第10話 カロスの過去

 「王よ……」


 後にカロスと名付けられる五代魔獣の一角。氷結の白狼はふらつく足に力を入れながら弱々しく歩いていた。


 「なぜ……なぜ我よりも先に……王が……」


 カロスは魔獣の王が死んだと他の魔獣により伝えられた。


 カロスはまだ子供の頃に魔獣の王に拾われ育てられた。親を知らないカロスにとって魔獣の王は親同然だった。


 「もしも我が王の場所にいれば……こんなことには……!」


 「ずいぶんと弱っているようだな。氷結の白狼」


 下を向いて歩くカロスの前にどこからか痩せ細った男が現れた。


 「誰だ貴様は」


 「俺か?うーん、ナイトとでも名乗ろうか」


 「それで貴様は我になんのようだ」


 急に現れた謎の男を前に巨大な体でカロスは唸る。


 「用って言ってもねー、白狼。魔獣の王の話は聞いたか?」


 魔獣の王という言葉にカロスは体の動きを止めた。


 「魔獣の王死んだじゃんか?」


 「……」


 「魔獣の王さ、俺が殺した」


 男の言葉に目を見開く。


 「今なんて……」


 「だから、俺が殺した。魔獣の王を」


 カロスは体が怒りで支配されていくのを感じた。だが一旦冷静になった。こんなやつに魔獣の王が殺されるはずがないと。


 「冗談を言うな。貴様みたいやつに王が殺されるはずがない」


 「それはどうかな」


 男はそういうと、ポケットからあるものを取り出した。


 「これ、魔獣の王の大切なものだろ?」


 「ッ……!」


 男の手上に乗っているのはただの一つの石だった。だがその石が王が大切に持っていた石だとすぐに分かった。


 「マジックストーンは奪うことができなかったが、この石だけは持ってくることができたよ」


 「お前……」


 「なんだって?」


 「お前を……」


 カロスは完全に体が怒りで飲み込まれていった。


 「絶対に殺す!!!」


 カロスは勢いよく地面を蹴って男に接近する。


 気温は一瞬でマイナスに下がりあらゆるものを氷つかせた。


 「怖い怖い」  


 だが男はそんな気温にも怯むことなくカロスが繰り出すさまざまな攻撃をかわす。


 「死ぬがいい!スノーライグ!」


 カロスがそう言うと先がナイフのように尖った巨大な氷の塊が出現した。


 「ワウォォォーーーーーン!!!」


 遠吠えとともに巨大な氷の塊は男の下に飛んでいく。


 「素晴らしい攻撃だな!でも俺には効かない」


 そう言いながら男が右手を軽く振る。瞬間、巨大な氷にヒビが入り、砕け散った。


 「な?お前の攻撃は効かないんだ」


 男は指をパチンッ!と鳴らし、カロスとの間合いを一瞬で詰める。


 「なっ……!」


 「チェックメイト」


 男はカロスの体にそっと触れる。その途端カロスは倒れ押しつぶされる寸前で地面に倒れた。


 「安心しろ。押し潰したりはしないから」


 そう言いながらまた男はカロスに触れた。


 「グゥッ……」


 「お前の魔力をもらう。そして俺と会った記憶も」


 カロス視界はどんどん暗くなっていく。


 「流石は五代魔獣だな。こんな魔力があるとは。ごちそうさま」


 男はカロスにそう挨拶し、突然現れたように、突然姿を消した。


 カロスは消えゆく意識の中で一匹の魔獣のことを考える。


 「王……よ……」


 そして意識は暗闇に沈んでいった。


 


 「ま、まあ気を取り直して会議を続けましょうか……」


 フェイが魂が抜けたような老人たちに声をかけると、いくつか資料を机に出した。


 「ええと、リウス様によりますと幹部の方たちからギルドに向けて魔獣を殺すように要請があった、とのことです。あっていますわよね……?」


 自信なさげに確認をしてくるフェイに対し、俺は軽く頷きながら追加情報を伝えることにした。


 「ギルドに申請があったと言っても全てのギルドに要請があったわけじゃない」


 「そうなのですか?」


 「ああ、要請が来たのは全部で10つのギルドだ」


 「何故10つのギルドだけなのじゃ?」


 ハブ爺が自分の髭を触りながら、小さな声でつぶやいた。


 「何故10つのギルドだけなのか、という話なんだが、俺がいた国ではギルドにランキングが付けられていて、20位から11位のギルドに今回の要請が来たんだ」

 

 あのー、と言いながらひとりの男が手を挙げた。


 「俺の名前はアマウスと言います。質問してもよろしいでしょうか?」


 「全然いいよ」


 「なぜ選ばれたのが10位から1位のギルドではないのでしょうか?」


 なぜ10位から1位ではないのか、か……。


 「多分だが……20位から11位で戦力が十分だと判断されたからだろうな」


 「なに!?我らファイアーウルフをその程度だと思っているのか!?」


 「くそ!!!人間どもめ!!返り討ちにしてくれる!!」


 「俺の牙で首を食いちぎってやる!!!」


 「ちょっとうるさすぎるんじゃないかしら?」


 俺の発言で騒がしくなってしまった部屋を、一瞬にしてフェイは沈黙させた。


 「あなたたちは今誰がお話されているのかわかってるの?」


 「いや、悪いのは俺だ。申し訳ない」


 「おい貴様ら。また我が主がお話されている間に騒ぎ出したりすれば……どうなるかわかっているな」


 「やめろカロス。誤解を生むような発言をしたのは俺なんだから」


 「でも、リウス様。私達ファイアーウルフがなめられているのは本当なのでしょう?」

 

 一人の男は額に血管を浮かべながら、それでも呼吸を整えながら俺に質問してきた。


 「ああ、多分完全になめられている。でもそれでいいんだ」


 今の俺の発言にまた部屋中がざわつきだした。


 「何故なめられていた方がいいのでしょうか?」


 「ううん……これは言い難いことなんだけど……多分10位から1位のギルドに攻められたら俺たちは一瞬で敗北する」


 「なに!?」


 「我らが一瞬で……!?」


 「おい貴様ら。次に騒いだら」


 「今はいい、カロス」


 俺は今にも暴走しそうなカロスに触れ、落ち着かせる。


 「承知致しました。我が主よ」


 「話を続けてもいいかな?それで今話したように、10位から1位だと一瞬で敗北してしまう。だが20位から11位の連中には勝利する確率の方が高いんだ」


 と、俺は言ったが本当は、20位から11位のギルドにも勝つことが難しいと思っている。


 今の状況では、だが。


 「なら私たちが勝つことができるのですね!」


 「いや、勝つ確率が高いという話だ。だがまだ負ける確率も決して低いわけではない」


 俺の意見を聞くと活気が戻った人たちは、また肩を落としていった。


 だがな……まだ肩を落とすのは早いかな。


 「ここで一つ提案がある。俺と一緒に勝つ確率を100%に近づけたくはないか?」

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