ペット療法

 福祉施設ではよく、アニマルセラピーという動物による療法が行われている。


 そして中には、爺ちゃんが入所した特養みたいに、ペットと暮らせる施設もある。


          ※


 「ペット療法か。知ってるよ、この施設でもやってるらしいね」


 「はい。もし良ければ、山田さんのケアプランにも組み込ませてもらおうかと思って」


 「う〜ん、そんなに動物は好きでもないんだがなあ」


 「あ、大丈夫です。そういうのは関係ないんで。どうです? 試しに一度」


 と、介護士の島岡さんに連れられ、一階の交流エリアに行くと、一台の踏台が置いてあった。


 「どうぞ、この踏台がペットです」


 「意味がわからん」


 「アナムネの時に仰ってましたね。お人好しのため、昔から他人の踏台になってきた。でも、そういった経験のお陰で成長もしたと」


 「まだよくわからん……あ、もしかして、それなら踏台その物も成長するとでも……?」


 「はい。育成をしながら山田さん自身のリハビリにもなる、正に"ペット療法”です」




 その日から、私がその踏台で昇降運動をする度に、次第に段の数が増えていき、更には両側に手摺りまで生えてきた。


 「島岡さん、これは?」


 「順調に成長してますね。人間でいうなら、もう大人ですよ」


 「なるほど、私は"大人の階段”を昇っているわけか」


 だが、暫くすると今度は段が減っていき、全体的に形状も変化していった。


 「島岡さん、今度は一体?」


 「人と同じですね。角が取れていき、やがて体も……」


 「そうか、そういう事か……」 


 「それと、ペットは飼い主に似るとも言いますしね」


          ※


 久し振りに面会に行くと、爺ちゃんの体は、前よりもまた小さくなったように見えた。


 俺は爺ちゃんを隣の公園へ散歩に誘い、車椅子を押した。そして交流エリアから外に出ようとした時だった。


 「やあ、今日もいい天気だね」


 と、爺ちゃんが緩やかな段差スロープに声を掛けた。




(了)


初稿∶カクヨム∶2021/9/30




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