第13話
「ねえ。お兄ちゃん」
「お、おう?」
すっかり外が暗くなり掛けていて、夕飯を食べ終えたら千聖ちゃんが可愛らしい目を大きく開いて僕を呼んだ。
「テンちゃんってお兄ちゃんの従魔でしょう?」
「そうだな」
彼女の平の上で気持ちよさげに横たわっているテンちゃんを撫でている。
「今日見つけたナスとほうれん草の子たちは従魔にしないの?」
「そう言われて見ればそうだな。あまり考えたことはなかったけど、今日中に従魔にできないか試してみるよ」
「そうね。テンちゃんも一人よりも沢山いた方がいいだろうからね」
テンちゃんは気持ちよさげに目を細めて撫でられているが、恐らく仲間が増えるといいのだろう。
「私はそろそろ帰るね?」
「お、おう」
「じゃあまた明日ね~」
また明日も!? 彼女の帰りを見送る。本来なら家まで送るべきなんだろうけど、僕みたいな男と一緒にいた方が迷惑になりそうなので遠慮しておく。
それよりもまた明日来てくれるのは嬉しいが本当に大丈夫なのだろうか……変な誤解を招かないといいけど…………。
足元に感触があって、テンちゃんがつぶらな瞳を輝かせながら見上げていた。仲間が増えるのを期待しているみたいだ。
せっかくなのでテンちゃんと共にダンジョン二層に向かう。
それにしても一層から二層に向かうのも大変だ。可愛らしい大根モンスターたちに囲まれてついつい顔が緩んでしまうから。
二層の畑に向かうとナスモンスターとほうれん草モンスターたちがまた大勢歩いていた。
「テンちゃん。みんなに収穫のことを伝えてもらえるか?」
【は~い】
テンちゃんが声の無き鳴き声を響かせる。音がないけど、何かしらの音波? 音圧? が周囲に広がっていく。
一番前にいたナスモンスターとほうれん草モンスターが前に出て来た。
「ん? もしかして従魔のことも言ってくれたのか?」
【そうですよ~ご主人様~】
「テンちゃんは偉いな~仲間が増えて良かったな!」
【ご主人しゃま~よろしくなのです~】
「よろしくな。君の名前はナーちゃんにしよう」
ナスモンスターはナーちゃんと名付ける。
【主様~主様~】
「君はホウちゃんだ。よろしくな」
ほうれん草モンスターはホウちゃんと名付ける。
ナーちゃんはテンちゃんのように四足歩行で、テンちゃんが犬なら、ナーちゃんは猫みたいな感じか? ホウちゃんは間違いなくウサギだな。
みんなと一緒に家に戻る。
一人ぼっちだった家はテンちゃんだけでなく、ナーちゃんとホウちゃんのおかげで賑やかになってきた。
普通の動物とは違い、みんなが仲良くて鳴き声をあげない。ただ歩くとぴょこぴょこと可愛らしい音が聞こえてくる。
二人分の食事を用意してあげると美味しそうに食べてくれた。
◆
次の日。
いつもの朝支度をしていると、ふと鏡に映った自分の体が気になった。何だかTシャツがパツパツになっている? ふとTシャツをあげてみる。そこには六つに割れた腹筋が見えた。
ん? 元々農作業で体は鍛えられているし、元々力仕事は得意だったが、ここまで筋肉があからさまにはみ出たのは初めてだ。それに最近力仕事らしい仕事はしていないはずなんだが……?
【主様~主様~】
「おはよう。ホウちゃん」
【主様~大好き~】
ウサギは寂しがり屋だと聞いていたが、野菜モンスターの性格もそのようだ。
今日は三層の攻略に向かうらしいが、それまで料理の下準備をしながら待つとするか。
お昼と夕飯の仕込みを終えて、家の大掃除を行う。
倉庫に大根、ナス、ほうれん草が大量に積まれているから収穫は必要ないので、せっかくの余った時間を有効活用するための大掃除だ。
毎日畑仕事だったから、こういう時間が取れるのは助かるな。
掃除を終えて昼食を食べてゆっくりしていると、扉のノック音が聞こえてきて、「お兄ちゃん~!」と元気良い声が響いて来た。昨日言っていた通り来てくれたようだ。
「いらっしゃい」
「!? ナスとほうれん草の従魔!」
「ああ。ナーちゃんとホウちゃんだ」
ダダダダと足音を響かせてリビングに走ってくると、ナーちゃんとホウちゃんに抱き着く。すぐにテンちゃんも飛び込んで、三匹の野菜モンスターを撫で始めた。
美少女が可愛い野菜モンスターを愛でるのは、見るだけでこっちまで癒される。
暫く堪能した千聖ちゃんは「三層へ冒険だ~!」と嬉しそうに声をあげた。
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