第8話 人外になろう

…。


こちらを叩き潰さんとばかりに迫ってきたミノタウロスさんは自滅した。


その後に出てきたでかい紫のドラゴンは出オチ気味に突然頭を爆裂させて消えていった。…なんかギャグマンガみたいな展開なんだけけど。


そして最後は魔王直々に、ヤバそうな剣で私を切りつけてきたけど、その剣は私を透過した。


もう一度言おう、透過した…訳が分からないよ…。


…まてよ、透過…した?確か何かで聞いたことがある現象だ…。


そうだ、確か…


「…あ…トンネル…効果?」


そうボソッと呟くと、魔王が固まった、え、どしたん


「ハッ!ハッ!ハッ!…」


そして、なんか笑い出した…え、まじでどしたん、話聞こうか?














その後しばらく笑っていた魔王はそれを収めると


「リア、お前は異常だな」


第一声がそれかい!しかも異常って…あと、なんか名前呼びになってるし…。


「異常?」


異常って…確かに幸運値は異常に高いけど…。


「ああ、お前の幸運は因果律に…「コーザリティ」にすら干渉できる力を持っている可能性がある」


「因果律って…」


なんかいきなりすごい話になってきたんだけど、因果律に干渉って…ん、コーザリティ?


たしか因果律とか因果性の英語だったっけ。


なんかこの世界に来てよく聞いた単語のような…


「フ…お前の名前は?」


「え、名前?」


何を藪から棒に…私の名前?今はリア・コーザリティーだけど…コーザリティー?


家名のコーザリティーと因果律の英語であるコーザリティ。


私の能力?と家名が…


「…偶然?」


「偶然ではないな…なんせ俺はこの家の秘密を知っている」


ひ、秘密?ただの歴史と爵位だけの家じゃないの?


「…因みにどんな?」


「自分で調べろ」


なんでさ!めちゃ重要じゃん!


「…そんなことより、俄然、お前は強くならなければならない理由ができた」


そんなことって…てっ、強く


「…なんで?この能力で十分じゃない?」


魔王ですら私を倒せないのだ…無敵じゃない?


「お前は敵対してきたやつを問答無用で自滅させる全自動敵対者殺戮マシンになりたいのか?」


「うっ…でも魔王は無事だったじゃん…」


「それは俺だったからだ…おそらく俺以外だと神々ですら、お前を攻撃した瞬間、死ぬぞ?」


うーん、それはちょっと不味い…明らか過剰防衛かも…。


「でもどうすれば…」


「言ったろう、強くなれと…強くなれば必然、力の制御、つまり加減を覚えることができる」


つまり、全自動敵対者殺戮マシンにならないためには強くなるしかないと…


「…でもどうやって?」


「ふむ…魔王式指数関数的鍛錬法が使えない以上、地道に鍛えるしかなかろう」


なにその名前…まあ死闘を繰り返すよかましね。でも


「…時間がかかるんじゃない?」


わりと喫緊の問題だと思うのだけれど、私の能力。


「問題ない、勇者には莫大な成長補正がかかる、さらにこのこの空間ではさらに成長補正がはいる」


「なにそのチート」


「…お前の幸運の結果やもしれんな」


ええ…能力?もだけど別にそんな方面で幸運を発揮して欲しくないのだが…。


「では、さっそく始めよう…ほれ」


魔王はそういうや否や、どこからともなく、大きな剣、…あの形、いわゆるツバイフェンダーってやつかな…を取り出すと、こちらに投げてよこす。


それを普通に受け取る…あれ、見た目に反して軽いね。


「…鍛錬用の剣だ、一応、数十キログラムはあるがな」


「うぇ…!?でも…」


「勇者補正だな」


「勇者補正って言葉、便利ね」


「全くだ」


でだ


「これで何するの」


まさか素振りとか?


「とりあえず素振りでもしてろ」


「いや、ほんとに素振り」


莫大な補正の割に鍛錬内容が雑すぎる!


「仕方がないだろう、例の鍛錬方法が使えない以上仕方がないだろう」


…まあ、大変なのよりはいいか。


「この空間では時間の流れが違う、現実での1時間はここでの100時間に相当する」


…え


「というわけで、取り敢えず、百時間、約四日ほど休まず素振りしとけ」


やっぱ結局死ぬのでは!?疲労で!


こ、幸運よ、こここそ発動するところよ!


「俺は善意で指示しているからな、ゆえにお前の制御できていない幸運では逃れられんよ」


やっぱ悪運では!?
















体感時間で四日後、闘技場のような空間が崩れ去り、元の蔵書庫に戻る。


―バタンッ!


と同時に剣を振り上げた姿勢で漫画のようにそのまま倒れこむ私。


…終わった…の…かな…。


「まさか8歳の子どもが本当に飲まず食わず休まずで100時間素振りをつづけられるのとはな…勇者補正というのは、すさまじいものだな」


「…この…鬼畜魔王…め…」


まさか…本当に…飲まず食わず休まず100時間素振りさせるとは…。


「あとこれで、お前はもう人間ではないことが確認できた」


…え?


「いくら補正が在ろうと、人間である限り、4日間ぶっ続けで活動できるわけなかろう…これで俺の勇者人外仮説が立証されたな」


スローライフを送りたかったのに…い、いつの間にか人ではなくなっていた!?


確かに!?しかも食欲や尿意すら感じなかった…やばい本格的に人の範疇じゃない!


「よかったな、これでお前が人間という下等生物から脱却したことが証明されたぞ」


いや、下等生物って…私は普通に人間としてスローライフを送りたかった!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る