ミッドレースアルファ・プロトタイプ 下

 悪魔が羽ばたくと魔力が吹きまくった。その魔力に当たったものはすべて粉になって崩れてしまい、悪魔の足を拘束した氷も砕けた。壊れなかったのは私と私の魔剣だけだった。


 魔物合成と加工を重ねてやっと奴が得た特性、『崩壊』。シンプルな能力だけど、物質を破壊する力だけはレベルが高い。怒りが爆発しなければ使えないというのが唯一の短所だったけれど、その問題も今解消された。


【何してるの!? なら力を使う前に倒さなきゃ!】


[あれを発動させれば奴の力と細胞が最大に活性化されるのよ]


【だから活性化されないようにすべきだったじゃない!!】


[貴方のためだからちょっと我慢して待ってて]


【え? ……、………! 貴方まさか……!】


[来るわよ!]


 目に見えるほど濃密な魔力の波が噴き出した。『崩壊』の力が床を粉々にして襲ってきた。


 私は魔剣をすべて操って私の前に盾で立てた。完全に防げなかったけど、魔剣が壊れながら波の勢いが減った。


 ――天空流〈黒点描き〉


 黒い魔力の盾が『崩壊』の勢いを削る間に魔力で特殊な陣を繰り広げた。そして〈黒点描き〉の力が尽き、『崩壊』の魔力がその陣に触れた瞬間、魔力が陣に逆に吸収された。その魔力はすべて私の剣に集まって非常に巨大な刃を形成した。


 ――天空流〈半月描き〉


 巨大な斬撃が悪魔の胴体を肩から股間まで深く斬った。


〈半月描き〉は敵の魔力を吸収して攻撃に加える反撃技。細胞が活性化してさらに硬くなった悪魔にもその力は十分効果ある。しかし、奴も大量の魔力と引き換えに素早くその傷を再生し始めた。


「クオオオオオオ!」


 怒りに満ちた咆哮が音の壁になって襲ってきた。これまで通りの音波砲だったけれど、『崩壊』の力が加わるとさらに脅威的だった。


 ――紫光技特性模写『万壊電』・『加速』・『増幅』三重複合


 様々な特性魔力を合成した〈三日月描き〉を放つ。悪魔は拳に魔力を集めて正面からぶつかった。


「ガアァッ!」


 轟音が鳴った。肩口から切り取られた悪魔の右腕が落ちた音だった。


 激痛で鳴き叫ぶ悪魔に〈彗星描き〉で一気に接近して一閃。首を狙ったけど奴が避けたため、皮膚を浅く斬るだけだった。ブンッと衝撃波を伴った音と共に巨大な左腕が私を襲った。


 ――紫光技特性模写『看破』


 下に身を躍らせて躱して反撃しようとしたけれど、その直前に再び後ろに跳躍した。その直後、私がいた所に『崩壊』の魔力が爆発した。その間、悪魔は口で大量の魔力を集めた。


 それに対応しようと魔力を絞り出していたところ、突然トリアから思念通信が入ってきた。


[お嬢様? ご無事ですか?]


[トリア!? どうやってつながったの?]


[お嬢様がお入りになったドアの近くに増幅器を設置しました。ご無事ですか?]


[うん、でも今ちょっと忙しいわ!]


「チクショウ!!」


 こうしたらもっと困るのに!!


 思わず淑女らしくない悪口を吐いてしまった。しかし悪口でも言わずには耐えられない。


 いくら増幅器を設置したとしても、まともに隔絶された異空間ならドアが閉ると通信が通じるはずがない。それでも通じたということは、異空間が完全に分離されたわけではないという意味だ。その場合、中で大きすぎる攻撃が起こると異空間が壊れて外まで被害が出ることもある!


 考えている間も目は熱心に異空間の中を探した。もともとここに来た目的だった魔道具を探すために。


 見つけた! 位置は……ちょうどいい。早く判断を下した私は悪魔との間にその魔道具が位置するように動いた。


 位置を決めた瞬間、悪魔の口から巨大な魔力砲が発射された。


 轟音と共に巨大な魔力の塊が私に近づいてきた。それに対抗して私は『冬天』の魔剣に『鈍化』、『拘束』、『吸収』の特性魔力を集めて『紅炎』を飛ばした。二つの魔力が衝突した瞬間、『冬天』の氷が急速に成長して魔力砲を防ぐ一方、魔力砲の勢いは目立って減った。


【テリア! あそこ!】


 イシリンが魔力で指した所を見る。魔道具が破壊力の影響で壊れて飛ばされていくのが見えた。跡形も残らないかもしれないと思ったけど、幸い少しだが破片が残った。私は素早く魔力を操作して念動力で破片を確保した。そのため、悪魔の次の攻撃に対応するタイミングを逃してしまった。


 魔力が揺れ動く気配を感じて頭を上げた。悪魔が左腕に魔力を集めていた。右腕の再生を諦めてまで集中させた魔力。量だけを考えると、すでに今の私が短時間で発揮できる最大出力を超えた状態だった。


 まさに異空間を突き破って外にいるトリアとジェリアにまで被害が及ぶほどでは!!


 ――紫光技特性模写『万壊電』・『鋼体』・『鋼鉄』・『不動』四重複合


「はあああああああああああーー!!」


 紫鋼の羽毛を従えて最大の斬撃を放つ。


『冬天』と『切削』の魔剣に鋼鉄と雷を抱いて決して押されない『不動』の力まで加えた一撃。それでも圧倒的に凝縮された『崩壊』の魔力砲を完全に相殺することはできなかった。


「うっ……あぁぁぁぁぁぁ!」


 魔力砲の余波をそのまま受けた私は我慢できず悲鳴を上げて飛ばされてしまった。


【テリア!!】


[大、丈夫よ……!]


【大丈夫って何が! 体が完全にめちゃくちゃになったじゃない!!】


 騎士科の白い制服が真っ赤に染まってしまった。いや、実は裂けて血のついた肌がもっと多く見えた。割れた身の隙間から骨が見える部位まであり、その骨さえ所々折れてまともに立つこともできなかった。


 痛い。こんなに焼けるように痛いのは生まれて初めてだ。


 前世の病気による痛みとは全く違う。今もずっと四方から串で私の体を突き刺すような感じだった。魔力で感覚を抑えたにもかかわらず、かなりの苦痛だった。


 しかし……妙に冷静に受け止める私がいた。


 ――考えてはいけない。


 心から湧き出る疑問を押し隠して全身に魔力を循環させた。


 めっちゃ痛いけれど……四肢とも切り取られたのでなかければ、まだ動ける。


 ――紫光技特性模写『傀儡』


 魔力の糸が私の全身に絡む。まるで人形を糸で操るかのように私の体が突然立ち上がった。ものすごい激痛と共に喉から血が噴き出した。


「うくっ……!」


【無理しないで!】


[どうせやらないと死ぬわよ]


 実は魔力砲を浴びた直後から『治癒』の魔力を全身に入れ込んでいた。『崩壊』の余波で治癒が非常に遅かったけれど、それは『万壊電』で再生を妨害される悪魔も同じだった。特に、さっき切った右腕の断面ではまだ紫色の電流がパチパチしていた。


 しかもやっぱり魔力をかなり消耗したのか、悪魔から感じられる力がさっきよりかなり減った。


 一方、私は一度に扱える量には限界があっても、魔力量自体は無限。回復しながら持久戦に持ち込めば問題なく勝つだろう。


 でも……。


 ――紫光技特性模写『鋼体』・『加速』・『治癒』・『傀儡』四重複合


 限界に近い体に魔力を打ち込んでさらに強化する。〈選別者〉で沸き立つ右目の眼光がより一層強くなった。


【テリア!? 無理しないでってば!】


[放置すればまた外に影響する攻撃をするかもしれないわよ。それに……]


 不思議だ。


 こんなに痛くて苦しいのに……なんとなく笑いが出た。


[プロローグボスなんかにこんな格好で慌てふためけば……中ボスのプライドがすごく刺激されるのよ!!]


【何てバカなことよこのバカ!!】


 イシリンの突っ込みを無視して、悪魔が私を狙って発射した魔弾を避けた。確かにさっきより勢いが弱い。


 走りながら〈魔装作成〉で魔剣を二十本錬成する。そのうち『拘束』と『鈍化』などの力を持った魔剣の十本発射して牽制し、私自身は空中で跳躍を繰り返し悪魔の後頭部を取った。両手には『崩壊』と『万壊電』の魔剣が一本ずつ。


 ――天空流〈フレア〉


 雷を抱いた閃光が閃いた。悪魔の首筋から血が噴き出した。今回はかなり深かった。そして体内で爆発する『万壊電』が奴をさらに苦しめた。


「クルァッ!」


 咆哮しながら振り回した左腕を避けて下へ。今度は『崩壊』の魔剣で〈流星撃ち〉を撃って太ももを大きく刳り貫いた。悪魔は悲鳴を上げて私に向かって魔弾を連発した。


 ――天空流〈半月描き〉


 魔弾を吸収した斬撃で脇腹を深く斬った。滝のように降り注ぐ血を『万壊電』の魔剣で払い落としてから再び悪魔の後方へ。残りの左腕を切り落とすため〈三日月描き〉を放った。けれど悪魔はわずかな差で避けた。でも完全に避けることはできず、残った翼が切られた。


「バオオオオオオオオオオオオーー!!!」


 悪魔はこれまでで最大の咆哮を上げ、激しく魔力を放出した。そして私が魔力波を避けて後退する間、もう一度左腕に魔力を集めた。さっきのように最大の一撃を飛ばそうとするのね。


 しかし悪魔の魔力はさっきより少ない。そして私には魔力を集める時間があった。


「終わらせよう」


 返事のない敵にというより、自分自身に聞かせるように呟いた。


 体調は相変わらずめちゃくちゃ。しかし、ぎりぎり自力で一、二回振り回す程度には回復した。


 双剣を一つに融合させて『万壊電』と『崩壊』の力を持った魔剣に作り直した。そして四重複合特性の中で『治癒』と『傀儡』を『切削』と『増幅』に。一気に重くなった体を『鋼体』の強力な身体強化で無理やり動かしながら剣に魔力を集める。それに加えて『鋼鉄』の魔剣を操縦して鋼の羽毛で剣を包み、『増幅』を応用して羽毛を共鳴させて魔力を増幅する効果を作った。


 過度な加工と魔力量の集中で、すでに限界に近い体が悲鳴を上げる。口から血が噴き出し、少しでも癒えた傷が再び広がった。


 この技は本来ならまだ使えない技。それをあらゆる特性を利用して中途半端に具現するに過ぎない。この程度の無理は仕方ないだろう。


 ……こうなると知っていたら、初めから隙を大きく誘導してからすぐ使えばよかった。それならこんなに痛くはならなかったのに。


 そんな後悔を後にして、魔力を頂点まで集めた私はすぐに行動を開始した。


 ――天空流〈彗星描き〉


 最後の跳躍で急速に接近する。悪魔はまるで私を迎えるように拳を突き出した。悪魔の魔力がほとんど全部集まったせいか、今回の魔力砲はさっきのものと比べても引けを取らない一撃だった。


 しかし、今回は負けないわよ。


 ――天空流奥義


 剣を後ろに垂らす。尻尾を引くように並んだ鋼の羽がまるで紫色に輝く羽のようでも、あるいは本物の彗星の尻尾のようでも見えた。


 手に力を入れる。距離はぎりぎりまで。悪魔の魔力砲どころか拳そのものに触れるほど近づいた。


 目の前から魔力砲が噴き出す閃光を目撃した瞬間、私は全力で剣を振り回した。


 ――〈満月描き〉


 ……嵐が起こった。


 激しい魔力の激流の中で、私は戦いの結末を迎えた。


―――――


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