ハコニワプリズンブレイク

Amu

ハコニワ・トゥルース

人知れず始まる

──────パキ


「……ん?」


その音が聞こえたのは、16歳の夏だった。

何の変哲もない、学校からの帰り道。

何かにヒビが入ったような音が聞こえた。


「霞?どうした?」


「え?いや…なんか変な音が聞こえて」


「そう?なんにも聞こえなかったけど」


「勘違いだったのかな。ごめんね。行こ行こ」


勘違いだと自分に言い聞かせ、少し先にいる幼なじみ二人を追いかける。


今のはただの勘違いで、これから別に変わることなんてなくて、いつも通りの、普通すぎる日常が待ってるんだ。






















──────なんて。そんなわけないのにね。


◇◇◇◇


「ただいまー」


「あら、おかえり。今日は早かったわね?」


「部活がなかったからね。今日はだらだら出来るよー!」


「いっつもしてるじゃない……」

聞こえない聞こえない。


自分の部屋に向かい、ベットに倒れ込む。


「ふぅ。……あー疲れた」


学校って、なんであんなにつまらないんだろう。なんであんな無駄な所に行かなくちゃならないんだろう。

でも行っておかないと将来色々困るってみんな言うから行くけどさ。本当に無駄だと思う。

友達だって、上っ面だけの幻想じゃないの?本当の意味で心からの友達なんて存在するのかな。

私の幼なじみである玖音くおん杏姫あずきも私に本心で喋ってるのかな?私は2人のこと、信じてたいと思うけど。

……おかしいな。ダメだって思えば思うほど、深く考えてしまう。はそんなことないのに。

こんな事考えちゃダメだよね。

みんな言うもん。「常に思いやりを持って」って。「人のことを疑っちゃいけない」って。「悪いことなんてしてはいけない」って。「霞ちゃんは優しいね」って。みんな、みんな、みんな、みんな──────





……あれ、みんなって、誰だっけ。


まぁそんなことはどうでもいい。

とにかく。学校は嫌だけど、友達だってそんないいものだとは思わないけど、そんなこと考えちゃいけない。


だって、私が「優しい霞ちゃん」じゃなかったら、みんな悲しむから。


そう。みんな。


お父さんも、お母さんも、お隣さんも、ご近所さんも、学校の先生も、友達も、おじいちゃんも、おばあちゃんも、玖音も、杏姫も。


だから、私は今日もいい子でいる。


「……宿題やろ!」


明日も学校だ。


◇◇◇◇



少女の知らない、箱庭の果て。


「「本日も対象に異常はありませんでした!」」


そこには、1人の少女と、1人の少年、そして壮年の男性がいた。


「そうか。いつもご苦労」


「いえ、それが我々の責務ですので。……あ、そういえば」


少年がふと声を上げた。


「ん?なんだね?」


「大したことでは無いのですが…本日、奴が妙なことを口走っていたのです」


「妙なことだと?」


「ああ。確か、なにか変な音が聞こえた、と……」


少女も思い出したように付け足す。


「そうか……。まぁ、恐らくただの耳鳴りだろう。奴らも身体構造は人間なのだからな」


「……そうですね。奴らが同じ人間だなんて、吐き気がしますが」


少女が忌々しそうに吐き捨てる。


「はは、まぁ奴らは人間の皮を被っているが根本的なところで人間とは違う。同じでは無いよ。奴らは……バケモノだ」


◆◆◆◆



暗い暗い、牢獄。少女の知らない箱庭の地下。


そこには、その場所に似つかわしくない、1人の少年がいた。


その牢獄は、窓はもちろん扉も最低限のものしかなく、外は全く見えないようになっている。

少年は、その部屋の奥に、鎖で繋がれている。

もちろん、ここは刑務所では無い。

ここはもっと、生まれながらにして大罪を犯している者が収容される、牢獄。



そこで、今日も少年は考える。この世界箱庭からの脱出を。


(ちっ。ダメだったか。今ならいけると思ったんだが)


少年は喋らない。それどころか表情1つ変えない。喋ったら暴力を振るわれるし、情報は喋らないに限る。少年はそれを知っていた。


(まぁ、は入ったし、もうすぐだろう。あいつが思い出すのも)


少年は1人、心の中で嗤う。












──────それは、人知れず始まった。

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