第3話 ルカラはすごい!:ユイシャ視点
わたしはルカラと違って貴族の子じゃない。
ルカラと知り合ったのはたまたま外で遊んでいた時に、ルカラが話しかけてくれたからだ。
「こっそり抜け出してきたんだ」
「いいの? そんなことして」
「いいのいいの。僕、好奇心が強いんだ」
そんな風に自分で言っていたルカラはわたしが平民だからと見下してくることはなかった。貴族の子どもなのにわたしのことを差別しないで遊んでくれた。
わたしが平民の子だと知っても関係ないと言ってどこへでも連れていってくれた。
けれどある日を境にルカラはわたしを見下し叩いてバカにするようになった。
それは多分、この世界にある選別のせいだと思う。
わたしたちは七歳の誕生日に神様から選別され才能が与えられる。
その内容は神父様から伝えられる。
「わたしとルカラは同じ月に誕生日だから次会ったらわかるね。
そう言って別れた数日後。
「ルカラ、ルカラ!」
わたしは早くルカラに自分の才能を伝えたくてルカラを見つけてから全力で走っていた。
「わたしね。お母さんやお父さんと一緒で獣使いの才能があるって! ずっと牛さんとか豚さんのお世話をしてたから嬉しい!」
「ほう」
「それと、よくわかんないんだけど、伝達者? って言う人に気持ちを伝えやすい才能があるみたい」
「ふーん。他は?」
「えーと。それだけ。でも、二つ才能があるってすごいんだって」
「あっそ」
「え?」
明らかにその日のルカラはいつもと違った。
わたしの言葉に対して明らかに淡白で感情を感じられなかった。
「る、ルカラは?」
「獣使い、戦士、剣士、剣闘士、剣聖、魔法使い、魔術師、錬金術師、賢者。まあ、似たようなのもあるが、数え切れないほどの才能があるってさ」
「すごい!」
貴族はこれまでも才能や、その才能を子どもに引き継ぎやすい才能の者同士で子どもを残してきたらしい。
だから、平民と違って数も種類も桁が違うらしいのだ。
わたしの近くにいる人だと多くて五つだったことを考えると今言っただけでもルカラはものすごく多い。
「お前、くだらないな」
「え……」
それからルカラの暴力が始まった。
ショックだった。
わたしたちの前を通るだけで顔をしかめるような貴族しか知らなかったわたしは、そうじゃない人もいるんだと希望を持っていた。それだけに辛かった。
「そんなボロを着て恥ずかしくないのか」
「俺に見合う才能じゃなかったな」
「使えない。やはり平民はその程度」
「今からお前は俺が飼ってやる。今までのような口の聞き方をすれば理解できるまで叩いてやる」
「逃げられると思うなよ」
怖かった。
でも、逃げ出せなかった。
ルカラに殴られて怪我しても、わたしはお父さんにもお母さんにも歩いてて怪我をしたと言うことにした。
ルカラにどんなことをされても話してはいけないと決めていた。
でも、今思えば、才能が多すぎてきっとルカラも振り回されていたんだと思う。
「もしかして、ユイシャか?」
とか、
「ちょっとごめん」
なんて、初めて会った時みたいな話し方をした時は耳を疑った。それに、すぐに話し方は戻ってしまった。
それでも、聞き間違えなんかじゃないとすぐにわかった。
「まずはユイシャの怪我を治すことからだ」
ルカラがわたしを心配してくれたのだ。
昔はそれが普通だった。
今は変わってしまった。
でも、身分の差があるから仕方ないと思っていた。それなのに、またルカラはわたしを心配してくれた。
しかもルカラはただのきのみでわたしの怪我を治してくれた。
もちろん。ここまではルカラにいいように使われているだけかもしれない。
傷つけられ、治してもらっただけ。味も時期じゃないはずなのにとってもおいしかった。
とはいえ、いくら自分できのみを食べた時よりも目に見えて怪我の治りがよかったとしても、ただわたしを離さないためかもしれない。でも。
「昔のように接してくれ」
そんな頼みを聞いて、ルカラは元に戻った。いや、才能を乗り越えて成長したんだと確信した。
神様からもらった才能でおかしくなってたなら、きっとこれまでのルカラも出てこないはず。
わたしはルカラから離れず一緒にいてよかったと思った。
実際にルカラって呼んでも怒らなかった。
今日だって、わたしをいじめていた男の子たちを追い払ってくれた。
「ユイシャ。俺にも殴らせろよ」
「貴族のやつに殴らせてんだろ? いいじゃねーかよ!」
「や、やだ。やめて」
「おい。やめろ!」
ルカラは男の子たちを突き飛ばし、腕を掴まれていたわたしを解放してくれた。
「ユイシャはそんなじゃない。俺が悪いんだ」
「へっ。気持ちわりー。今まで散々殴っててよく言うぜ」
「ならお前が殴られるか?」
「やるか?」
そう言うと一瞬で男の子たちは縮み上がった。
さっきまでのニヤニヤした笑いは無くなっていた。
「チッ。ユイシャって貴族に取り入ろうとしてるんだぜ」
「切ったねー」
「そこまでして気に入られたいかよ」
「やめろ」
「ルカラ。大丈夫」
「大丈夫なもんか。ユイシャへの悪口は俺が許さないからな! 男なら正々堂々と戦わないか!」
「チッ。カッコつけやがって。行こうぜ」
男の子たちはそうして逃げるように走っていった。
「大丈夫か?」
「うん。今日はやられてないから。ありがとうルカラ」
「当たり前のことをしたまでだ。間に合わなくてごめんな」
「ううん。大丈夫。でも、ちょっといい?」
「ん?」
わたしがギュッとルカラに抱きつくと、ルカラは優しく頭を撫でてくれた。
くすぐったくてあったかい。
わたしはこれからもルカラについていくことを決めた。
ルカラが心を入れ替えたように、わたしもルカラを前より信じる。
わたしが力になれる限り。
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