第7話 同じ領域に至ろう

「よう」


蔵書庫で本を読んでいたら魔王が来た。


…一体どうやって侵入したんだか。


「…遅い」


「遅いって…予定通りだが?」


「いや、私、やることなくて…」


「貴族の娘なのにか」


「…そうよ」


ほんとに放任主義だからね、この家。


「昨日できたお友達はどうした?」


「なぜ知ってるし!」


「魔王だからな」


くっ…はぁ、もういいや.


そういえば昨日、話し合い(脅迫)の結果友達ができたんだった。


詰め所の件ですっかり頭から飛んでいた。


…そういえばどうやってあの子たちに会えばいいのだろうか、昨日の掘っ立て小屋に行けば会えるかな?


「よし、さっそく鍛錬を始めるぞ」


「唐突ね…でも場所がないんじゃないの?」


庭でするわけにはいかないだろう…昨日の件で警備も厳しくなっているだろうし。


そういえばさっき外から銃声みたいなのが聞こえたような…気のせいかな?


「問題ない、ここでする」


「へ?さすがにここでは無理じゃ…」


私が魔王の言葉を否定しようとして


―トンッ


魔王が足で軽く床を鳴らす。


その瞬間…あたりの景色が空間ごと風化するように崩れていく。


「え、なっ!」


驚いて椅子から立ち上がると、私が座っていた椅子も崩れていく。


そしていつの間にか本が並ぶ蔵書庫は、コロッセオのような闘技場へと変貌していた。


「なにがっ?」


ぞ、蔵書庫が闘技場に!?


「案ずるな、俺の魔法だ」


魔法?


「ああ、仮想空間を構築する魔法だ、現実世界に一切の影響はない」


「す、すごい」


魔法ってこんなことまでできるの!?


「現実世界に影響はない…つまりここで死亡しても復活するわけだ」


「へぇーそれはすごい…て、え?」


ちょっと待って。


「フフフ…人は逆行の時こそ成長する!つまり強敵と死闘を繰り広げ、時に死を経験することで指数関数的に強くなるのだ!」


「その理屈はおかしいよ!絶対!」


え、ちょ、やばい、児童虐待とかそういうレベルじゃない、この魔王、本当に私を何度も殺す気だ!


「召喚、ミノタウロス!」


魔王がそう唱えると魔法陣のようなものが出現し…


「グオオオオオッ!」


そこから巨大な斧を持った牛頭の魔人が現れる。


「さあ、抗ってみろ!リア・コーザリティー…いや勇者よ!」


「いやあああああああっ!」


こいつ、鬼畜すぎるうううううう。








牛頭の魔人、ミノタウロスが斧を振り上げてリア・コーザリティーに迫る。


俺は仁王立ちしたままそれを見守る。


…ふむ、これはそのまま叩き潰されるな。


幼い少女が叩き潰されるのはいくら俺でも少し罪悪感を抱くが仕方あるまい。


これも奴、リアのためだ。貴重な同郷のものだ、現実世界で簡単に死んでほしくはない。


…ゆえにリアよ、経験しろ、そしてそれを糧に強くなれ!


ミノタウロスの斧が振り下ろされリアに迫る、リアはなにも出来ず呆然と突っ立ている。


そして…




―ミノタウロスの持つ斧が奴に手からすっぽ抜けた。




「あ?」


そしてその斧は空中で回転し、振りぬいて硬直した姿勢のミノタウロスに落下し…


ミノタウロスの頭部に突き刺ささる。


ミノタウロスはそのまま絶命し、光の粒子となって消えていく。


なん…だと?


これは…まさか!?


「へっ?」


リアは突っ立たまま呆けている。


…ああ、彼女の幸運値は異常な値だったな…だが…ならば


「召喚、カイザーワイバーン「レノン」」


俺はとっておきの配下、カイザーワイバーン「レノン」を召喚した。


召喚陣から巨大な紫の体躯を持つワイバーンが現れる。


そしてそいつは俺に問いかけてくる。


―いかがなさいますか、魔王様―


―あの小娘を焼き払え、レノン―


―御意に―


レノンがブレスを吐くため口腔にエネルギーをため…




―レノンの頭部がはじけ飛ぶ。


レノンはそのまま光の粒子となって消えていく




暴発…だと?


…まさか、リアの幸運は俺の配下で5本の指に入るカイザーワイバーン「レノン」ですら倒しえるのか!?


「あ、あの」


リアが状況を理解できずに困惑した声を上げる。


…ふふふ、ふはははは!?


面白い!彼女は、リアは!勇者なんてチンケなぁもんじゃない、この俺を、神々すら滅ぼせない俺を!滅ぼす可能性を秘めている!


ならばっ!


「いでよ無滅剣アペイロン!」


俺の愛剣、無滅剣アぺイロン、神々すら、無すら滅する、超兵器!


俺は空中に出現したアぺイロンの柄を掴み、そのままリアに肉薄し…


―ただ、全力で切り付ける!


そして…




―スカッ




アぺイロンはそのままリアの体を通り抜ける。


「は?」


何が…確かに切ったはずだ!


「…あ…トンネル…効果?」


リアが何事か呟く…トンネル…効果…だと。


トンネル効果…


たしか…ある確率で粒子がポテンシャルエネルギーの壁を突破する、巨視的には物資が物質を透過する、と…まさか!?


ふざけるな!そ、そんなの、確率なんてないに等しい、確率…それを…捻じ曲げた?


「ハッ!ハッ!ハッ!…」


「あのあの、魔王さん?」


ああ、こいつは、彼女は、リアは…




既に俺と同じ域にいる!

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