奇襲
中央講堂の式典用ホール。
ここを式典用ホールと呼ぶのは先日知った。毎年入学式が行われる場所でもあり、他にもアカデミーの主要行事は主にここで行われる。
正直、他のことならともかく、入学式をもう二度と見たくはなかったのだけどね。退屈な訓話をまた聞くのだから。
今年で十二歳、もう二年生になった私はもちろん新入生として参加したわけではない。修練騎士団執行部員として秩序維持と監督の役割を遂行する。
もちろん入学式自体が見たくて来たわけではない。〝あの子〟を探すためだ。あの子は私と同じ学年で今日編入する予定だから。
「今年は騎士科の人数がかなり多いようです」
ロベルの言葉にそっと頷いた。
主要学科ごとに制服の色やデザインが異なり、特に騎士科は制服自体が戦闘服でもある魔道具なので他の科とは差が大きい。新入生の人波の外で見ると、確かに人数が多い。
「新入生と編入生を区分する基準があるのかしら?」
「分かりません。表では見分けがつかないようです」
今回入ってくる攻略対象者は新入生ではなく二年生編入生だ。でも生徒を特に新入生と編入生に分けたわけでもなく、制服も完全に同一なので区分する方法がない。
「ロベル、私と同じ銀髪の生徒を探してほしいの」
「はい」
もちろん私も生徒たちを直接見回した。でも探すのがとても難しい。
この世界は前世の地球より髪色が多様であるにもかかわらず、銀髪は珍しい色だ。その攻略対象者は私と同じ銀髪なので見つけやすいと思ったけれど、どうやら安逸な考えだったようだ。
いや、考えてみれば当然のことだった。あの子は同年代の子供たちより背がかなり低いから。これくらいの人波なら見えないのが当然だ。
そう思いながらもできるだけ目を丸くして探してみると……全く予想もしなかった人を捜してしまった。
「えっ?」
思わず声を出した。ロベルがどうしたのかと思って私の視線を追って……音は出さなかったけど、やっぱり驚いたように目を丸くした。見間違えたかと思って目を深くまばたきしてもう一度見たけど、いくら見直しても変わらなかった。
むしろその人が私を見つけてニッコリ笑った。入学式の途中でなかったら、手まで振っていたはずの笑みだ。
「ロベル。貴方、何か聞いたことあるの?」
「い、いいえ。僕も知らなかったです」
私にニッコリ笑う少女と、その傍でグズグズと私を見ながら小さく挨拶する少女。
見間違えるはずがない。私が愛してやまない愛らしい妹、アルカだった。グズグズしている赤毛の少女はロベルの妹であり、アルカの専属メイドであるハンナだ。
いや、あの子たちがなんでここにいるの!?
[お姉様!]
さらにアルカは思念通信まで送ってきた。
[アルカ? なんでここに?]
[お姉様を驚かせようとこっそり来ました! びっくりしたでしょうねっ?]
[こんな大事なことをただ驚かせようとしたの!?]
[テヘッ]
テヘッじゃないわよテヘッじゃ!
いや、別に悪いことではない。ただ、ゲームでアルカがアカデミーに入学したのは十六の頃、つまり私が十八の時だ。今の私が十にだから、なんと六年後だということだ。そんなあの子が六年も早く入学するなんて。
[本当にびっくりしたの。前もって話してくれればよかったのに]
[えへへ、まだもう一つあるんですよ?]
[え? 他に何が……]
[私編入しました! 二年生! お姉様と同じ学年です!]
[えええっ!?]
いや、私と同じ学年だって? マジ!?
慌てたけど、考えてみればゲームでもアルカが編入した学年は今私が探している攻略対象者と同じ学年だった。
フィクションでよく見られるゲームの強制力……ではないだろう。多分これは…….
[お姉様と同じ学年になりたかったです! お姉様と一緒に授業を受けることができますから!]
やっぱり!!
アルカならそうだろうと思った。すなわちゲームの強制力のようなものではなく、ゲーム知識を土台に私が入学時期を変更したため、アルカがそれについてきたのだ。結果的に攻略対象者と学年が同じになったのはただの偶然。
私のことが好きでやったことだということは知っていて、その気持ち自体は本当に嬉しい。しかもアルカはまだ十歳。なのに一年生の入学でもなく二年生の編入なんて、編入試験の難易度を考えるとよほどの努力では不可能だっただろう。
でも……。
「本当に、アルカも本当に困る子よね。こんな突発行動だなんて」
少し文句を言ったら、ロベルが何とも言い表せない目で私を見た。
「どうしたの?」
「いいえ。お嬢様が良心を失ったのか一瞬悩みました」
急に何よ!?
【本当に分からないの?】
イシリンまで!
なんで私には味方がいないのかしら。
私がそんなに落ち込んでいる間、アルカは遠くで誰かに話しかけていた。どうやら誰かの裾を引いているようだった。
まだ入学式中なので堂々と動くことはできなかったけれど、すぐ傍にいる人をこっそり引く程度はあまり目立たないだろう。
そのようにアルカに引かれてしぶしぶ顔を出した人を見て、私は息を呑んだ。
「探していたのがあの方ですか?」
ロベルの言葉に私は黙って頷いた。
十歳の少女の平均身長にぴったりのアルカよりも、頭の半分くらいは低い身長。ツインテールにした長い銀髪と長い前髪に隠れて見えにくい青い目。
可愛くて愛らしいけれど、外見に似合う活発さよりは何か可哀そうで切ない感じを与える女の子だ。正直、知らずに見ていたら騎士科であること自体が何か間違いではないかと思うほどだった。
その子はアルカに引かれて仕方なく私をちらりと見て、小さくペコリと挨拶して慌ててアルカの陰に隠れた。
やっぱりゲームと同じ状態みたいだね。
もちろん、それは良いことではない。私が与えた傷以外には特に問題がなかった他の攻略対象者たちとは違って、あの子は私と会う前からずっと傷ついてきた子だから。私はただその傷を勝手に掘り返しただけだった。
ゲームのストーリー通りならあの子も私と同じ学年に編入したのだから、多分すぐ会う機会ができるだろう。
そう思いながら私は入学式が終わるのをずっと待っていた。
***
「突撃! お姉様の部屋襲撃!」
アルカはそう叫びながら勢いよく私の部屋に飛び込んだ。
「アルカ、アカデミーの方々に迷惑かけたんじゃないよね?」
「いいえ! 許可は全部もらったんですよ!」
アルカは頬を膨らませた。
可愛い!!
頬を刺したい気持ちをこらえながらアルカの荷物を入れる。私が直接荷物を運ぶと、ドアの前まで荷物を持ってきたハンナが戸惑いながら頭を下げた。
「も、申し訳ございません! 私が入れるべきだったのですが……!」
「あ、ごめん。仕事を奪ってしまったわね」
「いいえ! 私が遅くてバカなので……」
「やめて、やめて。そんなこと言わないでってば」
本当に、ハンナはいつもこんな感じだ。兄のロベルの図々しさに半分だけ似てもいいのに。
一方、そのハンナが仕えるアルカは図々しさの極致だった。まるでハンナの分まで奪ったかのような勢いだ。
「わぁ! 犬のぬいぐるみここにお置きになったのですね! 可愛い! あ、でもお姉様の部屋は何もないみたいです。私が少し満たしてあげます。そういえばアカデミーの近くに美味しいお菓子が……」
「ストップ。とりあえず落ち着いて座ってくれる?」
誰に似ているの本当に。……と言えば間違いなく四方からサラウンドで「そりゃ当然お嬢様でしょう」と言い返すから口にはしなかった。ほら、私も成長するわよ。
【バカ】
……。
とにかく興奮したアルカを座らせた。普段はこれほど自分の話ばかりする子ではなかったけれど、よほど浮かれているのだろう。
「それで? 学年と学科に加えて寮まで私と合わせたの?」
「事務局にお願いしたんですよ! もともと新しく入学してきた四大公爵家は一年は一人で使うのが慣例だと聞きましたけど、すぐにお姉様と同じ部屋に入れてほしいと言いました!」
「迷惑かけたんじゃないよね?」
「事務局は問題ないと言っていました!」
そしてアルカはまだ開けてもいない荷物を開けて探って、銀色の猫のぬいぐるみを取り出した。そしてそれを金色の子犬のぬいぐるみの隣に置いた。
「これで別れたぬいぐるみもまた一緒ですよ!」
「そうそう、可愛いわね。それにしても一つ聞いてもいいのかしら?」
「一つじゃなくて百個でもいいですよ!」
ごめん。百は私の方が疲れて無理なのよ。
興奮したアルカはかなりエネルギーを抜かせるのを感じながら、私はずっと聞きたかったことを口にした。
「入学式の時、貴方と一緒にいた銀髪の女の子、もしかして入る前に会って一緒に行ったの?」
「ホールで席が分からなくて迷っていて会いました。席まで案内してくれたいい子でした!」
いい子、か。間違ってはいないけど、それをアルカの口で聞くと少し笑いが出た。
「彼女は私より一つ年上なのよ。子って呼ぶのはちょっとアレだよね」
「えっ!?」
アルカだけではなく、ロベルとハンナもびっくりした。まぁアルカより小さい上に性格まで萎縮していて、さらに存在感のないそんな子が十三歳だとしたら驚くだろう。
「それで? 話してみた?」
「ちょっとですね。あの子……いや、そのお姉さんすごく恥ずかしがる方でした」
「そうみたいだったわ。あまり困らせてはいけないわよ?」
「気をつけます」
かなり楽しみだね。
どうせ同じ学年で同じ科だからすぐ明日から会えるけど、正直どうやって話しかけるべきか少し悩んだ。しかし、アルカが親和力を発揮して先に接点を作ったようだから、アルカと一緒ならすぐに話ができそうだ。
……あの子はそれが気に食わないだろうけれど。
―――――
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