01章:変わる風景(同じ情景を1人称と3人称で書きます)

01-01話:【恋愛】「失われたもの」と「得られるもの」と(1人称)

 夜がほのぼの・・・・と明けはじめる頃、暁の光が私の閉じた瞳を明るく照らす。もう朝か、そう独り言をいって私はゆっくりと目を覚ます。2022年、東京、11月のある朝のこと。


 布団から起き上がった私は、窓を開けてバルコニーに出る。地上24階から眺める朝日はところどころ・・・・・・イワシ雲に遮られ、小さなエンジェルラダーを作り上げている。それはまるで・・・私の心を未来に導くかのような、天空に描かれた儚げな光の梯子のようであった。


「そろそろ決着をつけないとね」


 私は心の中でそう静かに告げると、今、同じ空の下にいるであろうあの人・・・のことを思い出していた。私の大切なあの人・・・のことを、私を唯一理解してくれたあの人・・・のことを、そして、私の初めてをすべて差し出したあの人・・・のことを。


 そうね、もう一年か。私のきまぐれで、私の身勝手で、私のわがままで、すべてを失ってしまった尊い日々。どんなに願っても帰ってくることのない尊い日々。


 洗面所に並ぶ2つの歯ブラシ、食器棚にならぶ2つのコップ、二人で一緒に選んだお皿とお茶碗。すべてがすべて私のせいで失ってしまった大切なもの。


 でも、それでも、信じて待った一年間。なにかのサプライズだと思って信じて待った1か月、忘れようと必死になった3か月、そして悲嘆にくれた最後の8か月。そんな悲しみや苦しみのすべてが詰まった1年間。でも、思い出の中であの人・・・と向き合うことが出来たいとおしい1年間。


 急にベランダに爽籟そうらいが、一陣のさわやかな朝の風が私の横を通り抜ける。そうか、今日は月曜日、ゴミを出す日だったわね。ふとそんなことを思い出した私は、ふいに自分の心に決着をつける決意をした。自分の未練を断ち切る決意をした。

 

 私は戸棚からゴミ袋を取り出すと、あの人とのすべてを、あの人との思い出のすべてを処理することを決めた。一緒にとった写真、一緒に作った造形物、あの人が好きだったCD、あの人がいつも使っていた歯磨き粉、その他、諸々、すべてのもの。そう、私は、1年前から止まっていた時を、心を、ようやく動かすことを決意したのだ。


 しかし、そんな決意と心はうらはらに、私の目から熱い何かがボタボタ・・・・とこぼれ落ち、とめどなく流れ続けていた。でも私は知っていた。この涙が止まった時、この荷物を処理した時、初めて私は、新しい一歩を踏み出せるということを。

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