Lost Fantasia
眞弥。
第1章
-Prologue- 自由というカゴの中で
アルトリウス暦1201年。
長らく続いていた魔族とオーガスティア王国の戦いに終わりの兆しが見えていた。
王国のとある地にて。
ここでは、ヴァーミリオン家の王都の屋敷でパーティーが開かれていた。
「いやぁ、実にめでたい!遂に戦争が終わる!」
「全くですな、ダムド公。我々が生まれる前から既に始まっていたこの戦争に、終わりが来るとは思ってもいませんでしたぞ」
「お話の最中失礼します。パーティーはお楽しみいただけていますか?」
今回のパーティーの主催者である、ルーファス·ヴァーミリオンが声をかける。
「これはこれは、当主殿!いやぁ、大変楽しませてもらっているよ。お孫さんが生まれて1年を迎えるのだろう?私も2歳になる孫が居るんだがまぁ可愛いのだよ!まさしく目に入れても痛くないだろうな!」
「えぇ、全く持って同感です。ですが、訂正を一つ。私は既に当主を息子に譲っておりますので、今は“前”当主です」
「いや、そうであったな。申し訳無い。貴殿が当主を務めていた時期が長かったであろう?…未だに当主であるという認識が強くてな。今後気を付けよう」
「そうしていただけると幸いです。…今は私が居ますがあくまでも当主は息子ですから。それに今は騎士団長も降りた身ですので」
「うむ、口を挟んで申し訳無いが、これからは争いも落ち着く時代に入りますからな。若い世代が新しい時代を作っていく。古い慣習もこれを気に廃れてくれればいいのですがね」
「…それを我々のような立場の人間が言うのはどうかと思いますぞ。ダムド公」
「では私は今の一切を聞かなかったことに致しましょう」
「それですよ!ルーファス殿!それが悪い慣習だと………」
◇◇◇
ボーン ボーン
十三時を知らせる鐘が鳴る。今日のパーティーは主催者である、ルーファスが外せない用事のため午前中から行われ、昼に終わる変則的な時間編成で行われていた。
「む?どうやらそろそろ終わりの時間のようだな。それでは我々もお暇させていただこう」
「そうですな、それではルーファス殿。今日は大変楽しませていただいた。今度は我が領地に是非とも来ていただきたいものだ」
「えぇ、機会があれば是非」
「ではまた会おう。ルーファス殿」
「えぇ、本日はありがとうございました」
その場に残るダムド公。体を振るわせ、どうやら笑いを抑えているようだ。未だに帰る素振りはなく、先程までとは打って変わって感情が溢れ出ている。
「くくく…」
「…何がそんなにおかしいんだ?エディ·ダムド?」
「別に?今の状況が面白いだけさ?おい!待て待て!拳を掲げるな!悪かった、悪かった!…それにしてもお前も長い間、大変だったな」
「何がだ?」
「学院の時はあんなに専属騎士になることを拒み、当主になる気も無かったお前が、騎士団長を何十年も務め、当主も兼任。昔言っていたことと正反対じゃないか。お前が騎士団長を引退したと改めて聞いたら、この状況に面白くなってな」
「それを言うならお前もそうだろう。ダムド公だと?絶対に爵位は継がないと言っていたお前が?」
「まぁ…お互い様ということか。こうして気楽に話すのも随分と久しぶりだものな」
「…今はお互い立場があるからな。あの頃のように気軽に会えるわけでもないし、何でも話すという訳にはいかないさ。…さて、今日はそう悠長に話してもいられないんだ。ほら、ダムド公はさっさとお帰りになって下さい」
そう言うとルーファスはダムド公の背を軽く押し、帰宅を促す。今日は片付けをできるだけ早く終わらせて、一刻も早く戻りたいのだ。
「お前!せっかく久しぶりに会って、腹を割って話してるって言うのにもう追い出すのか!」
「今日は孫の誕生日会があると言ったろう。家に帰ったら1歳の誕生日会だ。お前なんかに割いてる時間は無いんだ」
「友人より家族を優先か…。ま、それもそうか。…お前も年喰ったなぁ。いや、それは俺もか。まぁ今日は帰るとする。今度時間作ってサシで呑もうや」
「……あぁ、時間があったらな。ほら、速く帰れ。迎えが外に待ってるぞ。俺もこの後予定があんだよ」
「分かってるって。帰るよ、お前押すな!力強いんだから!」
玄関先までダムド公を送るルーファス。
辺りはまだ明るく、正午をしばらく過ぎた頃だが、若干雲が出てきていた。既に彼の付き人が馬車を用意して待っていた。
「じゃあな。護衛付けてるとは言え気を付けろよ」
「んだよ、素っ気ねぇなぁ。あぁ、また会おうぜ。よし、行くぞ」
「かしこまりました」
「……あぁ、またな」
ダムド公が、帰りの馬車内にて一人思案している。ルーファスの言動に何か思うことがあったようだ。
彼、エディ·ダムドは本名エドワード·フォン·ダムドと言い、この国の公爵である。と言っても、彼も少し前に息子に当主の座を譲り、本人は貴族社会からは殆ど引退しているので、今回のパーティーにはルーファスによって招かれ、特別に参加していたのだ。
「…それにしてもあいつ、なんか最後歯切れ悪かったな…。酒断ってんのか?いや、それはねぇな。さっき軽く呑んでたし。なぁサウル、あいつ、なんか変なところあったか?」
「…いえ、私はそうは思いませんでしたが」
「うぅん、分からねぇな…うん?さっきまで日が出てたってのに…一気に曇っちまった。この時期にしちゃ珍しい、嫌な天気だな…」
◇◇◇
「む、いきなり曇ってきたな…よし!さぁ、片付けを始めるぞ!クロード、居るか?」
「はい、ここに。メイド長のシシリーには既に撤収の準備を行うよう通達しております」
彼は専属執事のクロード。
二代前の当主から仕えており、執事長でもあり、この家に一番長く勤めている人間である。齢六十をゆうに越えているが雇っている私兵よりも強い。
世の中には不思議なこともあるということだろう。
「仕事が早いな。流石、俺の父の代から仕えているだけのことはある」
「お褒めに預かり光栄です」
◇◇◇
王都の屋敷で行われたパーティーの片付けに一定の目処が立った後、彼は自宅の屋敷に戻ってきていた。
「よう、今帰ったぞ。まだ準備中か?」
「父さん!お帰りですか。もう既に準備万端です。後は父さんの支度が終わればいつでも始められますよ」
彼の息子であり、現ヴァーミリオン家当主のエリオットが声をかける。24歳という若さにして当主でありながら、更には今代の勇者でもある。
「お、そうか。なら急いで準備してくるから、もう少し待っててくれ」
「なるべく早めにお願いしますよ、父さん。今日はレオンの誕生を祝うんですから。ですが、無理はしないで下さいね。今日のパーティー、俺も行くと言ったのに」
「俺のことは気にしなくていいんだよ。元々俺があいつらに開いたパーティーだからな。お前はレオンの元に居てやれ。別に今日は体も随分ましだったし、俺は俺でダチにも会えたしな」
「ですが―痛っ!」
心配ないと告げるルーファスは、苦言を呈するエリオットに対し、彼の額をはじく。
「ごちゃごちゃうるさい。さっさと終わらせて帰って来たんだ。少し休んだら参加する。先に始めててくれ」
「…分かりました。では俺は先に行ってますね。それにしても、クロード達は居ないんですか?」
「御座いますよ。エリオット様。ルーファス様と私はパーティーに間に合わせる為、シシリーに任せ、先じて戻って参りました。と言っても、もう間もなく戻ってくるとは思いますが」
「クロード。随分良いご身分ですね。自分は指示だけ出して、ルーファス様と先に屋敷に戻るとは」
そう言って現れたのはメイド長のシシリー。
クロードとは十歳以上年の離れている夫婦である。だがエリオットが幼いころからシシリーの見た目に変化が現れない為、いつもそれ以上の年齢差があるように思われてしまい、夫婦と初めて聞いた人は、驚きが隠せない。
「シシリー…。今日はヴァーミリオン家として、レオン様の誕生祝いがあると知っているだろう。だから前もって説明していたではないか」
「それは分かっていますが、こっちにも要望というものが…」
「ほら、痴話喧嘩はそっちでやれ。俺は着替えてくる」
ルーファスは二人の話に巻き込まれることを避けるため、その場から早々に離脱する。
「ルーファス様、お待ち下さい。後で埋め合わせはする!今はこの話は終わりだ!」
「クロード!…全くもう…」
「ははは…取り敢えずおつかれ様、シシリー。俺は二人を呼んで来るよ」
それからおよそ三十分後、この家の長男レオンの1歳を迎える誕生日パーティーが始まった。
◇◇◇
「ではそろそろ父も来られると思いますので、レオンの誕生祝いを始めようと思います!では準備は宜しいですね。まずは皆、初代様に献杯」
「「「「「献杯」」」」」
「では、次に祈りを捧げます。我らヴァーミリオンに代々伝わる加護を授けていただいたこと、真に感謝します」
「「「「「我らヴァーミリオンに代々伝わる加護を授けていただいたこと、真に感謝します」」」」」
「争いなき世界の為に」
「「「「「争いなき世界の為に」」」」」
「さて…堅苦しいのはもう終わりだ!今日は皆、僕の息子レオンの誕生祝いに集まってくれてありがとう。皆、今日は楽しんでいってくれ!」
現当主が開始の合図をするとパーティーは始まった。
そこに鎧姿に身を包んだ、一人の男が彼の元に近付いてくる。
彼の名はケイン。同じパーティーの仲間として、幼少期の頃から共に時間を過ごしてきたエリオットの親友だ。そして、それだけではない。
「エリオット。お前、張り切り過ぎじゃないのか?レオン、今日1歳なんだろ?こんなデカいパーティーなんか開いて、息子に無理されるなよ?」
「大丈夫さ、もうレオンの役目は終わりだから、ある程度したら休ませる。レオンの誕生祝いなんて彼らにとって殆ど建前さ。俺たちは特殊とは言え、立場があるから、こうやって何らかの名目をつけて経済を回さなきゃな。それに身内だけの誕生祝いは前に俺らでやっただろう?」
「まぁな…。てか、お前らヴァーミリオン家ってこういうのやるんだな。争いなき世界の為、ねぇ…。それに、去年はこういうやつ無かったし、殆ど参加もしてないからよ」
「ケイン達も驚かせたか。ヴァーミリオン家とはこういう時には初代様に感謝して祈りを捧げるんだ。と、言っても形式のものだけどな。…それと、そこに突っ込むな。だからヴァーミリオンは争いの一族って言われるんだ」
「だが、それが重要なんだ。初代様が居なければヴァーミリオン家は無いのだから」
準備を終え、会場にやってきたルーファスが二人の会話に補足を入れる。エリオットの最後の会話は聞こえていなかったようだ。
「父さん…!早かったですね。今は大丈夫なんですか?」
「あぁ、当分はな。取り敢えず、俺は挨拶周りに行ってくる。お前らは自由にしてていいぞ」
「はい、父さんもお気を付けて」
「おい、エリオット。で、主役は何処にいるんだ?」
「ケイン…お前は目がついてるのか。モニカと一緒に居るだろう」
「久しぶり、ケイン。元気だった?」
そう言って現れたのは現当主の妻にして、レオンの母、モニカだった。ケインの姉でもある。
「姉キ!久しぶりだな、元気そうで何よりだ!」
「えぇ、忙しいけど毎日レオンのおかげで楽しく過ごしてるわ。ほら、レオン挨拶は?」
「だぁー?あーうー!」
彼はエリオットとモニカの息子、レオンである。
先日1歳の誕生日を迎えた、将来有望なこの家の長男だ。
「わぁ〜、レオンは可愛いなぁ〜!流石姉キの息子!俺の甥っ子!」
「おい、俺が抜けてるぞ。俺とモニカの息子だ。お前は叔父としてもっとしっかりしろ。本当にお前も一児の父か?」
自身が叔父であることを突っ込まれると、何故か肩を落とすケイン。
「くっ…、父と呼ばれるのは良いが、叔父と呼ばれるのがこんなにくるとは…てか、お前も伯父だからな!忘れんなよ!」
彼、ケインは二人に先駆けて結婚していた。冒険者として活動している頃に意気投合した女性と家庭を築いていた。
今日はレオンの誕生祝いということもあり、親戚として来る予定だったが、体調を崩したのでケインの実家で息子と共に休んでもらっている。
「忘れてないよ。今じゃ1歳半ぐらいだっけ?」
「えーとな…。今月で1歳と7ヶ月だな」
「そうか、もうそんなだったか。子供の成長は早いな」
「本当に早いぜ。ほんの少し前まであんなに小さくて殆ど何も出来なかったのに、今じゃたまーに俺をパパって呼んでくれるしな」
「貴方が父親なんてね…未だにそんな気がしないわ」
「そりゃないぜ姉キ!何なら俺の方が先なのに!」
「まぁまぁ、モニカもそんなケインを苛めなくても…」
「あら、苛めてないわよ?姉として弟を心配してるだけよ…」
「とてもそうには聞こえねぇよ、姉キ…」
「あら、何か言った?」
モニカの笑顔が笑っていないことを弟として察したケインは、早々に引き下がった。
「いえ、何でもないです!」
◇◇◇
パーティー開始からしばらく経ち、日も落ちてきた頃。
屋敷からそう遠く離れていない場所にて…
「人間共は魔族を理由も無しに悪と決めつけ迫害している!かつてこの地は魔族の土地だった!今こそ報復の時だ!」
-----おおぉぉぉぉぉ!!-----
「行くぞ、お前達!我等の力を思い知らせるのだ!」
「…やるのか、本当に…」
何やら不穏な空気が漂い始めていた。
◇◇◇
「ふぅ…夜も更けてきた。そろそろお開きの時間かな」
「なら俺は、片付けでも手伝ってくるぜ。数が多いからもう始めてるんだろ?」
そう言うとケインは広間を離れ、キッチンの方へ向かっていく。
「あぁ、じゃあ頼むよ。モニカ、レオンももう眠っているし、先に戻っていていいよ」
「じゃあお言葉に甘えてそうさせてもらおうかしら。私もずっと大勢と一緒の空間に居るのは疲れるし」
「あぁ。じゃあ後でね」
「えぇ。頑張ってね、当主様」
「今日は先に寝てていいよ。遅くなるだろうし。なるべく早く片付け終わらせるから」
「別に急がなくていいからしっかりやってきなさい。じゃあお休み」
「うん、お休み。…さてと、やるか。お集まりの皆様!」
◇◇◇
「お前達、準備は出来ているな!我々は今宵、協力者と共にヴァーミリオン家を襲撃する!お互いの思惑はあれど今回の我等の戦いに義勇兵として共に剣を取る!その心構えは同じだ!行くぞ、お前達!魔法部隊、用意は良いか!構え、放てぇぇぇ!」
---炎魔法 地獄の焔《インフェルノ》---
何者かが自軍に向けて演説を行い、魔法を発動させた後…
「アンバーさん、本当にいいんですか?」
「あぁ、俺達は周囲の田畑に火を付けるだけだ。後は精々時間稼ぎぐらいしか任されていない。実質外されたようなものだ。終わり次第帰るぞ」
「…ちょっ!待って下さいよ、アンバーさん!」
「一体…ジェラルドさん、急にどうしたんですかね…。こんな闇討ちみたいなことをする方じゃなかったのに…」
「…俺には分からない。何故こんなことをしたのかも。その理由も…」
◇◇◇
「本日は私の息子、レオンの為にお集まりいただき、ありがとうございます。非常に名残り惜しいところではありますが、只今を持って、お開きとさせていただきたいと思います。また、是非機会が有りましたら、今後もお呼びさせていただきたいと思います。改めまして、本日はありがとうございました!」
拍手があちこちから飛んでくる。その時だった。
地面が揺れ、屋敷の周りから火の手が上がったのは。
「な、何だ!?」
「火事だ!辺りから火が出て屋敷を囲んでる!」
「敵襲か!?」
「屋敷に火が付くとまずいぞ!速く外へ出るんだ!」
「どうやって出るっていうんだよ!もうあちこちから煙が入ってきてる!屋敷に火が付いたに決まってる!」
「落ち着け、キース!全て火で覆われているはずはない!まだ火の手が上がったばかりだ!玄関や裏口、窓を開けて出ればいいだろう!」
屋敷一帯を囲むように火の柱が燃え上がり、煙が入り込んでくる。外は炎のせいで明るくなり、だんだんと燃え広がってゆく。窓ガラスが割れる。とうとう屋敷に火が付き始めた。
「落ち着け、お前ら!女、子供、戦えない者達は奥にある裏口から出ろ!まだ全てに火が回っている訳じゃない!戦える者達は早急に身支度を整えろ。敵襲の可能性がある!」
「こんな時に落ち着けるか!もう火が回ってきてるんだぞ!一刻も早くここから出るべきだ!」
「気持ちは分かりますが、まずは落ち着いて下さい!父さんの言う通りです!今この場で何が起きているかを把握しないとより混乱するだけです!父さん!俺は二人の安否を確認してきます!もしかしたら取り残されているかもしれないので!」
「相分かった!」
部屋の扉が開き、ヴァーミリオン家の私兵らしき者達が入ってきた。十名程が入り、避難する者達を裏口へ連れてゆく。
「ご無事ですか!」
「あぁ、無事だとも。さぁ、速く出口へ案内してくれ」
「えぇ、直ぐにご案内致します」
「…うん?待て!」
「何でしょうか、当主様。今は一刻を争う事態ですよ。早く客人を避難させなくては」
「誰だ、お前は。この屋敷で一度も見たことが無いぞ」
「まさか。私はここで働いていますよ。当主様の勘違いでは?」
「違うな。今の言葉で確信した。俺は一年も前に当主を引退してるんだよ。ここで働いてるやつがそんなことを何度も間違えるはずがない!ウィル!そいつから離れろ!」
「ふっ…遅いんですよぉ!指示が!」
「ぐふぉっ…あ、が…」
彼の持っている槍がウィルと呼ばれた者の体を貫く。
それは、この場を更に混乱に陥れるのに相応しいものであった。
辺りに舞う鮮血。
目の前であっさりと命を奪われる身内。
二人のやり取りが聞こえない者からすれば、それはこの家の私兵が裏切ったとしか思えなかった。
◇◇◇
「さぁ、こっちです!早く来て下さい!」
「慌てないで下さい!安全ですから!」
「ここから出ればもう安心ね…」
「えぇ、永久にね」
「え?」
突如として避難誘導をしていた私兵達が突如剣を向けた。
が、間一髪間に合った者が居た。
「貴方達…この家に仕える者として共に働く使用人達を背後から狙うとはどういうことですか!」
シシリーだった。彼女は炎が上がった当初より、関係者の中に内通者が居る可能性を考えていた。
内通者も無しにこの家にここまで接近し、今日ここで一族が集まっていることを知っていたとは考えにくかったからである。
「別にぃ〜?我々が仕えているのはジェラルド様ですのでヴァーミリオンに関わる者は皆殺しとのことですので〜」
「どういうことです…貴方達は確かにヴァーミリオン家に仕えているはず…。もしや…-
「やれるものならやってみろよぉ!」
◇◇◇
「うおおおおお!貴様、ウィルを…今すぐその手を離せ!」
ルーファスは侵入者に殴りかかるものの、男は動く素振りを見せない。彼にその拳を止められるが、その手を振り払い、逆の手で男の胸ぐらを掴む。
「では、これでいいですか?」
槍から手を離す侵入者。ウィルの身体が崩れ落ちる。が、最早その瞳に光は無かった。
無抵抗の侵入者は更に話を続ける。
「やはり…前当主様は魔法が使えないようで。情報は正しかったということですか」
「っ!…何故それを知っている!?」
「今さら貴方が知ろうと関係ありませんよ、今日でヴァーミリオン一族は滅びるのですから。…と言っても私は戦うつもりはないので、ここでさよならですが。では来世でお会いしましょう。前騎士団長」
男は拘束から逃れ、距離を取ると魔法陣から発せられた光でその身を包んでゆく。
「伝説の…転移魔法…まさか、使用者が居たとは」
「ふざけるなよ、ルーファス!どういうことだ、何故ウィルが殺されねばならんのだ!お前ら!こいつらの言うことなど聞く必要はない!自分の身は自分で何とかするんだ!」
「待て!最早、誰が敵かー」
「ぐあぁっ!」
先ほどまで慌てふためいていたはずの身内が、近くにいた者に斬りかかる。
「そうだよ!もうかなり火が回ってきた!早く逃げた方が良いんじゃない?誰かに切られちゃうよ?こうやってさ!」
「…キース!お前何を!?」
「キース…?あぁ、それはオリジナルのことでしょ。僕はそいつじゃない。…なるほど君、キースの兄か。いいねぇ!弟に殺される兄!」
彼の振るう刃がたった今切られた彼の目の前まで近付いていた。が、その時だった。
「…誰が殺させると?」
「はあ?何だよジジイ…引っ込んでろ!あんたみたいな老いぼれ、お呼びじゃないんだよ!」
「…これ以上この屋敷で人命を失う訳にはいかないのですよ。ルーファス様!こいつは私が食い止めます!一刻も早く脱出の準備を!先ほど連れられた皆様はシシリーが避難させています!」
「お前達!各自脱出だ!シド!クラークを支えてやれ!クロード!一先ずそいつは頼むぞ!」
「はい、お任せ下さい!」
各々がこの大広間から脱出していく。
最後に残った彼が指文字でクロードに何かを伝え、この部屋を出る。クロードも何かを返す。
「…見上げた忠誠心だねぇ、思わず見習いたくなっちゃうよ!」
「執事として当然のことをしたまで。お前に見習われる筋合いは無い!」
「へぇ…そうですか。じゃあさっさとあんた殺して、ヴァーミリオン殺しに行くとするかなぁ!」
「戯けが。お前のような若造には負けん」
◇◇◇
「はぁ、はぁ…ここはまだ火が回ってないわね。…うん?この声は?」
「モニカ!居るかー!まだ居るなら返事してくれー!」
「エリオット!良かった…。部屋に戻ろうとしたところに爆発音みたいなのが合って…」
「良かった、怪我は無い?レオンも無事?レオンの反応を感じて来たけど、まだそこまで大きくないからね。探したよ」
「えぇ、大丈夫よ。それよりも今は一刻も早く屋敷から出るべきだわ。ここはまだ火の手は回ってないけど大分煙が入り込んで来てるもの」
「既に多くの人をシシリーが避難させているらしい。君もレオンを連れてそこに合流するんだ。君を戦闘には参加させられない」
「本当なら力になりたいけど…今は言い争う時間も無いし、レオンが居るから避難させてもらうわ」
「うん。キッチンのすぐ近くにある裏口から出て。まだそんな遠くへは行ってないはずだから君なら追いつけると思う」
「えぇ、分かったわ。気を付けてね。離れても…レオンが居るから大丈夫よね?」
「大丈夫。何処に居ても分かるよ。さぁ、行って!かなり火が拡がってきてる!」
◇◇◇
「うそ…でしょ…」
モニカが屋敷から出た後のこと。モニカは屋敷から脱出する者達を見つけたが、その光景は絶望へと変えるものだった。
「甘えんだよ!誰一人として逃がすなとカートさんからこっちは言われてんだ!」
「げほっ…くっ…これは、不味いですね。-
「身体狂化か…それを使える人間がいるとは珍しい…」
「おい…身体狂化を使える人間がいるなんて聞いてねぇぞ…どういうことだ!」
「知らないよ。向こうに不備があっただけのことだろう。だから最初からあんなもの信用するなと言ってるんだ」
(嘘でしょ!?シシリーが劣勢!?いや…かなり危ないわね。でも…レオンを抱えては戦えない。それに今の話は…。一体どうすれば…!)
(モニカ様。聞こえますか?)
(シシリー!?どういうこと?これは何?)
(念話です。今は余裕がないので私の言ったことだけ聞いて下さい。まずはレオン様と共にそこから移動しながら聞いて下さい。私に勝機はほぼありません。こいつらの狙いはヴァーミリオン一族の滅亡とレオン様の命です。私が時間を稼ぎますのでレオン様を連れて逃げて下さい)
(じゃあそこに居る皆はどうするの!)
(この者達は我等と違い、戦う術を持ちません。私の主君はヴァーミリオン本家です。例え一部を切り捨ててもあなた方を優先しなくてはいけないのです。…勿論、私の命を捨ててでも)
(出来ない…そんなこと。…見捨てるなんて)
(私たちのことを気にする余裕など無いでしょう!そんな甘いことを言っている時間は無いのです!早くレオン様を連れて逃げなさい!)
「…万が一の策はありますから」
「…?何の話だ?」
「お構いなく。こちらの話です」
「…ちっ。そうかよ!」
気配を消し、屋敷の方角へ走るモニカ。
「早くエリオットに伝えないと。戻らなきゃ。ごめんね、レオン。私達の都合で振り回して」
◇◇◇
モニカがその場から離れた後のこと。
「…ぐっ。て、てめぇ…」
「ふぅ…まずは一体…。さぁ、早く来なさい」
「はあ?お前みたいな死にかけ、準備も要らねぇよ!…くっ!?」
「あら、死にかけの一撃に随分とびびるじゃないですか」
「てめぇ、言わせておけば!」
「また、身体狂化か…その状態で何度もそれを使うことがどういう意味か分かっているのか?」
「そんなことは元より覚悟のこと!黙っていなさい!」
「ほう…それは失礼した」
だが、既に彼女の身体は限界が着々と近付きつつあった。基本的に連発は出来ない身体狂化を既に何度も使っている為にかなり無理をしていた。
「さぁ、次は貴方ですか?」
「私が出るより先に倒すのが残っているだろう?」
「これを見てそう言えますか?」
彼女が目の前の敵をダガーの柄部分で軽く押すとズシン…と倒れる。彼に話しかける時には既に討ち取っていたようだ。
彼は目を見開き、感情をあらわにする。
「ほう…たかが人間と侮っていたが、強いな。まぐれではなさそうだ」
「まぐれで何体も倒せませんよ。ほら、早くやりませんか?」
「お前ら、行け」
「おやおや、いきなり複数で囲むとは。先ほどまでは一対一だと言っていたのに」
「私はいつも最後まで出番はないんだ。私と殺し合い《たたかい》がしたいならそいつらも仕留めてみてくれ」
「えぇ、やってみせますよ…その台詞通りに」
◇◇◇
「は、離せ…まだ、終わってない…」
「もう終わりだ。今の貴女に何が出来る?女の身でありながら身体狂化を何度使った?本当に人間かどうかも怪しいものだ。二桁は行くのではないのかね?が、自身の身体の限界を超えて使用したことで自滅した。最早その身体は動かすことも出来ないだろう?」
「まだ、戦える…」
「もう無理だ。が、貴女の名を聞こう。まさかあの状態からあいつらを倒すとは思わなかった。が、そこまでだった。私には敵わない。が、私は強い者には敬意を払う。そして殺す」
「…お前に名乗るような名は無い…」
「そうか。別にそれでもいい。貴女は強かった。私は貴女を覚えておこう」
男の腕が彼女の胸を貫く。少しでも足掻こうと男の腕を必死に掴んでいたが、少しの痙攣の後、男の腕からその手が離れた。最期まで掴んでいたその腕には、痣が浮かんでいた。
「…凄いな、私の腕に痣ができる程とは。これ程の人材を保有し、神から賜ったスキルを持つヴァーミリオン家…。戦いたい…。いや、やはり滅ぼさねば」
彼がその場を離れた後、彼女の遺体は煙のように消えた。
◇◇◇
クロードとキースの偽物の攻防は続いていた。
だが、偽物がかかれば、クロードは引き、偽物が引こうとすれば、クロードが追う。そんないたちごっこが繰り返されていた。
「老いぼれ、さっさとどけよ!お前、もう分かりきってんだろ!俺には敵わねぇって!」
「黙れ。私の仕事はお前の足止めだ。お前に勝つ必要はない。援軍がくるまでの間、時間を稼げばいいだけのこと!」
「あ、そうなんだ。じゃあいいや。僕、お前に興味ないもん」
「ふざけるな、誰が逃がすか!」
「くっ!うぜぇな、お前!」
再び刃の激突によって火花が散る。
◇◇◇
広間から脱出した後、ルーファスは残っている者と、敵の確認の為に屋敷に残り、探索を続けていた。
「よし、あいつらは一先ずこの屋敷からは出たが…何処に敵が居るか分からんからな…。逃げ遅れた者が居る可能性も…」
「ルーファスさん!良かった…!無事だったんですね!」
「おぉ、ケイン!お前も無事だったか!今まで何処に居た?俺は親戚をこの屋敷から出したところだ。あいつらもヴァーミリオンだ。並の相手にはどうってことない」
「はい、自分が丁度、片付けを手伝っている時に揺れがあって…その場に居た使用人達を逃がした後、ルーファスさんか、エリオットと合流しようと今まで探していたところです」
「…そうか。脱出させたのは良いかも知れんが、後のことを考えると、不味かったかもしれんな」
難しい顔をするルーファス。使用人達の状況について思うことがあるのだろう。
「…え?何故です?」
「おそらくこれは敵の襲撃だ。家の使用人はある程度は自衛が出来るが、この火が炎魔法だとすれば、このレベルの魔法を使える者に出会った場合、生き延びることは難しいだろう。あの時あいつにはあの場を離れることを許可したが、場所は分かるとは言え、連絡手段が無いことを考えると悪手だったかもしれん。よし、ケイン、先ずはエリオットと合流する」
「はい!」
◇◇◇
同時刻、エリオット側。モニカと離れた後、自身に襲いかかってくる敵を無条件になぎ倒しながら、ルーファスとの合流を目指していた。
「何だ、こいつらは…影のように実体が無い…よし、まずは父さんと合流しよう。…うん?この反応は…」
「エリオット!」
「モニカ!?何でここに?」
「実は…」
彼女は自分が見たことの顛末をエリオットに伝える。
「そんな…狙いはヴァーミリオンの滅亡とレオン!?それに、シシリーがやられた!?しかも外に多くの魔族が?…本当だ。何故だ?間違いなく敵襲だ。それなのになぜこの人数の魔族の反応に気付かなかった?」
「エリオット、今はそんなことを考える時間は無いわ。それと今問題なのは内側の敵よ。シシリーと戦っていた敵が洩らしていたわ。『情報と違う』と」
「…一先ず父さんと合流しよう。僕らだけじゃどうにもならない。レオンは?大丈夫?」
「定期的に軽くだけど
「そうか…凄いな、この子は。だが、もう少しだけ頑張ってくれ、レオン。行こう、モニカ。父さんもこっちに近付いてる。合流しようとしているんだろう」
◇◇◇
「む、エリオットもこちらに向かってきているな。考えることは同じようだ」
「ルーファスさん、当たり前のように黒いの斬りながら言わないで下さいよ…。こっちはまだ誰が敵なのか分からないんですから」
「あぁ、敵は魔族だろう。どういう訳か今さっき魔族の魔力反応があった。感知してみろ」
「…え?あ、本当だ。何で気付かなかったんだろう?」
「それは分からん。おそらくだが、
◇◇◇
広間のすぐ近くの廊下にて二組が合流する。
二組とも敵との遭遇はあれど、無事のようだ。
「父さん!」
「エリオット!無事か!」
「姉キ!?何でここに?」
「ケイン…良かった、無事だったのね」
「エリオット、俺はクロードの現状を確認してくる。お前は3人を離れに避難させた後、合流するんだ。いいな?」
「はい。ですが今伝えておきたいことがあります。どうやら内部に敵が居るようです」
「だろうな。でなければこの状況に説明がつかん」
「…?それはどういうことですか?」
「…後で説明する。話はその後だ」
◇◇◇
3人を安全な場所へ避難させるためエリオットが離へ案内している頃、ルーファスは広間へ戻って来ていた。
先ほど指文字で必ず戻ると伝えていたのだ。
クロードはその返事に応援を呼んだことを伝えていた。
「クロード!無事か!」
「おそいなぁ。たった今、爺さんの首と胴が離れたところだよ」
「…。これは」
「なぁに冷静なふりしてんだよ!力の差も分からずに、僕に掛かってくるからわりぃんだよ!あんたの采配が下手なせいだ!」
「…最早剣を持つまでもないか」
「何、拳でやり合おうっての?僕は別にそれでもいいよ?じゃあやろっか!」
「俺は死人に剣を向ける趣味は無い」
「…は?何言ってんの?」
「…ルーファス様、早々に種を明かさないで下さい」
広間の中央で倒れているはずのクロードが、ルーファスの横にいつの間にか居る。
「な、何でお前が生きてんだよ!今そこで俺が殺してやっただろうが!」
「-
クロードが指を鳴らすと、そばのクロードの遺体が煙となって消えていく。その代わりに、上下真っ二つに別れた自身の身体が鏡に写っていた。
「…は?何だよ、これ…なんでこいつの胴体が分かれてる!?」
「幻影魔法だ。対象に都合のいいものを見せることが出来、術者の練度と比例して相手により現実味の高いものを見せることが出来る」
「さすがクロードだ。俺は信じていたぞ」
「ご期待には沿ってみせましょう。執事です故」
「くそが…何だ、よ…それ…」
◇◇◇
一方その頃、エリオット側。3人を離れへ隔離させ、ルーファスの元へ戻ろうとしていた。
「3人はここに居てくれ。ここは幻影魔法が掛けてあるから余程のことがない限り安全な筈だ」
「皆もここに入れることができたら…」
「それは無理だ。さっきまでは状況も掴めていなかったし、何よりここにあれだけの人数は入りきらない。これは苦肉の策なんだ。納得してほしい」
「…うん。分かっているけれど…」
「なぁ、姉キ。レオン全然泣いたりしないけど平気なのか?」
「あぁ、それなら大丈夫よ。エリオットにも言ったけど、定期的に睡眠魔法掛けてるから」
「よし、エリオット。俺が二人の見張りに居るから、お前は親父さんのとこに急げ」
「あぁ、頼む!」
◇◇◇
魔大陸のとある地の外れにて…
「ちくしょう!8番がやられた!」
「落ち着けよ。元々、あれは遊びみたいなもんじゃないか…計画には関係ない」
「だけどさぁ…せっかくのヴァーミリオンだったのに…」
「まぁ、それは一理ある。ぜひとも研究してみたかった」
「あーあ。新しい玩具も壊れたし、なんか飽きちゃったなぁ。外出てくるよ」
「早めに帰って来いよ。計画はまだ始まったばかりなんだから」
「分かってるって。じゃ、行ってきまーす」
◇◇◇
「父さん!戻りました!」
「エリオット、戻ったか。クロード、何時ものやつをやってくれ」
「かしこまりました。-
「…やはりお前には効かないんだな」
「そういう体質ですから」
「…キース!?どういうことですか、父さん!」
「それを今から説明するところだ」
「ルーファス様。私はシシリーを探してこようと思います。一時この場を離れますが、何卒ご容赦を」
「クロード!…シシリーは、もしかしたら…」
「大丈夫ですよ、エリオット様。分かっていますから」
「クロード…」
「エリオット、今から俺達の現状を説明する…」
数分後、ルーファスは粗方の内容を掻い摘んでエリオットに説明した。
敵は魔族であることは間違いない。だが、人間の敵と催眠下にある操られた敵も居るということ。
そして、キースの偽物や先ほどの謎の男のようにヴァーミリオン家に入り込んでいる者が居ること。
「…取り敢えず今は主犯を見つけなくては。そうですね?父さん」
「あぁ、まずはー」
「そんな必要はない!」
「そうだ、その必要はない。何故ならここに居るからだ」
窓が軋み、割れた音がする。窓枠や周辺の壁までも破壊し、燃え盛る炎を背に、そこには3メートルはあろうかという立派な体格で鎧を纏った魔族と、人間程の身長の、片眼鏡に何故か燕尾服を纏った魔族が立っていた。
◇◇◇
後にヴァーミリオン一族襲撃事件と呼ばれるこの日から10年後…
とある小さな村にその少年は居た。
「ふっ…やぁっ!」
「いいね、真っ直ぐ剣が振れるようになってる。前と比べて大分良くなってるよ、レオン」
「本当ですか!ありがとうございます、先生!」
「あー!ずるいぞ、レオン!もう先生に修業つけてもらってんのかよ!」
「そう言うなら、ノアも早く起きて先生に頼めば良いんだよ!」
「ノア、ほら、そう怒らない。次はノアから始めるから。ね?」
「ちぇー。約束だぞ、先生!」
「うん、約束だ。よし、ノアも来たけど3人はまだだし、少し休憩にしようか」
「じゃあその間に俺に修業つけてくれよ、先生!」
「うん、良いよ。でもその前に水分を取ってからでいいかい?」
「じゃあ準備して待ってる!」
少年達二人が離れた後、先生と呼ばれた青年が井戸水を汲み、水を口に含む。
「やはり…魔素濃度が高いな…。井戸水に含まれる魔力も昔より明らかに濃い。今は人体に影響を及ぼす程では無いが、いずれ数世代後には影響が出るだろう。遂にこの辺境にまで、奴の影響が表れはじめているということか…」
「先生ーまだー?」
「あぁ、今行くよ!」
彼はノア。ケインの息子である。レオンとは従兄弟であるが、同じ家で長年住んでいることもあって、兄弟同然に育っている。
見た目も性格も昔のケインに似ているので、本人をして『俺も昔こうだったのか…』と振り返る始末。
◇◇◇
ノアが軽く修業をつけてもらった後…
「あ!先生だ!おっはよーございまーす!」
「ほら、シャル。レオンとノアは?」
「まぁまぁ、シャルも忘れてる訳じゃないだろ?」
「もちろん!レオン、ノア!おはよー!」
彼女はシャル。フルネームはシャーロットであるが、基本的には短縮形であるシャルと呼ばれることが多い。
レオンやノアとは同い年であり、3人で悪戯をすることも多々あり。レオンも最初は止めるのだが、大体後から乗り気になってしまい、怒られることが殆ど。
「おはよう、シャル。今日は寝坊しなかったのかい?」
「うん!だって久しぶりだもん!」
「おはよ、シャル」
「よっす。やっとかよ〜、遅いって」
「別に遅刻してないからいいじゃん!二人が速く来すぎただけでしょ!」
「先生、おはようございます」
「おはようございます。お久しぶりです、先生」
バーニィはシャーロットの2歳上の兄であり、この5人の中では一番年上だ。本名はバーナードだが、シャルと同じく基本的に短縮形のバーニィと呼ばれている。
彼が一番上ということもあり、この5人のまとめ役は基本的には彼である。
オリビアは3人より1歳年上であり、バーニィとシャルの従姉妹である。基本的にはバーニィと同じくまとめ役だが、たまに男子3人(+暴れ馬1人)が暴走する時は彼女がストッパーとなる。
普段はしっかりしているのにたまに二人と共同でふざけるバーニィには内心あきれることも。
「バーニィ、オリビア、おはよう。3人は久々だね。一週間振りくらいかい?」
「そうですね、丁度一週間振りです」
「修業は久しぶりですが、僕は実践積んでますから。より成長を見せられると思いますよ」
「ふぅん…バーニィ、君またやったんだね?」
「…あっ!」
「僕が許可を出すまで狩りは駄目だと言ったのに」
「あ!いや、そ、それは…その…」
つい口を滑らした部分を突っ込まれ、明らかに動揺するバーニィ。
「バーニィ。今日の稽古は覚悟しておくんだね」
「えぇ…そ、そんなぁ…」
「何で君は真面目なのに、そういうのは馬鹿なの…」
「…うるせぇやい」
「おーい、バーニィ!オリビア!そろそろ始めようよ!」
「おう、レオン!今行くぜ!」
「行くからちょっと待っててー!」
それから更に5年後を舞台として、この物語の幕が上がる。
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