第三節:それぞれの心中
第16話 遊園地イベントでシナリオ修正を!
遊園地デートイベント――それは、茜ルートの中でも大きく好感度を上げることの出来るイベントの一つだ。そして、同じようなイベントが詩葉ルートにも存在する。GGでこれといって言及されたわけではないが、恐らく同じ遊園地。
(そして今、ここには二人のヒロインが揃っているっ!!)
奏斗の目の前で遊園地の入場ゲートの列に並んでいる詩葉と茜が、何やら楽しそうに談笑に耽っている。
「――だったの。ほんと、凄く美味しかったんだから!」
「えへへ、茜ちゃんって甘いもの好きだったんだぁ~。ちょっと意外だったかも」
「そ、そう? 変かしら……?」
「ううん。そんな茜ちゃんも可愛いよっ!」
「か、かわっ……!?」
詩葉はプリーツの入ったロングスカートに、上はブラウス。そして薄手のカーディガンを羽織った格好。元々可愛らしい雰囲気を持つ詩葉の魅力が更に引き立てられている。対して茜は、七分丈の黒スキニーに、大きめの白いシャツ。そして、デニムのアウターを肩に掛けており、普段の凛とした印象にかっこよさも加えるようなコーデ。
「何と言うか……眼福だね」
「心の底から同意だ」
そんな二人の美少女ヒロインの後ろで、駿が詩葉と茜に聞こえないようにこそっと呟いた言葉に、奏斗は大きく頷いて答える。そして同時に、この遊園地デートイベントという重要な日に必要なメンツがしっかり揃った奇跡――というほどでもないが、奏斗は心の中でグッと拳を握っておく。
今日この日に、奏斗はGGのシナリオから大きくズレてしまったこの状況をあるべき物語に戻そうと決めていた。奏斗は主人公である駿に代わって茜ルートを進め、駿には詩葉ルートに入ってもらう。二人のヒロインのルートの中に遊園地デートイベントがあることを利用した作戦だ。
(男女比を合わせるために――なんて若干無理があるような理由だったが、何とかこの場に駿を来させることが出来た……あとは、どうやって詩葉と駿を二人きりにして詩葉ルートを踏ませるかだな……)
ここでズレたシナリオを元に戻すぞ、と改めて決意しながら、奏斗は入場ゲートの向こう側に見える夢の国の景色へと視線を向けた――――
◇◆◇
入場ゲートを潜ってから数時間が経過していた――――
高校生にもなって恥ずかしい気がしながらも、詩葉がノリノリだったため皆でメリーゴーランドに乗ったり、茜が思い切り回すコーヒーカップの遠心力で危うく振り落とされそうになったり……他にもジェットコースターやお化け屋敷といったアトラクションを回った。途中茜の奢りでチュロスを食べたりもした。
そして――――
(よしっ、来た来た来たぁあああ!! 詩葉と駿が二人きりだぁあああ~!!)
奏斗が少しトイレに行って席を外している間に、詩葉と駿がベンチに腰を下ろして何か話している様子だった。恐らく――いや、間違いなくトイレから奏斗が戻ってくるのを待っているのだろうが、奏斗は折角詩葉と駿が二人きりの状況になったところを邪魔したくないので、人込みに紛れて二人が座るベンチとは反対の方向へ足を進めようとするのだが、そこに…………
「ちょっと、どこ行くのよ」
「ぬわっ!? な、何だ茜か……」
そこまで驚かなくて良いじゃない、と茜が呆れたように半目を作り頬を膨らませるので、奏斗は「悪い悪い」と軽く謝っておく。
「ってか、何で茜がここに?」
「いや、私もちょっとお手洗いに……って、それより何で二人が待ってる場所と違うところに行こうとしてるのよ」
「え? い、いやぁ……それはですねぇ……」
じぃ~っと茜が怪訝な視線を奏斗に向け、奏斗は事情を説明できるはずもなく目を泳がせる。少しの沈黙を置き、茜が「もしかして……」と少し心配するような表情を浮かべて言った。
「疲れちゃった?」
「え……あ、あぁ、そうなんだよ。ちょっと人込みに慣れなくてな」
あはは、と奏斗は曖昧に笑って後ろ首を撫でる。一応不審がられていないことがわかって安心した。
「そ、そうなんだ……」
しかし、傾き始めた日のせいか、茜が微妙に顔を赤くしている。そして、何か言いたそうに口を閉じたり開いたりしながらしばらくモジモジしてから、ゆっくりと持ち上げられた茜の手が、奏斗の服の裾を摘まむ。
「茜?」
「じ、実は私もちょっと静かなところに行きたくてさ。それに話したいこともあるし……ちょっと、抜け出さない?」
身に纏う凛としていてカッコいい服装とは裏腹に、どこか乙女で可愛らしい上目をジッと向けてくる茜に、奏斗がどこに行くんだと尋ねるより先に、茜が「こっち」と奏斗を引っ張って歩き始めた。
長期休暇がある時期と比べると客は少ない。それでも多少の人込みが点在しており、人の流れを横目に、奏斗は茜に引っ張られるまま進んでいく。
そして、やって来たのは…………
「――あんまり待たずに乗れたな、観覧車」
「ええ。流石に詩葉ちゃん達を長い間待たせておくのは申し訳ないから、助かったわ」
GGの茜ルート。その遊園地デートイベントのクライマックスで、茜と主人公は二人で観覧車に乗る。そして今その舞台、シーンに、奏斗と茜はいた。
(けどまぁ、これで詩葉と駿が二人きりでいられる時間を確保できたな。いきなり好意を作れ……とは言わないから、せめて少しでも関係が進展してくれっ!)
ゴンドラの窓から窺える、 緩慢な速度でじれったく上昇していく景色へ視線を向けてそう祈る奏斗。すると、その正面に腰を下ろしていた茜がクスッと笑みを溢した。
「ふふっ、どうしたのそんな真剣な表情浮かべて。もしかして高いところ苦手とか?」
「えっ。あぁ、いや、別にそういうワケじゃないんだけどな。あはは」
「そう? なら、もしかして……ちょっと緊張してたり、する……?」
「え?」
どういう意味だろうかと奏斗が目を丸くすると、茜が右手で自身の左二の腕辺りを触りながら、少し頬を赤らめて呟く。
「だ、だってほら……夕方に観覧車のゴンドラの中で二人きりって、まるで――」
――恋人みたいじゃない? と、そう台詞が続くと奏斗は思っていた。GGのシナリオにそう書かれているからだ。しかし、なぜか茜の口から続きの言葉が紡がれることはなく、茜は「ううん、何でもない」とどこか自嘲気味に口許を歪めた。
「……そんなこと言う資格、私にはないもの」
「茜……?」
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