第37話
巨大なモンスターを殴り付けて、ダンジョンの奥に押し込んでやった。
これはテンちゃんのアイデアだ。化け物と戦う際、地上での戦いだと周囲が大変な事になるという。だからダンジョンの中で戦うことにした。
それにしてもこのダンジョンの周りは既にボロボロになっていて、悲惨な状況が続いている。
以前探索者ギルドで対応をしてくれた田中さんという男と、千聖ちゃんはボロボロになりながらあのモンスターを防ぎ続けていたようだ。――――人々を守るために。
少しだけ、彼女が良心的な存在であるとほっとした。彼女達と救助は従魔達に任せてダンジョンに向かう。
ダンジョンの中に入ると、禍々しい気配が体を包む。
奥から赤い瞳が光り、こちらに向かって猛スピードで走ってくる。
僕が殴り付けた顔面には大きな傷を負っている。
走ってきたモンスターの顔面に二度目の足蹴りを叩き込む。
テンちゃんが言っていた通り、全身に力を込めて
蹴り飛ばしで口からおびただしい量の黒い血液を吐き出したモンスターに、休む間もなく攻撃を続ける。
ダンジョンの壁に激突してもなお、僕は攻撃を緩めない。
僕は人間が嫌いだ。だからといって、罪のない人が傷ついて欲しいとは思ってない。このモンスターはそういう人を多く傷つけてしまった。だから、僕は人間よりもこのモンスターの方が嫌いだ。
叩きつけていると、反撃に長い尻尾を振り回して叩き込まれる。
それをそのままキャッチして、巨体をぐるぐると回して投げ飛ばして壁に激突させる。
数分の攻撃でボロボロになったモンスターは、最後の力を振り絞って口にどす黒いエネルギーを集め始めた。
そして――――強大な黒いブレスを放つ。
幼い頃、ヒーローに憧れていた。生まれながら体が大きかった俺は、常に怪獣役に回され、ヒーローに叩かれ続けた。いつか僕を救ってくれるヒーローが現れたらいいなとずっと思っていた。
僕が初めて心を開きかけた彼女が、僕にとって初めてのヒーローになりそうだと思った。でもそうではなかった。
それから色んな人に出会い、テンちゃんに出会い、千聖ちゃんに出会い、久那に出会い、たくさん考える日々が続いた。
そして――――分かった。ヒーローは待つものではく――――自分から歩み寄るものだと。
ヒーローになるつもりはない。でも、ただ祈っているだけじゃ誰も助けたりしてくれない。野菜ダンジョンもだ。何もしなければ、僕はずっとテンちゃんと大根とだけ生活を繰り返しただろう。
でも今の僕は多くの野菜達に囲まれている。ダンジョンを自らの足で降りたからだ。自らヒーローを求めたからだ。
そのきっかけをくれた千聖ちゃん。最初は少し嫌な人だと思っていたけど、平和のために尽力する彼女の姿は、僕が想像していたヒーローそのものだ。
あの女がクラちゃん達や野菜達に酷い事をしたのも、千聖ちゃんが関わっていないことくらい知っている。それでもあの女をかばっていた。
彼女を守るため? もちろん、それもあったかも知れない。
でも――――僕の手で誰かを殴り付けたくないから。彼女がただただ僕の攻撃を受けていた時、それが伝わってきた。
あの女を殺さずに済んだのは千聖ちゃんのおかげだ。だから、せめてもの恩返しとして大嫌いな人間達だけど、彼女が守りたい世界なら僕も少しは力になろう。
右拳に心の奥から溢れる憎悪と憎しみ――――そして、勇気を込める。
赤と黒と白のエネルギーが僕の右拳に集まった。
「――――ビッグバンスマッシュ!」
モンスターが放った黒いブレスを殴り付ける。
僕の全力が込められたパンチは、轟音と共に暗闇を飲み込み、モンスターを丸ごと飲み込んだ。
その日。
人類初めての快挙が起きる。
今まで誰一人
この出来事はやがて世界を巻き込む大事になるのだが、当の本人は自分がしたことがそうなるとは思いもしなかった。
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