第2話
ピーンポーンとチャイムの音が鳴り響く。
ゆっくり眠った体を起こして窓を見ると、すっかり外が明るくなっている。
(えっ!? 今まで朝方に起きれなかったことなんてないのにどうして……?)
続いて二度目のチャイムの音が聞こえて来る。
驚きながらも急いでインターホンのところに入っていくと、見慣れた青い制服の男性が三人並んでいた。
急いでインターホンを取る。
「な、なんでしょう?」
「佐藤さん!
「無事……? はい。僕は至って問題ありません」
「それなら急いで外に出てきてください!
(大変……?)
制服から警察だと分かるので急いで外に出て見ると、三名の警察官が険しい表情をしている。さらに僕の家の周囲には多くの人だかりができており、玄関口からこちらを覗き込んでいた。
「あ、あの?」
「佐藤さん。あれを見てください」
警察官が指差すのは家の裏庭にある畑だ。
そして、僕は視線を向ける。そこにあったのは――――――灰となって、吹いた風によって舞い上がっている黒色の花びらのように灰が空高く舞っていた。
風に運ばれて飛んでいる灰は、自由になりたいと言わんばかりに僕からどんどん遠くなっていく。
気が付けば僕は畑の前で崩れて声も出さず泣き崩れていた。
警察官が話す「命は無事で良かった」「犯人はまだ見つからない」の言葉が聞こえていたが、僕にとってどれも無意味な言葉で、目の前に散っていった愛情を込めて育てた野菜は、灰となって焦げた匂いを放っている。
一体野菜たちに何の罪があるというんだ? 一体僕に何の罪があるというんだ?
その時、昨日悪態をつく男の顔が過った。解水不動産。そこから毎日のようにやって来ては土地を売れと執拗に迫ってきた男の顔が。
「あの男……絶対にあの男だ! 解水不動産の者だ! 警察官さん! 間違いないです! 解水不動産の
警察官に今まであったことを伝える。毎日訪れては必要以上に土地を売れと迫ってきたことを。
でも返って来た言葉は予想もしなかった言葉だった。
「佐藤さん……残念ですが、証拠がありませんし、彼らが土地を欲しがっていたとはいえ、火をつけてまであくどいことはしませんよ? 証拠が見つかるまでは言わないでくださいね?」
(証拠!? そんなものが揃っているじゃないか! だって毎日来てたんだぞ! 昨日は遂に怒って帰って行った。それで十分証拠ではないのか!)
その時、玄関口からこちらに向かって歩いてくる音が聞こえてきた。毎日聞いていたからこそ分かる独特の革靴の音。
振り向いたら、そこには予想通りの男が立っていた。但し、今までの表情とはまるで違う表情だ。
「佐藤さ~ん。畑が焼かれてしまいましたね~ご自慢の野菜はなくなっちゃいましたね~!」
わざとらしく大声で話すと、周囲から「野菜だって! ぷふっ」と馬鹿にする声が聞こえてくる。
今じゃ野菜は罰ゲームで食べるくらい
「お、お前がやったんだろ!」
その場から男に殴り掛かる。が、すぐに警察官によって止められた。
「佐藤さん! 落ち着いてください! 人を殴ってしまっては、私達は佐藤さんを捕まえなくてはなりません!」
「あいつなんだ! あいつがここに火をつけたんだ!」
「ふう~ん。証拠はあんのかよ。佐藤さんよ。まさか証拠もなくてほざいているんじゃねぇでしょうね!? 名誉棄損で訴えてやるぞ!? ああん?」
(そうか……やはりそれがお前の本性なんだな!)
野菜たちの仇を討ってやりたいが、この男を殴り付けても何も変わらない。それなら証拠を見つけて彼が犯人であると見つけた方が復讐になる。
「出ていけ…………出ていけ! この土地は貴様らには絶対売らない!」
「なっ! こんな畑にいつまでしがみつきやがって! さっさと売――――」
「もし殺されるとしても絶対に売らないし、お前らだけには絶対に売らない!」
「ちっ! どこまでもムカつく田舎者だ! くそがっ!」
男はまた悪態をつきながらその場を後にした。
「佐藤さん。お気を確かに持ってください。命あっての物種です」
「そう……ですね…………ありがとうございます……」
「犯人は私達が必ず捕まえますから。何かあったらすぐに交番に駆け込んでくださいね」
そして警察官たちも去っていき、集まっていた野次馬も消えて残るは家と灰と僕だけになった。
野菜が灰になってしまって、これからどう生きていけばいいのか。
保存している種はあるとしても、また一から畑を耕す必要があるし、育つまで年月も掛かってしまう。
まだ生きるには貯蓄が残っているが、どうしてもモンスターの肉が合わず、となると普通の食材は高額で置いてる店も少ない。
昔は盛んだった畜産業も農業同様に絶滅寸前のはずだ。
強がっていても忍び寄る絶望に足をすくわれて、灰と化した畑の前に座り込んでしまった。
これからどうすれば………………。
その時、
風によってどんどん飛んでいく灰によって、焼けた畑の地面が見え始める。
真っ黒く染まっているはずの地面だったのだが、畑の中心部に見慣れない光景が見えていた。
畑のど真ん中だというのに、
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