純粋すぎる男は嫌われるか? 沼れるか!?

夕日ゆうや

第1話 悠斗と亜海

「いい? 私が帰ってくるまで大人しくしているのよ?」

 亜海あみがそう言うと僕は頷いて帰りを待つ。

 じっとしていると亜海が帰ってくる。

「一歩も動いていないじゃない……」

 呆れたような声を上げる亜海。

「ん。待っていた。亜海と一緒にいたい」

 ただコンビニに行くだけでもこんな状態だ。純粋すぎる。

「分かった。今度から私と一緒に行こうね」

 こんな性格だから仕事もうまく就けない。

「はぁ。でも疲れたわ」

「お疲れ様。もしかしてまた真理子まりこさん?」

「そうなの。彼女がまた意地悪してくるの。上司と付き合っているからって大きな顔をしてくるのよ」

 力なく笑う亜海。

「でも僕は亜海ちゃんが頑張っているのを知っているよ。だから安心して」

「そう。なら、私とパートナーにならない?」

 今度こそ、結婚できると思っていた。でも、悠斗ゆうとは。

「うーん。僕よりもいい人いるんじゃないかな?」

 ははは、と乾いた笑いを浮かべる僕。

 本当言うと、自信がない。

 結婚して幸せな家庭を築ける自信が。

 だって僕の両親は幼い頃に離婚している。それを見ているから、結婚に対しての悪いイメージがついて離れない。

「僕の両親みたいになったら嫌だから……」

「もう、悠斗はそればかり! もうやめてよ! 悠斗のバカ!」

 そう言って玄関から勢いよくでる亜海。

 僕は慌ててその後を追う。

「ま、待って!」

 亜海が出て行った後を追う。

 周りを見渡すと、すぐに亜海の後ろ姿が見えた。

 僕だって男だ。女の子の足に負けるはずもない。

 追い付くと僕は亜海の手をつかむ。

「いかないで」

「何よ。悠斗は私の気持ちをなにも分かっていない」

「そうかもしれない。でも、僕は理解したい。だから、話して?」

「私、絶対幸せな家族を築いていける、そう思うのよ」

 亜海はぼそぼそと言葉を言い始める。

「だって、悠斗は優しいし、可愛いし……」

「可愛いって、女の子の可愛いは信じられないんだよね……」

「そうかもね。でもそう言う意味じゃないのよ」

「そういう意味?」

 僕はよく分からないと言う気持ちで訊ねてみる。

「ゆるキャラの可愛いと、子どもの可愛いは違うでしょ?」

「あー。でも、じゃあ僕はどっち?」

 ふるふると首を横に振る亜海。

「どっちでもない。パートナーとして可愛いと思うの。それに見た目、格好いいし」

「嬉しいことを言ってくれるね。でも僕は仕事もできないし……」

「そっか。悠斗は自分に自信がないんだ」

 うつむき、少し考えてみる。

「たぶん、怖いんだと思う。変わっていくのが」

「そっか」

「寒いね。身体も冷えた。家に帰って暖まろう、ね?」

「うん」

 小さく頷くと亜海はしげしげと家に戻ろうと歩き出す。

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