第39話

「「美味い~!」」


 姉妹かってくらいタイミングよく声をあげる千聖ちゃんと未来。


 二人とも野菜料理を食べて嬉しそうに笑顔を浮かべた。


 僕が二人に課したのは、戦いが終わったら、ここで野菜料理を食べなさいということだ。


 色々悩んでいたけど、僕にとって何が一番大切なのかと考えたことがある。真っ先に思い浮かぶのは、野菜達の笑顔だ。


 テンちゃん達が求めるのはいがみ合うより、お互いに手を取り合ってお互いを知ってもらうこと。いまでも憎いと思う彼女でさえ、ここで野菜をたくさん食べてもらい、自分が犯した罪に向き合って過ごしてもらいたいと考えた。


「野菜って……こんなにも美味しいんだね……」


 少し泣きそうになった未来を、千聖ちゃんが優しく抱きしめる。


「私も一緒に罰を受けるから。未来ちゃんも頑張ろうね?」


「うん……」


 その時、米将軍が僕達の前に立った。


【殿。一つお伝えしておきたいことがございます】


「米将軍? どうしたんだ?」


【以前にとお伝えしたように、野菜と肉には切っても切れない関係がございます】


「そういえば、前もそんなこと言ってたね」


【特にこの街は、殿が倒した魔王・・の気配が強くなり過ぎて、かのダンジョンで生まれた肉を食した人間が狂暴化しやすくなっておりまする】


「泉町ダンジョンのことか……でも千聖ちゃんはそう狂暴化していなかったような……?」


【いえ。彼女も狂暴化しております。元々食事をあまり取らない彼女だから弱かっただけど、殿と初めて出会った日も既に狂暴化・・・・・しておりまする】


 そういや、普段温厚な千聖ちゃんが、僕と出会った初日、非常に好戦的な態度をとっていた。


 彼女の正義感によるものだと思っていたけど、言われてみれば普段の彼女からは想像だにできないものだ。


「となると、未来がああなったのにもそれが原因だと?」


【さようでございます】


「…………」


 だからといって、罪がなくなるはずは…………でも自分の意思とは関係なくやってしまった人を罰していいのか?


【お二人とも十分に反省した様子。それならいっそのこと、彼女達に野菜を世話する罰を与えてはいかがでしょう】


「野菜を世話する罰?」


【はい。殿一人では野菜達をお世話するには時間がかかりすぎます。彼女達にその手伝いをさせるべきかと存じます】


「…………」


「お兄ちゃん! 私達、やりたい! 久那ちゃんからも聞いたけど、ダンジョンのお肉だけ食べると狂暴化するって……だとしても私達の罪が消えるわけではないから、ここで野菜達のお世話をさせてください!」


「お願いします! 私も自分がやったことの罪を償わせてください!」


 二人が深々と頭を下げた。


 さらに、田中さんも「メンバーの不徳はリーダーの俺のせいでもある。俺も受けさせてください」と頭を下げた。


「…………わかった。ここが賑わうと野菜の素晴らしさが色んな人に伝わるし、それは野菜モンスター達のためにもなる。これから無理がない範囲で野菜の世話をしてくれ」


「ありがとう!」「ありがとうございます!」


 こうして、千聖ちゃんがまたうちに来るようになった。




 ◆




 魔王を倒した日から十日が経過した。


 泉町は悲惨な状況だったけど、すぐに復興支援が行われて瓦礫の処理から避難民の支援までたくさん行われた。


 一番支援を行ってくれたのは、意外にもこの地を管理していたティーガル社だった。


 テレビでは、総帥という以前会ったアルフレッドさんが追悼の言葉を話していた。


 それと、最近になってようやく――――


「「いらっしゃいませ~! 野菜食堂でようこそ!」」


 元気よく挨拶するのは、可愛いメイド風制服を着た千聖ちゃんと久那だ。


 元々僕がやろうと思っていた野菜食堂を、テンちゃんがつぶらな瞳で千聖ちゃんに伝えてしまった。


 言葉が伝わらないので、どうして伝わるのかは謎なんだが、生物の絆って深いんだなと感じる部分だ。


 お店はうちの庭に設置されていて、大きなテントに野菜の可愛い絵が描かれているのが印だ。


 野菜食堂といっても、ちゃんとお肉も出て来る。


 これは田中さんと未来と探索者二人が狩ってくるお肉を使用していたりする。


 メニューは全てシスター達が考案してくれたもので、僕はというと――――旗振りが仕事だ。


「ねえねえ、あの旗振りの人、怖くない?」


「なんか、すぐに殴りかかりそうじゃない?」


 僕を見た人達のひそひそ話が聞こえてくる。


 すると、満面の笑顔で千聖ちゃんが近づいてきた。


「お兄ちゃん! 笑顔が怖いよ~! さあ、もっと笑って~! にっ~て」


「に、にっ~」


「う~ん。目が笑ってないんだよね」


「め、目が……」


「ほら、もう一回~! にっ~!」


「に、にっ~!」


 そんな僕達を見たお客様達が笑いに包まれる。


 最初は怖がられていた野菜モンスター達だが、次第に慣れたのか、多くの人達が野菜モンスター達を撫でてくれたりする。


 中でも未来に関しては、胸元にクラちゃん達を上手に入れて歩き回っている。


 クラちゃん達は歩き回れるのが嬉しいと言っていた。


 たまに虫みたいって驚かれたりするが、そこも未来のフォローですぐに馴染んでいった。


 こうして始まった野菜食堂は連日大盛り上がりを見せて、町では有名な食堂になっていった。

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