第23話
次の日。
探索者になれなかったのと、千聖ちゃんにそのことを言えないままになってしまって、ボーっと天井を見たり、ボーっと料理に勤しんだりとテンちゃんたちと時間を過ごす。
いつからだろうか、こうして誰かと一緒に過ごすのは嬉しいと思ったのは。
畑が焼かれてから野菜を育てるための農業ができなくなってしまった。ただ焼かれたのなら今からでも始められるけど、ダンジョンが生まれてしまって土地はもはや作物を育てられる土地ではなくなった。
代わりにテンちゃんたちがいてくれるおかげで、野菜に触れる毎日を送れてはいる。
しかし、それで充実した時間を送っているかというと、そうではない。
むしろ以前よりも時間を持て余してしまい、手持ち無沙汰している。
テンちゃんたちが一緒にいてくれるとはいえ、何もせずただただ野菜モンスターたちの野菜を食べるだけの生活はどうなのだろう…………。
【ご主人様?】
「テンちゃん。すまんな。何だかな、時間を持て余してしまってな」
【それなら野菜ダンジョンに降りてみてはどうですか?】
野菜ダンジョンの下層に潜る。という選択肢か。
考えていなかったわけではないけど、どこか千聖ちゃんと一緒に行った方がいいのかなと思ってしまったが、彼女には彼女の仲間がいるのなら、わざわざ僕のところに来なくて問題ない気がする。
「分かった。そうしよう。テンちゃんたちも一緒に来てくれるか?」
【喜んで~!】
もしかしたら、これが一番の正解だったのかも知れないな。
家を出ると、玄関口に殺気が込められた視線を感じる。
「ん? あんたは…………どうしてここに?」
そこには畑が焼かれる前に毎日来ていた男が、怒りに染まった表情で玄関口から俺を睨んでいた。
「お前のせいだあああ!」
「!?」
「お前のせいで、会社で俺の立場がなくなって……お前がこの土地を売ってくれなかったから! ダンジョンなんてものが生まれてしまって! 俺の責任が問われてしまって…………全部お前のせいだあああ!」
一体全体なんの話なのか分からず、ただただ彼の怒りが込められた怒声が飛び交う。
通りすがりの人が不思議そうにこちらを見つめるが、僕も一体何が起きているのか分からないから、どうしていいか全く分からない。
「畑を……畑まで焼いたのにどうして出て行かないんだ!」
「っ!?」
畑を焼いたって言葉に心臓が止まりそうになった。
心の底から怒りが湧き出ているのが分かる。
「いま……なんて言った?」
「畑まで焼いたんだからさっさと出ていけば良かったと言ったんだ!」
彼の言葉が終わるとすぐに、視界が真っ白になって、自分が何をしているのかが分からなくなった。
でも目の前に男の顔が映って、自分の拳が男に向かって叩きつけようとしたその時、僕の前をテンちゃんたちが塞いだ。
【ご主人様! ダメです!】
「テン……ちゃん?」
【ご主人様! 人は人を叩いてはいけないってご主人様が仰ったじゃないですか! 畑が焼かれてしまったのはとても残念です……ですが、僕達がここにいます!】
「ひ、ひい!?」
そこには後ずさりしながら、化け物を見ているかのように僕を見つめる男の顔が見えた。
「…………消えろ。もう二度とここに近づくな」
「ち、ちくしょおおおおお!」
男が逃げていき、その場に虚無感が残る。
ふらふらした足つきで野菜ダンジョンに入っていった。
「うわあああああああああ!」
ダンジョンに入ってすぐに地面を両手で激しく叩く。
地面にポツポツと僕の涙が落ちて、焼かれた畑の悲しみと、焼かれた野菜たちの悲しみと、それに僕は何もできなかった悔しさが滲みでてしまった。
テンちゃんたちが僕の背中に乗り、優しい野菜の香りで癒してくれた。
暫く悔しくて涙を流すと、ダンジョン内で仲良くなった野菜モンスターたちが全員やってきて、僕を囲んでくれていた。
「みんな……ありがとうな…………これから必ず守るから」
【僕達もご主人様とずっと一緒にいたいです!】
「テンちゃん……ああ。これからもずっと一緒だ」
僕はテンちゃんと共にダンジョンの下層に向かった。
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