ただ居るだけで人を殺してしまう魔王とその世話係になった人間

とりあえず 鳴

第1話

「おい人間」


「なんだ魔王」


「暇だ。なにか面白いことをしろ」


「断る。俺は今お前の散らかした部屋の片付けで忙しい」


ここは魔王城の魔王の部屋。


人間である俺がなんでここに居るかというと。とある事情でこの銀髪碧眼の魔王のお世話係にされたからだ。


「だったら早く片付けて暇潰しの相手をしろ」


「なら少しは手伝え。というか散らかすな。毎日毎日片付けをさせられる俺の身にもなれ」


魔王相手にこんな口を聞いても大丈夫なのかって?大丈夫だ。なぜならこの魔王の部屋の中では俺の方が発言権が上だからだ。


「だってー」


「だってじゃない。可愛く言っても許さん。手伝うかもう散らかさないか選べ」


「……」


魔王がだんまりを決め込んだ。こういう時は大抵拗ねてどこかに行ってしまう。


でも今回は逃がさない。


「ほらどっちなんだ?」


俺は魔王の腕を掴んで綺麗な青い眼をじっと見る。


「いや、その」


「ほんとに綺麗な眼だよな。髪もとても綺麗だ」


「うぅ」


俺がそう言うと魔王の頬が赤くなり、目を瞑ってしまった。


「残念。でもこんなに髪を綺麗に保つことは出来るのになんで部屋は片付けられない」


「うるさい。バカ」


魔王はそう言って顔を逸らしてしまった。


「っと。流されるとこだった。で、どっちにするんだ?」


「……手伝う」


「そっか。なら始めよ」


「うん」


そして俺達は部屋の掃除を始めた。


小一時間程で部屋は綺麗になった。


「終わり」


「魔王をこき使い過ぎじゃないか」


「誰のせいだよ」


「ごめんなさい」


自分が悪いと思ったらすぐ謝ることの出来るのは魔王のいいところだと思う。


「じゃあ俺は晩御飯の準備をするな。今日はちゃんと手伝ってくれたから魔王の好きな血の池に浮かぶ肉塊作ってやるよ」


「それやめてくれ。恥ずかしいから」


魔王に好きな食べ物を聞いた時にそう言われた。俺はなにを言ってるのか分からなかったから、俺の知る中で一番近いミートボールを作ったら正解だったらしい。


なのでそれ以来魔王の好きな食べ物は血の池に浮かぶ肉塊になった。


「いやいや。ミートボールって言うのが恥ずかしくてそんな回りくどいこと言うとか可愛くてつい」


「うっさいわ」


魔王の頬がまた赤くなった。


「今日よく赤くなるけど熱でもあるのか?」


俺は魔王の額に自分の額を当てて体温を測る。


(熱いな)


魔王の体温の平熱は分からないが、人間からしたら少し高い。


「メニュー変更。今日はお粥な」


「いや、熱があるって訳じゃ」


「うるさい。病人は寝てろ」


俺は魔王が引かないのは知っているので、無理やり膝裏と背中に腕を入れてお姫様抱っこをする。


「ひゃ」


「いちいち可愛い反応をするな。ほらまた顔が赤くなった」


俺は急いで魔王の寝室に向かった。


「安静にしてろよ。今からお粥作ってくるから」


俺は魔王をベッドに寝かせてキッチンに向かった。


魔王の部屋には大抵なんでもある。


寝室にキッチン、お風呂やトイレなど。


魔王は人間や亜人、一部を覗いた魔族でさえ近くに居ると命を奪ってしまうらしい。


だから魔王の部屋には大抵のものはある。


キッチンに食材を送る方法は転移魔法が使われている。


「さてと。始めるか」


俺は魔王の為にお粥作りを始める。




「魔王。大丈夫……。おい」


俺が魔王の部屋にお粥を持って戻ると、せっかく片付けた寝室が散らかされていた。


「すーすー」


「へぇ。寝たフリすんだ。せっかく魔王の為に作ったけど部屋は散らかされて、しかも寝たフリされるとか結構悲しくなるな」


お粥を作ったのも、部屋を片付けたのも俺がしたくてしただけだから恩着せがましいにも程があるが。それでも悲しくはなる。


「ち、違うんだよ。ちょっと探し物をしようとしたら散らかっちゃって。片付けようとしたけど人間の足音がしたから寝てないと怒られると思って」


「俺のことが嫌いになったとかじゃない?」


「当たり前だよ」


「俺のこと捨てたりしない?」


「する訳がない。むしろ私が見限られないかいつも不安になるよ」


「よかった」


俺はお粥を置いたトレーをベッドの横にある机に置いて魔王に抱きつく。


「人間はたまに甘えたさんになるよな」


「俺には魔王しかいないから。魔王に捨てられたらどこにも行く場所がないんだよ」


「……」


俺には魔王の隣しか居場所がない。


俺の住んでいた村は俺以外の全ての人が死んだ。


「人間。人間は恨んでいないのか、私のことを」


「なんで?」


「人間の村の他の人間を死なせたのは私だから」


「恨んでないって何回も言ったよ。むしろ今の方がよっぽどいいって」


俺の村の人は前勇者との戦いで傷を負った魔王が休める場所を探して朦朧とした意識の中で俺の村に立ち寄って俺以外全滅した。


勇者を殺した魔王は相当の深手を負っていた。俺はそんな魔王を手当てした。


最初はなんで近づくことが出来るのか不思議がっていた魔王だったけど、なにかに納得した魔王は俺の手当てを受け入れた。


簡単に手当てをして、その後はただ話し合った。


俺の村での扱い。魔王の愚痴。魔王の殺した勇者の数。魔王の体質。


ほとんど魔王のことだった。


そして最後に魔王の世話係の話。


魔王はその体質から世話係がついても死んでしまう。


一部の魔族。次期魔王候補達なら魔王と話すことぐらいなら出来るらしいがそんなのが魔王の世話係なんてする訳もなく。


でも魔王には世話係がいないと困るという理由で俺が世話係として拉致された。


魔王の隣に居て死なない。それだけが世話係に選ばれた理由。


それでも俺は嬉しかった。


俺をおよそ人として扱ってくれなかった村の奴らに比べたら、魔王は俺を人間と呼んでくれる。


だから俺は頑張った。


元から家事は嫌という程やらされていだから魔王に捨てられないように俺の全てを使ってお世話をした。


そして一年が過ぎる頃には今のような関係性になっていた。


「俺は魔王に感謝してるんだよ。魔王にはなにか考えがあるんだろうけど、それでも俺は魔王の隣に居たい。許されるならずっと」


「ふん。なにを勘違いしている。人間は私の世話係なんだから私が死ぬまでずっと一緒に居てもらわねば困る」


「じゃあ魔王は死なないからずっと一緒?」


「そうだな。ずっと一緒だ」


俺は涙を流しながら魔王に抱きついた。


「ただ一つだけ聞いていいか?」


「なに?」


「人間が私を助けた理由は結局なんだったんだ?」


「……秘密。魔王だって俺を世話係にした理由教えてくれないんだからいいでしょ」


「そうだな」


俺は魔王から離れてお粥を取る。


「それより早く元気になって。魔王が元気じゃないとつまんない」


「可愛いことを。ところでなにを?」


「ん?お粥食べさせてあげる」


俺は魔王の足の上に跨ってお粥をスプーンに取り息を当てて覚ます。


「あーん」


「ちょっ。自分で食べられるから」


「駄目。魔王はすぐ無理するんだから、こういう時ぐらいは素直に看病されて」


俺は魔王の口元にスプーンを向ける。


頬が真っ赤になっている。


「ほら。顔真っ赤だよ。そんな状態の魔王に無理はさせられないよ。というか俺が掃除を手伝わせたからだよね。ごめんなさい」


「いや、違うから。ほんとにそれは。分かったよ、食べるから本気で落ち込むのはやめてくれ」


魔王はそう言うとお粥を食べてくれた。


「美味しい」


「ほんと?よかった」


魔王は俺の差し出すお粥を全て食べてくれた。全てと言ったが魔王が見てないところで少しつまみ食いをした。


「ごちそうさま。ありがとうな」


魔王が頭を撫でてくれた。


「魔王、早く元気になってね」


俺は魔王の使った食器を洗ってから魔王の部屋に戻った。


「人間どうした?」


「魔王はすぐ無理するから見張る」


俺は魔王のベッドに潜り込む。


「ちょっ」


「ほら座ってないで横になって」


俺は魔王の腕を引っ張ってベッドに寝かせる。


「子守唄いる?」


「バカにするな。人間こそ私の隣で緊張して寝れないんじゃないか?」


「うん。でも見張るにはちょうどいいよね」


「バカ。さっさと寝ろ」


「あ。ずる、い」


魔王が俺に睡眠魔法をかけてきた。


懐かしくてふと思い出す。魔王が俺を拉致した時も睡眠魔法を使われたと。


魔王が俺がなんで魔王を助けたのか聞いてくるけど、そんなの決まってる。


俺は魔王に一目惚れをした。


綺麗な瞳に綺麗な髪、傷ついてもその姿は美しかった。


そして一緒に生活してより好きになった。


まぁそんなことは言わないけど。


俺はそこで意識を失う。




「まったく。人間のくせに」


私は手で顔を扇いで頬の熱を冷ます。


いつも人間には勝てない。


「勇者の力のせいなのか?」


この人間は勇者の力を引き継いでいる。


勇者は死ぬと力だけがランダムで次の人間に移る。


そして今までの記憶を全て継承する。


なのにこの人間は記憶の継承をしてない。


ならなぜこの人間が勇者の力を引き継いでるのが分かるかって?それは私が近くに居ても死なないからだ。


人間で私の近くに居て死なないのは勇者だけ。例外は今までにない。


だから私はこの人間が記憶を取り戻す前に封印でもしようと考えて魔王城に連れて来た。


でもいざ封印しようとしたら無駄話のし過ぎか、この人間に情が湧いてしまった。


他の人間から不当な扱いを受けても必死に生き続けたこの人間がただ勇者の力を引き継いだだけの理由で封印されていいのだろうかと。


だから私は少し考えた。


この人間は人間に少なからず恨みを持っている。ならこちら側の仲間になるのではないかと。


もしそうなったら勇者のいない人間達などすぐに滅ぼすことが出来る。


だから私はこの人間を生かした。


「でも間違いだったよなぁ」


私はこの人間に恋をしてしまった。


もうずっと手放したくない。


戦いの道具にもしたくない。


というかいっそ二人で誰も来ない場所でひっそりと暮らしていきたい。


「可愛い寝顔して。私がこんなに愛しても人間は私を好きになんてならないもんな」


いくら人間のいた場所の奴らが、この人間に不当な扱いをしてたとはいえ。全員をただ居るだけで殺してしまう私なんか恐怖の対象でしかないだろう。


「でも出来るなら。もう少しこのままで」


私は眠っている人間に口付けをする。


すると寝ぼけて人間が私の手を握ってきた。


「私に触れてくれる者がいるなんて思いもしなかった」


私は人間の頭を撫でてから抱きしめるようにして眠りについた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ただ居るだけで人を殺してしまう魔王とその世話係になった人間 とりあえず 鳴 @naru539

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ