リディア・マスター・アルケンノヴァ
「お久しぶりです、皆さん。そして初めてお会いする方々、お会いできて嬉しいです。今年も編入生が結構見えますね」
総合戦闘術の授業。大英雄ピエリ・ラダスの登場に編入生たちが歓呼する一方、早くも互いに親しくなったり逆に牽制するなど、ニューフェイスの登場に相応しくいろいろな反応が見えた。その中でも断然注目される人が一人いた。
「はい、おはようございます! アルカと申します!」
アルカはニコニコ笑ってみんなに挨拶した。そしてみんなに関心を示しながら話しかけた。もともと公爵家の令嬢である上に私の妹ということもあって大きな関心を集めたけれど、本人の態度がそうだから周りに人が集まるのはあっという間だった。
「テリア様、このままだと人気奪われそうですね」
この一年間、私と親しくなった子供たちが冗談交じりにそんな言葉をかけた。まぁ、私は特に人気を得たい気持ちはないけどね。
反面、関心を負担に思う子もいた。
「おはようございます」
「お、おお、おはようございます。あうぅ……」
銀髪をツインテールにした女の子。その子も四大公爵家の一員であるだけに、みんなの注目度は高かった。でもアルカとは違って、まるで壁を立てるような態度だった。そしてすぐにでも逃げ出すようにビクビクしたため、みんな気兼ねしていた。
「さぁ、皆さん落ち着いてください。浮き立った気持ちは分かりますが、今は授業中です」
ピエリは生徒たちを落ち着かせた後、練習用武器が置かれている場所を指差した。今私たちがいる所はアカデミーでも最大の練習場である第一練習場だからか、装備も種類と数ともに豊富に用意されていた。
「編入生の皆さんの実力を確認したいのですが、すでに編入試験の時に基本的なことは測りましたよね? だから今回は生徒同士の手合わせ形式でやってみることにします。ああ、強制ではありませんので、ご参加になるかどうかと相手は自由にご選択ください」
ピエリの言葉が終わるやいなや、アルカは目を輝かせながら私の所に駆けつけた。
「お姉様!」
「ごめんね、今はダメ」
用件を持ち出す前に断った。するとアルカが泣き面をした。
「えっ!? なんでですか?」
「昨日言ったあの銀髪お姉さんと話したいことがあるの。少しだけ我慢してね」
「ぴえん」
ダメ、アルカの頭から落ち込む犬の耳が見えてる!
弱くなろうとする気持ちを必死に引き締めてロベルに言った。
「ロベル、私の代わりにアルカと相手にしてね。アルカの実力は私も確認しておきたいから」
「お姉様が直接されてくれればいいじゃないですか」
「ごめんね、今度手合わせしてあげるから」
繰り返しになると、アルカはしぶしぶ納得してくれた。まぁ、今はああしてもアルカはロベルとも仲がいいから大丈夫だろう。
私はアルカにロベルを送った後、足を運んだ。遠くからこっちの姿をちらりと見ていた女の子へ。
私が近づくと、その子は目に見えるほど慌ててあたりを見回した。少し可哀そうね。でも今回だけは最初から逃げさせるわけにはいかない。
「おはようございます」
「……お、おはよう、ございます」
ニッコリと笑いながら挨拶すると、彼女は緊張して小さな声で答えてくれた。……つい挨拶するのに魔力で聴力を強化しないと聞こえもしないなんて、なかなか重症だね。
それでもまだ人を完全に断ってはいないようで少し安心した。
「アルケンノヴァ公爵家のリディアさん、ですよね? お会いできて嬉しいですの。私はテリア・マイティ・オステノヴァと申します。よろしくお願いします」
「リ、リディアは……リディア・マスター・アルケンノヴァ、と申します。よろしくお願い……はちょっと……」
「あはは、警戒されますわね」
「ち、違います。それが、その……」
「あまり無理する必要はありませんよ」
握手でもしようかと思ったけどやめた。こんな状態なら訳もなく接触を急ぐ必要はないから。
そのまま黙ってしまったリディアの傍に立って、アルカの方を振り返った。ちょうどロベルと向かい合って話をしていた。周辺でも間もなく始まるということを感じたのか、人員が数百人にもなるのが信じられないほど周辺が静かになった。
実は計画にはなかったことだけど、どうせこうなったから少しだけ便乗してみようかしら。
「私の妹、どう思うのですの?」
「え、え? どうって……」
「可愛くて愛らしいでしょう?」
「そ、その通りです。本当に……リディアなんかとは……」
「あら、リディアさんも可愛くて愛らしいですの」
「か、からかわないでください」
「冗談でも、からかうわけでもありません」
長い前髪の下から私のような青い目が私を見た。髪の毛越しにも分かるほど当惑と疑問が感じられた。
私はできるだけ悪く見えないように笑った。
「アルカはですね、あんな風に見えても結構強いんですのよ? 可愛い外見だけを見て侮ってはいけません」
「は、はい……」
「それはリディアさんも同じですわよ」
「はい……はい!?」
リディアは目に見えて慌てた。「そんなことが」、「リディアなんて」、「全然」とかの言葉がちらほら聞こえてきた。
うーん、やっぱり当分は難しいのかしら。
リディアの自己卑下と小心さが普通以上だということは知っていたけれど、実際に接してみると少し困るわね。
まぁ、予想できなかったことではない。むしろこの程度の言葉で解決されるなら苦労もしないだろう。
「いいえ、リディアさんもアルカと同じですの。可愛くて愛らしい外見の裏に優れた能力を備えていますよね。今までリディアさんが会った人たちがそれを知らなかっただけです。リディアさんは自分で思うよりずっと……」
「ちょ、ちょっと! 待って、ください……」
リディアは目を伏せたけれど、かなり慌てたように思わず声を上げた。直後また小さい声に戻ってしまったけど。
「どうして……どうしてそんなことを言うのですの? テリアさんは……リディアと今日が初対面……」
「私の見る目はなかなかいい方なんですの」
まぁ、実際にはゲームの記憶があるからだけど。とにかく嘘ではない。リディアは才能も能力も確かに優れているから。
そもそも『バルセイ』の攻略対象者は全員各自の特技分野では最高レベルであり、それはリディアも例外ではない。ただ本人のメンタルがコレなので才能も能力も発揮できないだけ。
しかもゲームでは今よりもっと憂鬱でヒキコモリ気質まであってもっと接しにくかった……というか、どこにあるのか探すことからが苦役だった。今はグズグズしながらも外に出る最低限の余裕でもあるけれど、ゲームではひどく苦しめられて対人忌避症と人間不信が非常に極限に達していたし。
……こんなか弱い子に私は一体何をしたのだろう。
自己嫌悪がわき起こって首を横に振った。
『バルセイ』はあくまでゲームの物語。私はそのゲームで予告された悲劇を防ぐために動くの。それだけ明確にすれば問題はない。
急に一人で首を横に振りながら悩んでいたら、リディアが首を傾げた。ゲームだったら私の態度に全然興味を示さなかったはずなのに、これだけでもよかったというか。
「リディアさんはどうしてそんなに自分をけなすのですの?」
「そ、それは……」
しまった、性急すぎたかしら?
この質問はリディアの核心に至る質問だけど、それだけ敏感な問題でもある。会ったばかりの私が急に投げるには無礼だったかもしれない。
幸い、リディアの反応はこれまでと大差はなかった。
「リディアは……取るに足らないし弱いから……何もできません。リディアには……価値がありません」
「全ッ然そうではありません」
思わず声に力が入った。リディアも私の気配が変わったのを感じたようにちらりと私を見た。
腹が立つ。今だけはゲームでの私の悪行よりも、リディアをこのようにした元凶があまりにも憎い。そんな、そんな稚拙でむちゃくちゃな理由でこの優しい子を……。
「リディアさん、貴方は……」
話そうとしたけど止まった。
危ない。あまり深く掘り下げると変な疑いを受けることがある。
私が事情を知っているのはあくまでゲームの記憶があるおかげで、本来なら分かるはずがない。出しゃばって疑われる状況は避けないと。
「あまり自分を過小評価しないでください。リディアさんは十分強くて素敵で可愛いですからね」
「あ、あうぅ……」
「私が認めたように、他の人たちもリディアさんが素敵で魅力的な人だということを知ってくれるでしょう。少しずつ努力していけば、リディアさん本人も自分がどれほど立派な人なのか分かるでしょう」
「ちょ、ちょっと……」
「ご心配なく。リディアさんはただ自分の長所を知らないだけです。つまりリディアさんがどんなに愛らしくて強い人なのか、みんなが……」
「し、失礼します!」
「あ……」
逃げてしまった。
それでも授業から逃げたほどではなく、ただ私を避けて距離を広げただけだった。魔力の気配をたどってリディアがまだ練習場の中にいることを確認した私は胸をなで下ろした。
リディアがこのように逃げるのはゲームではよくあったことだ。いや、むしろ一言出したとたん逃げがちだったあの頃と比べると、会話がかなり続いただけでも青信号と言えるだろう。
そのように心を整理し、アルカの方に視線を向けた。ちょうどそろそろ始めようとしているようだった。
周りの人々は小さくて可愛いアルカがロベルと戦おうとすると心配する気持ちと、私の妹であるアルカがどんな異変を見せるかに対する期待で目を輝かせていた。
もうすぐみんな分かるだろう。『バルセイ』の……いや、この世界の〝主人公〟であるアルカがどんな存在なのかを。
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