ベインとレイナ

「ベイン。終わった後は一緒にお茶を飲もうよ?」


「ふざけないでください。要りません」


 ベインの足もとから炎が起こった。彼の魔法だった。簡単で素朴な魔法だが、詠唱も手振りもなく発動したということ自体が彼の熟練度を証明した。


「俺ももう適性を明確にした身です。『万能』があっても、姉君より俺が優れていることがすぐ証明されるでしょう」


 ベインは十才。すでに適性判別の儀式を行った。いや、実は意識の前からすでに彼は適性をある程度自覚して練習していた。そのため、彼の魔法能力は自信を持って話せるレベルだった。


 パメラは少し悲しそうに笑った。


「貴方が私に勝てば、その時は一緒にお茶を飲んでくれるの?」


「いやらしい芝居はやめてください」


 ベインは冷たく背を向けた。結局、彼はパメラに一度も優しい言葉を言わなかった。パメラは彼の後ろ姿を悲しそうな眼差しで見たが、長く見ている時間はなかった。


「……あのちんちくりんの奴めがもう……!」


 セイラが拳をブルブルしていたのだ。彼女はベインが話しかける直前からパメラの隠蔽魔法で隠れていたが、今にもベインのところに駆け寄って頬を殴りそうな様子だった。


「大丈夫よセイラ。こうなったのは全部私のせいだから」


「そんなはずないじゃない。あいつはゲームでも……あっ、ちょうどあそこにあるね」


 セイラの視線の先には貴族の令嬢があった。ちょうどベインはそちらに向かった。


 金髪緑眼の美少女だった。討伐祭に参加するための活動服を着ているにもかかわらず、まるでドレスを着て舞踏会場に立ったかのように品位と雰囲気が感じられた。表情と身振り一つ一つで自信が溢れていた。


 ベインは彼女に向かって大股で歩き、声を上げた。


「レイナ・エルフェルト・アイナリド侯爵令嬢!」


 ベインの姿を確認した瞬間、レイナの顔は不快感と嫌悪感で著しく歪んだ。ベインもその表情を見て眉をひそめた。


「ベイン・ティヘリブ・アルトヴィア第一皇子殿下。お元気でしたか」


「どういうつもりだ?」


「何をおっしゃっているのかわかりませんね」


「なぜ俺のチームに入ってこないのか!」


 レイナはため息をついた。その態度がベインをさらに刺激した。レイナはそれを知っていながら冷淡に話し続けた。


「私は参加者資格で来ました。ベイン第一皇子殿下とは競争することになるでしょう。そんな私がどうして殿下のチームに入らなければならないんですの?」


「そなたは俺の婚約者じゃないか! 婚約者として俺を引き立たせるのがそなたの役割だ!」


「……は」


 レイナは鼻で笑った。それだけでなく、イライラ混じりの嘲笑がベインに向かった。当然、それを我慢してくれるベインではなかった。


「申し訳ありませんが、私には殿下の付き添い人になる気など爪の垢ほどもありません。殿下は婚約者の助力がなければ自ら目立つこともできない御方ですの?」


「なんと……! がっかりだぞ! これがアイナリド侯爵家のレベルだということか? 自分の本分すら理解できない令嬢なんか、浅はかな娼婦にも劣る!」


「何を……!」


 見るに忍びなかったパメラが二人の間に割り込んだ。


「ちょっと待って! 何言ってるのよベイン! 言ってはいけない言葉があるの!」


「うっ、姉君……!?」


 パメラはベインを一瞥した後、レイナに顔を向けた。そしてためらうことなく彼女に頭を下げた。


「レイナさんとアイナリド侯爵家へのベインの暴言、姉として代わりにお詫びいたします。本当に申し訳ございません」


「何してるんですか、姉君! 俺は謝ることなんか何もしませんでした!! ただ事実を……」


「パメラ様。ベイン第一皇子殿下がああ言うのですが、パメラ様が代わりに謝ることに意味があると思いますの?」


 レイナは依然として冷笑的だった。もちろんパメラも彼女の言葉に全面的に同感した。


「ベイン。婚約者は貴方の部下でも奴隷でもないわ。そして侯爵令嬢に浅はかな娼婦って、道徳的にもしてはならない発言であるだけでなく、深刻な政治的問題まで引き起こす発言よ。今すぐレイナさんに謝りなさい」


「命令しないでください! 姉君の命令なんか聞きません!」


「これは命令じゃなく……!」


 パメラは何か言おうとしたが、レイナは軽蔑の冷笑をした。


「立派に成長した皇女と劣等感にとらわれて分別もない皇子。……未来がはっきり見えますわね」


「……!!」


 ベインは怒りで目を剥いた。パメラも彼の逆鱗が刺激されたことに気づき、当惑した。しかし彼女が何か言う前に、ベインは拳を震わせながら先に口を開いた。


「……覚えていろ。今回の討伐祭の勝者は姉君でもそなたでもない。俺がこの国の次を担う者であることを証明してやる!」


 ベインは一言も謝らずに背を向けた。パメラは彼を捕まえようとしたが、レイナは反対した。


「おやめください、パメラ様。そうなさればなさるほど私がもっと困りますの」


「申し訳ございません、レイナさん。でもベインは根本が悪い子ではありません。今は神経が少し鋭くなっているだけで、もともとは優しい……」


「パメラ様」


 レイナは冷笑した。ベインに向かったのとは違ったが、相手を断るという点は同じだった。


「パメラ様は二年間で目立って変わりました。周りの評価もそうですが、私は実際にパメラ様と接して立派な皇女になられたと思いますの。でも心優しすぎな御方ですので、弟をちゃんと見ることができませんね」


「レイナさん、お願いします。ベインは……」


「ごめんなさい。今は皇子殿下の名前も耳に入れたくありません」


 レイナさえその言葉を残して背を向けてしまった。パメラはどうしても彼女を捕まえることができず、彼女の後ろ姿が遠くなった後でやっと茫然と口を開いた。


「……何を間違ってしまったのかしら」


「ただあのちんちくりんの奴めが無作法な奴なだけだよ」


 セイラは冷笑的に言った。


 ベインは彼女が言った攻略対象者の一人だ。正確には〝婚約者との仲が悪すぎて婚約者が悪役令嬢にならなかった〟唯一の攻略対象者。レイナが悪役令嬢にならなかったことを幸いに思うべきか、それともリアルタイムで破局を迎えている二人の関係を嘆くべきか。パメラはよくわからなくなってしまった。


―――――


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