剣で突き刺した。


「不都合だな!」


 兄様は槍から離した左手に魔力をまとって剣を弾き出した。そして近接距離にもかかわらず、槍の柄を縦横無尽に振り回して攻撃を浴びせた。


 しかし、私は小さな体格を利用して槍の嵐の中を抜け出した。もう一度振り回した剣が兄様の頬にそっとかすめた。


 でもその程度かすれたことは気にしないのか、兄様は鋼の羽毛を操って私を攻撃した。仕方なく距離を広げた私に羽毛が飛んできた。私は魔弾で羽毛を迎撃し、兄様に遠距離から魔力斬撃を飛ばした。


「生意気!」


 羽毛を伴った魔力突きが飛んできた。斬撃で相殺した。でも左肩から血が飛んだ。少し痛いだけの傷よりも、相殺する時に衝撃が伝わった手に力が入りにくかった。その間、突きがまた飛んできて、私は仕方なく横に走って避けた。


「そんなに戯言をしゃべったくせに逃げてばかりのかよ! 立ち向かえ! 貴様をめちゃくちゃにする価値があるのか見せろ!」


「じゃあ、望む通り!」


 横に大きく迂回した。その間にも牽制が飛んできたけれど、私は突っ込む勢いだけで全部避けた。


 近づいて剣を振り回すと、兄様は槍で防いだ。そして槍を回転させて剣を落とさせようとした。しかし私はその動きに合わせて腕を動かしてむしろ槍の回転から抜け出して上段を斬った。鋼の羽毛がそれを防ぐと未練なく剣を引いて兄様の槍を防いだ。


「剣が主武器でもないくせに……!」


「主武器でなくても、あらゆる武器に長けたアルケンノヴァなら……この程度の技芸くらいはしないと!」


 私たちは同時に武器を大きく振り回した。魔力が衝突し、ドンと大きな衝撃波が広がった。私は歯を食いしばって持ちこたえようとしたけど、結局何メートルも押し出された。兄様は……押し出されたものの、その距離は私の半分くらいしかなかった。


 しかし、兄様は私の姿を不愉快そうに睨みつけ、突然魔力を落ち着かせた。鋼鉄の槍と羽毛が一瞬にして消えた。


「興がさめた。この程度なら本決闘の時にも大したことないぜ」


「逃げるんですの?」


「は、ずいぶん生意気なことも言えるようになったな。勘違いするな。貴様の実力なんて全力を尽くしても俺の相手にならないことを知っただけだぜ」


 兄様はそう言って練習場の外に向かった。取り巻きたちは慌てて兄様を追いかけた。


「ディ、ディオス様、大丈夫でしょうか? さっきhs……ぐはぁ!?」


 何と言おうとした取り巻きは兄様の拳に殴られた。


「俺の決定に文句を言うな、下等な奴め。もう一度生意気なことを言ったら、あのコムスメと一緒に埋葬してやるぜ」


「も、申し訳……ありません」


 取り巻きが歯を食いしばっているのを私も分かるけど、兄様は知らないのかしら。それとも知っていながら無視するのかしら。


 とにかく、そんな感じで兄様は出ていった。その時になってようやく、私は肩の力を抜いてため息をついた。


 そして、少し前から気になっていた気配に向かって声を高めた。


「テリアさん、そろそろ出てきてくれませんか?」


 練習場の陰から年の割に身長大きな人が出てきた。予想通りテリアさんだった。彼女は少し照れくさそうな顔をした。


「知っていましたの?」


「途中からですね。最初からあったかは分かりませんけれど」


 テリアは苦笑いし、壊れた練習場を魔力で修復した。恐らくそのような系列の特性を模写したのかしら。紫光技っていうのは、すごく楽だと思う。


「なんで来たのですか?」


「リディアさんのことが少し心配で。少しずつではありますけれど、授業の時も発展する姿を見せていたのでそろそろディオス公子が何かしてきそうだったのですわよ」


「その通りでしたね」


 今度は私が苦笑いした。兄様はさっき先客って言ったけれど、恐らく最初から私を邪魔する目的で来たのだろう。取り巻きの前で私を踏みにじる姿を誇示したかったのかもしれない。


 多分テリアさんは私を助けようとしたのだろう。でも私が直接反抗するのを見て、前に出る代わりに見守っていたのだろう。


 そう思いながら首を横に振っていると、テリアさんは兄様の方向を振り返りながら言った。


「それで、どうでしたの? 初めてまともに反抗した感想は」


「よく分かりません」


 私自ら思ったよりよく戦ったようだけど、恐らく兄様は依然として全力を尽くしたのではないだろう。急に退いたのも、今全力を尽くす姿を取り巻きたちに見せてもみっともないからだろう。全力を尽くす兄様と戦っても善戦できるかどうかは正直分からない。


 しかし、テリアさんはなぜかニッコリした。


「後のことは考えずに、今の感じだけ素直に話してみてくださいね」


「……?」


 正直、何の意味があるのか理解できない質問だった。でもテリアさんが意味のないことを言うとは思わない。多分これも何か理由があるだろう。


「なんとか……戦う価値はあったと思います。劣勢ではあったけれど」


「ふふ。その感じをよく覚えて発展させてみましょう。そうしたらすぐ乗り越えられるから」


「いくらなんでも決闘の日まで強くなることはできませんよ」


 それが私の率直な気持ちだった。でもテリアさんはなぜか首を横に振った。


「さっきあいつに劣等感と言いましたよね?」


「それはそうでしたけど……それがどうしたんですの?」


「なぜ劣等感だと思ったのですの?」


「それは…」


 あれ。そういえばなぜだろう。


 その時はただ気の向くままに叫んだので、あまり意識もしなかった。だけど、兄様がいくら私を苦しめ周辺にも被害を及ぼしたとしても、ひとまず兄様は私より強いし爵位継承の可能性も最も大きい。


 そんな兄様に、私はなんで劣等感だと断定したのだろう。先日、テリアさんが兄様に劣等感だと言ったことはあったけど、その言葉を意識したわけではない。


 テリアさんに助けを求める視線を送ったけれど、彼女はニッコリするだけで、私が望む答えをくれなかった。


「一度よく考えてみてくださいね。自分がどうしてそう思ったのかを。その理由をきちんと分かれば、決闘も心配する必要はないでしょう」


「どういう意味……いいえ、何でもないです」


 自分で考えてみろと言った以上、聞いても教えてくれないだろう。そんな人だということくらいはもう私も理解している。


 私が自分で言葉を止めると、テリアさんは苦笑いした。すると胸から小さなポケットを取り出した。


「答えを教えられない代わりにこれをあげますわ。ささやかなプレゼントですの」


「これは何ですか?」


「空間制御の特性魔力を利用して収納スペースを増やした空間ポケットですの。他の機能はありませんけど、物をたくさん入れることができますわよ。決闘の時も役に立つと思いますわ」


 決闘に役立つ、か。確かに魔道具をあれこれ入れることはできるけれど、テリアさんならそんな単純な意図ではなさそうだ。


 ……もしかして、テリアさんは私の特性が何かを知っているのだろうか。


 父上も母上も、いつも私の味方になってくれたネスティさえも知らない私の特性。普通なら分かるはずがないけれど、テリアさんなら知ってもおかしくない気がする。


「ありがとう。大切にします」


「大切によりは有用に使ってくださいね」


「ふふっ、はい。有用に使います」


 そのような雰囲気で二人で練習場を整理して出て行く途中、テリアさんがふと思い出したという顔で口を開いた。


「しばらくお気をつけください。あいつが何をするか分からないですわよ。変にいじめるかもしれません」


「それは大丈夫ですの。どうせ慣れてるから」


「慣れているからといって良いわけではいけないでしょ」


「心配してもらえるのはありがたいです。でも本当に大丈夫ですの。それに……」


「それに?」


 首をかしげるテリアさんに、私は心からの笑みを浮かべた。


「もう、リディアも黙ってはいないですよ」


―――――


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