友達をつくらなくていい学校

 「入学おめでとう、友達100人できるかな?と思っている人もいるかもしれませんが、ここは一人でも大丈夫なところです」


 2年前に開校した高校の入学式が行われている。

 今日は3期目の入学式。

 校長先生のようだが、とても若く見える。


 「勉強は好きな科目だけを選んでもらいます。

 嫌いなこと、苦手なことはしなくてもいいんです。

 得意な勉強だけしていいんです。

 修学旅行は一人で行きたいところへいってもらいます。旅の予算は全員同じ額なので、やりくりは自分で考えてください。もちろん予約のたぐい一切は自分でやっていいんです。

 友達をつくってはいけないわけじゃなんだよ。

 でも活動の基本は個人単位で計画していますから、特定のグループができることはありません。

 クラスがないので、先生に相談したいことがあれば僕をはじめ全員の先生に声をかけるかダイレクトメッセージでも送ってください。

 部活は例外的に集まりができますが、上級生と君たちは平等な関係です。

 個人の尊厳が第一の学校ですから。

 顧問の先生は連絡係ですので、指導は毎年外部から契約で来てもらっています。

 学校として競技の成績は応援します。

 だからといって重視はしません。

 好きなことを自分の目標に向かって研鑽すればいいことですから。

 もし指導者の資質に問題があれば先生方に伝えてください。

 すみやかに辞めてもらいますので。

 厳しく指導して欲しいと思うのなら個人的にお願いしてください。

 その結果で怪我をしたとしても自己責任となるので学校は責任をとりません。

 そう、全て自分の判断だけが重要なのです。

 迷っているとか判断材料が足りないとかなら先生方、もしくは外部の専門へのアクセスをしてでも支えます。

 みなさんはこれから3年間で、不確かな情報に左右されず、真実を元に、自分にとって最善な判断力を身に着けてもらいます。

 そして卒業後は、たとえ間違った社会の流れが起こったとしても避けたり抗ったりして、後悔の少ない人生を生きていってください」


 校長先生と思って聞いてたが、あとでわかったことだが最年少で教育大臣になった人だった。

 ここような前代未聞の学校を次々と開校させて、伝統的な教育を打破するような実験をしている。

 目的は最優秀な個性を持つ人間を社会に送り出すこと。

 才能とは好きな事得意な事。

 苦手なことをいくら頑張って平均にしたとしても役に立たないばかりか、才能を伸ばす時間を無駄にしてしまう危惧がある。

 数学が得意ならば毎日毎時間数学の授業をとってもいい。

 絵が得意なら、運動が得意ならでもいい。

 だから先生方をはじめ、各分野の専門家と常に連絡をとりやすくしてある。

 そんなに優秀な先生を確保できるのかという疑念をもたれたが、知識のネットワークは世界に広がっている。

 時間差はあるが24時間以内に解決できるシステムを各学校に設けている。

 学校は受験勉強のためのテクニックを得る場所ではない。

 それは民間の塾のほうが優秀だ。

 教育は個人の才能を見つけ認めて育てる場所。

 だれでも隠れた才能はある。

 それが些細な役に立たないと思われがちなことでも、役に立つように育てあげる。

 伝統的な教育を受けてきた大人達にしてみれば厄介な人間を生み出すように見えるだろう。

 子供が少ない世の中になっている、これからも増える要因が無い。

 しかし大人たちはいずれいなくなる。

 自分の才能に自信を持ち、自分の為もしくは他人の為になるのならば苦労を苦労と思わない人生を送れるはず。

 そして自分の不得意なことを他人ができることでお互いを尊重しあう社会ができる。

 それでも格差はできるだろうし障碍を持つ人も出る。

 持てる者は持たざる者へを支えればどうにかなるのではないだろうか。

 

 校長先生(教育大臣)は最後にこう言った。


 「同窓会でみんなに会って話をしてみたい、それが僕の願いです」



 

 

 

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