死亡原因を全て公表することにしたら
「あーもういい加減にしてくれ」
知事である大海(おおうみ)は聞こえるような声で独り言をこぼした。
知事室には誰もいないので聞かれることはない。
「毎日毎日感染者数が増加した、先週同日比はどうとか。は!!?」
大海はサッカーボールを蹴とばすがごとく足を振り上げた。
「死者は何人とか重症者はどうとか」
窓際に近寄り外を眺めるように両手を広げ枠を掴む。
「だいたい人間死ぬのは当たり前だろう、感染対策をいくらしようが他の病気や事件事故で亡くなる人のほうが多くないんか?」
室内を振り返り笑みを浮かべた。
「そうだ、うちの県だけは全ての死亡原因を公表してしまおう。そうすれば感染症での死亡など些細なことだと納得できるはず。
そうすれば県民は感染対策の意味や効果の現実味を理解できるはずだ」
大海はすぐに関係機関の担当を集めた。
警察や保健所や病院関係や福祉施設、各市町村に対しても徹底させた。
しかし施行後に甚大な災害が起こりそれどころじゃなくなってしまった。
感染対策どころか被害者の総計が過去の感染者数を上回ってしまい、結局のところ死因の公表はなし崩し的に無くなってしまった。
毎日少しずつ亡くなるかまとめて亡くなるか。
早いか遅いか、若くても老人でも、元気だろうとも病んでいても、幸福でも不幸でも。
我が国でも外国でも、ましてや動物でも。
命は生まれては消えるの繰り返しに過ぎないということを。
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