異空間を守る戦い
「はああああ!」
巨大な氷刃が生えた冬氷剣を全力で振り回した。押し寄せてきた魔物が一撃で粉砕された。その余波でボクが敷いておいた氷が大量に砕けた。そして壊れた氷はもう一度爆発してボクの剣に集まった。
――狂竜剣流『冬天』専用技〈暴食の歯〉
轟音と共に破壊の嵐が部屋を埋め尽くした。嵐が襲った場所には細かく砕かれた魔物の残骸だけがいっぱいだった。
しかし安息領の奴らは廊下から魔物を投げ入れるだけで、部屋に入る気配は全くなかった。
あいつら、いつまであんな風にしているつもりだ?
「クッソ、休む暇がないな」
そっと悪口が吐き出して剣を取り直す。〈暴食の歯〉で氷を消耗したおかげで部屋の中はもちろん外まで丸見えだった。安息領の奴らが八、そして奴らが指にはめた宝石が大体三、四個ずつ。一体どれくらい持ってるんだ、あいつら。
だが、魔物たちが所得なしに死んでしまうからもったいなくなったのか、奴らはボクを遠くから警戒するだけで、魔物をなかなか解放しなかった。
「どうした? 来なかったらボクが行くぞ?」
試しに挑発したら、奴らの一人が口を開いた。
「ふん、そこを守るために身動きが取れねぇのは全部知っている。見栄を張るな」
「本当にそう思うのか?」
「また見栄張りを……」
氷の槍を五つほど作って撃った。その攻撃で廊下が壊れ、轟音が鳴った。安息領の奴らの緊張度が一気に高まった。
「ローレースアルファをもっと集めろ! 疲れるまで物量で追い込む!」
苦笑いが出る。
まぁ、それでも奴らや魔物たちの能力ではボクを倒す方法がないから一見妥当な作戦ではある。ボクに余裕がなかったらな。
「面白い。ボクが疲れるのが先なのか、それとも貴様らの物量が先に尽きるのか計ってみるのもいいぞ」
威圧的に魔力を放つと奴らは「くっ」と躊躇した。だからといって逃げはしないが、どうせボクもいくらでも相手にしてあげられる。
それより気になる単語があったんだが。
「それにしてもローレースアルファって何だ? そのキメラみたいな魔物の名前なのか? ミッドレースやハイレースもありそうな名前だな」
「……!」
「……本当なのか? ネーミングセンスがおかしいぞ」
「黙れ! 俺らがつけたんじゃねぇ!」
「いやまあ誰がつけたとしても構わないが」
冗談はさておき、良い情報を得た。
名前から推測すると、恐らくローレースは最も低いラインナップだろう。ミッドレースやハイレースはそれよりも強い上位ラインナップだろうか。ということはこれらよりも強力なものが用意されていたり、あるいは開発しているという意味だ。
ローレースという奴らは正直、一匹一匹だけ見ればそれほど脅威ではない。普通の魔物よりは少し強くて面倒だが、ただそれだけだ。
しかし、どのように作ったのかは分からないが、こんな魔物を大量に製造して携帯するだけでも大きな脅威だ。
もしそれがもっと強力な魔物に変わったら?
「考えただけでもぞっとするぞ」
また近づいてくる魔物たち……ローレースアルファか何かを見ながら、そっと呟いた。
どうやらこいつら、これからはもっと大きな脅威になりそうだ。できれば何匹くらい生け捕りしたいんだが……。
その瞬間、後ろから刃がボクを襲った。
気配だけで避け、奇襲者の腹部につま先を突っ込んだ。がはぁっと息を吐く顔にニーキックをプレゼントして意識を奪った。その間飛びかかるローレースアルファに剣を振り回した。
さっきからこんな感じだ。魔物を投げてどこかで奇襲する作戦。全て阻んではいたが、奇襲にやられないように備えなければならない上に空間のドアがあった位置を守らなければならず、積極的に安息領の奴らを攻撃することができなかった。
最初は魔物と一緒に飛びかかった奴らも、ボクの状況に気づいてからコソコソしてばかりだった。ムカつくな。
[ジェリア様、聞こえますか?]
その時、思念通信が入ってきた。トリアだった。
[どうした?]
[外にいい助っ人が到着して余裕ができました。講堂の内部に入ろうかと思ったのですが、お嬢様と連絡が取れません。何かあったのですか?]
[あいつ、一人で先に空間が歪んだドアに飛び込んだぞ。だがボクが入る前にドアがすぐ閉まった。多分異空間に入ったようだ]
[お嬢様はご無事ですか?]
トリアの口調は淡々としていたが、思念が少し揺れていた。テリア一人で異空間に入ったと聞いたから心配にもなるだろう。
[分からん。一応ドアのあった所を守っているところだぞ]
[はい。すぐそちらに行きます]
[ああ、来るうちに安息領の奴らが見えたら、奴らが使う魔物宝石を奪ってほしい。こいつらよりもっと強い個体を作っている可能性があるぞ。研究をしてみなければならないようだ。そしてここの位置は……]
[位置はすでに探知しました。宝石も十個くらい確保しました]
[頼もしいな]
よし、その後のことは一通り対比されたようだな。それでも標本は多ければ多いほどいいだろうから、ボクもいくつか奪っておこうか。
唇をなめて剣を取り直すと、それを挑発と思ったように安息領の奴らが首に青筋を立てた。 すると奴らは長い金属の塊を取り出した。
あの鈍く光る武器は……銃?
魔弾を自ら作れなくても魔力を集約して魔弾を射出してくれる武器だ。かなり古いモデルではあったが、初心者が使ってもいいほど威力だけは確かだ。
「殺しても構わないから撃って!」
次々と射撃音が鳴り、魔弾が雨のように降り注いだ。
それを氷の盾で防いだ。そして氷の魔弾を作って無差別に撃った。氷の魔弾は着弾した瞬間、急速に氷をまき散らして奴らを無力化させた。仕上げに氷を操作して頭を殴って意識を奪った。
次が来るまで待ちながら、ふと疑問が頭をもたげた。
そもそも安息領がここまでする理由は何だろうか。
邪毒災害テロを重要視するのは分かるが、本質的にはただ魔道具一つを置いて邪毒陣を撒いただけだ。計画が無駄になっても損害は少ない。
反面、あのキメラのような魔物はいくら数が多いとはいえ、作るのに苦労したはずだ。だがその結果と雑兵をこれほど浪費してまで無理やり暴れる理由が分からない。魔道具がすごく高くて珍しいものでもあったか? それとも何か他の目的があるのか?
かなり気になるが、今は判断根拠が少なすぎる。後でテリアやガイ先輩と相談してみないと。
そんな悩みをしている間に廊下の向こうから足音が聞こえてきた。そろそろ来るのか。ところが今回は足音だけでなく、何かぶつかって割れる音や爆発する音のようなものも一緒に聞こえた。それにだんだん近づいていた。おまけにボクの能力のために精一杯下がっていた気温が少しずつ上がっていくような……。
そう思った瞬間、突然テリアが開けた向こうの穴からものすごい炎が噴き出した。
「あれは……?」
炎と共に、燃え尽きて灰になっていくローレースアルファが何匹も飛び出した。そしてそれらを足で蹴って壊して出てきた人は……。
「トリア?」
「ご無事でしたね。よかったです」
瞬く間に部屋に滑り込むように入ってきたトリアは、メイド服についた煤を振り払いながら自然に挨拶した。そして腕を上げて穴の方に火炎の魔力を強く吐き出した。
「待って、人は……」
「向こうは魔物しかありません」
「それはよかったな。……いや、そうじゃないぞ、室内でそんなにやたらに炎を使えばいけないぞ!?」
「大丈夫です」
トリアが指パッチンをすると、炎はまるで蜃気楼のように消えた。燃え尽きた通路と熱気だけは残ったが。
しかし、そこから敵が近づいてくる気配は依然として残っていた。やはり頭数だけは多いぞ。本当に飽きもしない奴らだな。
「申し訳ありませんが、もしお話があっても後でしましょう」
「いい。どうせテリアとも一緒に話したいことが多いぞ」
「一応ここでは一緒に……」
トリアはボクを見て言葉を止めた。いや、ボクというよりはボクの魔力を見ているのか?
「そういえば、ジェリア様の魔力は氷でしたね」
「炎を使いたければ使ってもいいぞ。あんたも強いみたいだからな」
「いいえ、あえてご自制にならなくてもいいですよ。私は大丈夫ですから」
そしてトリアはボクが何か言う前に手に魔力を集め、手のひらの上に小さな突風を作り出した。
……うん? 突風?
「炎でなくても構わないんですから」
穴から敵が飛び出した瞬間、トリアはそちらに跳躍して手を振った。瞬く間に成長した突風が廊下全体はもちろん、穴越しまで襲った。
穴に水を入れて異物を取り出すように、安息領の奴らとローレースアルファが引きずり出され、二つに分かれて積もった。ボクは素早く安息領の奴らを氷で拘束した。トリアはローレースアルファたちを風の刃で引き裂いた。
「あんた、特性は一体何だ?」
炎と風を同時に扱うとは、二重特性でもあるのか。紫光技のような便法ならともかく、本当の多重特性はそれよりも珍しいのに。
「みんな私の力を初めて見るとそんな質問をしますね。全部終わってからお話します」
トリアは敵の攻撃が一時的に途絶えた隙を狙って部屋に戻った。そしてボクが氷結界で封印しておいた地点に近づいた。
「ここにテリアお嬢様を入った異空間のドアがあったということですよね?」
「そうだ。開けてあげようか?」
「いいえ、これくらいの距離なら大丈夫です」
するとトリアは結界の前に杭のような形をした魔道具を置いた。思念増幅器だな。異空間の中にあるテリアと通信を試みるのか。
「結界周辺は私がカバーします。もうご自由にお動きください」
言ってもいなかったが、ボクがずっとこの場に縛られていた理由にも気付いたらしいな。こんなに有能な護衛がいるとは、テリアが少し羨ましい。
「ありがとよ。なら遠慮なく暴れてみよう」
正直、大きく動くこともできずに戦うのはもどかしかった。トリアはプロの護衛で、テリアに仕える人だからこの席は任せてもいいだろう。
廊下に出たボクは敵が近づいてくる音を聞きながら唇をなめた。
―――――
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