休眠テロ組織の活動
僕は非合法組織のメンバーだ。
わかりやすく言えばテロ組織と言われる。
もっともそんな活動は一切していないが。
詳しく説明すれば今後そのようなことをする可能性を前提に活動している。
今はその準備行動がメインで、現実にそうなって欲しくないと希望するが備えておくのは重要だ。
組織の目的は我が国を戦争から守ること。
戦争は攻めるか守るかだが、僕らは攻めるのを阻止するのが目的。
つまり国のトップが他国に戦争を仕掛ける、もしくは開戦直後に国を破綻させる。
そのためにはどうするか。
政権中枢の人間を瞬時に抹殺すること以外にない。
しかも同時にどんな場所に居たとしても。
時間的な誤差は10分以内が目標。
だから政権が交代するたびに対応している。
基本的には爆破工作だが、人員を使った暗殺も状況によっては可能にしている。
住居や移動する車は爆破だが、公共交通機関や徒歩移動は暗殺事案になる。
できれば全てを爆破で処理したいので作戦時間は慎重に判断しなければならない。
そのためのシュミレーションは定期的にやっている。
爆破は対象個人が居る場所を局所的に行う。
周囲に出来るだけ被害を出さずにするためだ。
例えば就寝中のベッドとか後部座席の左右どちらかとか、部屋の椅子のどれとか。
トイレの中は毒ガスを使用することになるだろう。
歴史は証明している。
先制攻撃を仕掛けた国は最終的に負けて、最悪だと焦土になり国民の多くが亡くなるか、終戦後も長い年月で疲弊する。
始めたら早めに終わらせることが一番。
そのためには国家機能を一定期間停止させて、軍への命令系統をストップさせる。
軍が独自に継続する恐れはないのだろうかと考えたが、テロの標的には軍の上層部が入っている。
また物資の補給関係の企業、兵器の製造や車両の整備関係先も標的になっている。
これらを同時に破壊しないと警戒が強められるので、膨大な標的の管理が常時の任務になる。
そんな活動の資金はどうしているのかという疑問に答えよう。
じつはメンバーの活動の半分はボランティアのようなものだ。
個人の生活範囲内で活動できるレベルの指令が届く。
移動は通勤用の定期を休日に使う。
観光地へ行くついでにとかデートの合間。
ターゲットへの潜入や接近は専門のメンバーが行っているが、彼らも似たようなものだ。
使用する機器は自前のパソコンだが、爆発物や武器のたぐいは支給され個人で管理する。
一人で行動することが多いが、2人一組やグループもある。
メンバーの細かい任務は秘密だし本名も仕事も知らない。お互いの呼び名はその都度において決められる。
同じ人物と思っても(変装することがある)名前を変えている。
合流時に相手を仲間と認識するための符丁がある。
合言葉(都度変わる)と認識カード。
前回の任務の合言葉は「推しは誰ですか」に特定のアニメのキャラを答えるのだった。
正直そのアニメは詳しくなかったので探して覚えてきた。
メンバーの総数は知らない。
基本的な活動は首都圏になるが、想像の範囲では数百人以上はいないと無理だろう。
作戦行動の指示はSNSでくる。
ある匿名アカウントをフォローしDMで来るが、暗号文なので普通に読めば平凡な文章にしか読めない。
行動指示の計画立案が誰がやっているかは知らない。
組織の立ち上げや中枢部の実態も不明だ。
僕は10年前から参加している。
きっかけはSNSからのスカウトだった。
胡散臭い投資関係の迷惑メッセージかと思い無視を続けていた。
そんなことを忘れていたある日の夕方だった。
仕事帰りの電車の中で声をかけられた。
車内は男女合わせて数人しかいなく空いていたので、僕がなにか失礼をしたかと思い返事をした。
声をかけてきたのは眼鏡をかけた白髪の紳士然としたスーツ姿の男性だった。
沿線には公務員の街があるので関係者かと思った。実は僕も公務員だからだ。
知り合いかと思い丁寧な対応をしたが、どうも相手は初対面のように、しかし僕のことを知っているかのような話しぶり。
すると男性は驚くことを言った。
この車両の乗客は全員仲間なんですよ。
この人は何を言っているんだと思い見渡してみると乗客全員と目が合った。
おかげで男性の言い分を信用することができた。
そこから話が早く進んだ。
どうも僕のSNS発信が組織の目に留まったそうだ。
政治が国を豊かにするどころか閉塞感を助長することに不満。
為政者が為政者のために政治していること。
少子化や世界情勢で自国だけでは発展は望めないとばかりに国民を無視し、富裕層や企業献金目当ての目先の利益しかみていないこと。
僕はけっして右や左に偏った信念はない。
それはたぶん宗教的な思想が全く無いからだろう。
こうあるべきだという押しつけがましい考えも無い。
人間が死ぬのは生物として当たり前のことだし、身内や親しい人、知人が死んでも周囲の人より受け入れるのが早いと思う。
有名人でもそうなんだとしか思えない。残念というだけで悲しさは湧かない。
ただし理不尽な死に方には怒りを覚える。
交通事故でも殺人でも加害者には反省より償いを求める。
人間は一度生まれてしまうと努力しようがいくら反省しようが人間性や性根は変わらない。
周囲に変わったなと思われても隠しているだけにすぎない。
別に死刑を支持しているわけではない。
死なんて死んだ本人にしてみれば眠るのと変わらない。
周囲が死んだと判断するだけのこと。二度と目覚めない見込みがあれば死亡と判断されるだけ。
誰かにそんな話をしたことがあったが「痛みや苦しみを感じたら死の恐怖があるのでは」と反論された。
高熱を出そうが大怪我で痛みがあろうが夜に眠くなったらいつの間にか寝てしまうのと同じだ。
朝に目覚めれば生きてるし、覚めなければ死んだということになる。
気を失うことに近い感覚だろう。
僕自身が何度も打撲などで気を失っているの。目が覚めた時の体の痛さは半端ないけど。
他人を死に追いやった加害者は死と比べるのおこがましいくらいの償いを与えるべきだ。
組織はそんな事を発信している僕は相応しいと思ったようだ。
仲間とは作戦行動に関わること以外の会話はほとんどしないので、彼らの動機は知りようが無いが似たり寄ったりかもしれない。
国が戦争で勝とうが負けようが関係ない。
負けるのが決まっているなら早いほうがいい。
勝つことで相手国の国民が無駄に死ぬことは避けたい、しかも自国の為政者のせいで。
戦争を回避することは為政者にしかできないから賢明な判断を期待するが、そもそも組織が存在することが期待されていない証になっている。
最近はその危惧が高まっているの。
トップだけを暗殺して排除しても解決しないのは歴史が証明している。
組織の活動は僕の理念とも合っている。
自分にできることで貢献しようと思う。
今日の行動は、ターゲットの歩幅と速度を計測して報告すること。
単純な事と馬鹿にしないでくれ。
細かいデータの蓄積が成功の要素なんだから。
でももっと派手なことを指示されないかと思っている今日この頃だ。
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