夢と僕と光と悪魔

夜に書くアルファベット

第1話 夢に存在する果てしない闇

「俺は信じていた人から裏切られた。

心の傷は深く、力強く、重たい。

今夜、神は罪人に裁きを下す。

その裁きもまた深く、力強く、罪深い。」


そこまで書くと、手を止めそっとペンを置いた。

その先を書くには僕の身体がもたないからだ。

僕の目も、閉じては開けて閉じては開けるという行為を何回も繰り返しているためか、さすがに疲れてきた。

僕はふうと一息つくと、ゆりかごのようなバランスの椅子に深く座った。ギシ、と音がすると同時に突然の睡魔に襲われる。抗う理由などなくそっと目を閉じ、俺はもうひとつ息を吐いた。



僕の見る夢はいつも同じだ。

暗いホテルの廊下のような場所で、背の低い少年が僕をじっと見つめている。僕もまた、背の低い少年を見つめている。

そして瞬き1つすると決まって場面は変わる。

正面にいた少年はいなくなり、暗い路地裏のような場所に移動する。


その路地には、悪魔のような化け物がいて、僕に襲いかかってくる。ここまで"いつもの事"なのだ。

その化け物に僕は手に持っている包丁で対抗する。心もとない刃を化け物に精一杯無我夢中で突き刺す。ただ、生きたいという欲望のままに。

すると、化け物は大きな悲鳴をあげて空へと帰っていく。そして粉々になって化け物の破片は散らばっていく。

そこまで見ると目が覚める。


悪は大きくも小さくもそこら辺にちらばっていて、生涯消えることはない。にも関わらず、光を蝕み悪でいっぱいになる。


僕は小説家だ。いつも見る夢を自分では抱えきれなくなった僕は、夢を言語化して小説に写した。文字にすると不思議と僕は無敵で、夢にさえ勝ってしまうこの優越感がたまらなく好きで、小説を書いている。


そんな僕が珍しいのか、周りは僕を評価する。頭に浮かんだアルファベットを文字にするだけで僕は楽になれるし、世間は僕の小説をなぞることを楽しむ。WinWinとはこのこと。

僕の頭の中は光の割合が少なく闇が多い。そんな僕だから闇のような夢を見るのか?はたまた、闇のような夢を見ているから僕は光が少ないのか?どちらが先手かで僕の人間性が変わってきそうだ。


やはり、座ったまま眠ることは出来ないな。

睡魔は急に現れて急に居なくなる。目が覚めた僕は、軽食を求めてキッチンに向かう。

冷蔵庫にはハムとレタス。

少し迷いハムに手を伸ばした時、家のチャイムが鳴った。

こんな時間に訪問する客はろくでもない人間だな。

少し憤りを感じながらドアを開けると、貴族のような帽子をかぶり黒いコートを着た男が立っていた。

眼光の鋭さから、正義感と闇に侵食されることの無い光を感じ、僕は少し身構えた。


「ルイス・ジェンキンズさんですね?」


男は言った。突然現れた男に突然名前を言われ僕は咄嗟に「は、はい」と返事をした。

ああ、声が裏返ってしまった。


「FBIのレオ・アップルビーです。少しお伺いしたいことがあります。中へ入っても?」


男は早口で全て言い切り、僕を押しのけるようにして部屋に入ってきた。否、押しのけられてはいないが、その存在に圧倒され僕が押しのけられたかのように感じた。

僕はしばらく一連の流れをぼーっと見つめていたが、いくら非常識な客人とはいえ、客人は客人。客人にお茶のひとつも出さないわけにはいかないと思い、急いでお茶を沸かし、コップに注ぎ、そっと渡した。その間、レオは僕の部屋を吟味しているようだった。



レオ「今、この近辺で起きている連続殺人事件について、情報の提供への協力をお願いしに来ました。」

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