第7話

 留学期間も終わり、明後日には帰国する。帰国するわたくしのために、友好関係を示すためが正解でしょうが、明日陛下が夜会を開いてくれるのです。本日は国賓としてエスコートをするから確認したいことがあると伺ったので、王太子殿下のお茶会に招かれていた――はずなのですが。


 扇を開き――ああ、よかった。先程ミシッと言ったけれども、割れているところがなさそうでよかったわ。安堵して、さっと顔半分隠しながら、相手を伺う。

 



 …………あの、なっなぜ最推しが!


 わたくしの目の前に座ってお茶を飲んでいるのか、誰かっ! ヨハ……遠ッ! イルザは……も遠いわ!! だっ誰か教えて――ッ


 いえ、王太子殿下に「君に話があるそうなんだ」とご紹介いただきましたけれどもっ! 殿下も早々に仕事に戻られまして――いや、なぜ二人なのッ!?

 



 そんなわたくしの心の内を知ってか知らずか、教えてれたのは憧れの最推しでした。


「皇女殿下、発言の許可をいただいても?」

「……ええ。もちろんですわ、ケリア卿」


 推しの口から聞きたかったお名前は、まさかの王太子殿下から聞きましたわ。ご紹介でしたから、仕方がないですけれどもね。


 そんなことを思い出していたら、ぜひ名で呼んでいただけないですかって推しの口から溢れ出たのッ! いいの!? なんのご褒美ですかッ!




 脳内で萌の供給を消化していると、返事をせずに固まっているように見えるせいか、推しの顔が!! なんでッ!? 無表情どこ行ったのッ!? わたくしの目がおかしいのかしら? 推しの、推しの顔が、某CMに出ていた子犬のように見えるのは、気のせいかしら!? みっ耳が! 推しの頭に犬耳がッ!


 いろいろと供給過多すぎて、バキッとまた中骨を折ってしまい……すぐにイルザに回収された。さらに丁寧に手に怪我がないか確認をされ――代わりはお渡しできませんと武装必需品をくれなかった。待って! 耐えれないって!!




 そんなやり取りをしていたし、推しから目を離していたのもあって、イルザと入れ替わるように艶やかな漆黒が目の前にあって驚いた。


 失礼しますと手をとられ、優しく触れる指が長くて……手袋をしていてもわかる綺麗な形の指先を見つめすぎて、顔をあげた推しと視線が交差した瞬間、パンクした。


「……っ、あわ、あっあああの、そのッ!」

「お怪我がなくてよかったです」


 フル装備もどこへ行ったのか、完全に真っ赤な顔になっているであろうわたくしに、わたくしの手に! 推しは、くちっ口付けをぉぉおお落としてぇ!? ぎこちなくも、ふっとやさしく微笑んでくださったの!! むりぃーッ!!

 



 扇は取られてしまったので、空いている右手で顔を隠すしかなかった。


「…………じゃっ、ジャック様。お手を、おおお離しくださいましっ」

「いえ、叶うのなら――このまま話すことをお許しくださいますか?」


 そんな、そんなことを推しに言われたら、頷くしかないぃぃ――ッ! 人形のようにコクコクと頷いてしまったわ。推し最強ッ。

 



 無表情だったのにぃ!

 さっきもぎこちなかったのにッ!

 金色の瞳がっ、キラキラキラキラキラキラと輝きをはなっているわ!!

 嬉しそうに、微笑んでるぅ――!

 推しがっ、推しが、ワ タ ク シ に微笑んでいるぅ――ッ!!

 供給過多。

 呼吸すらままならない。

 ……鼻血をださなかったわたくしを、誰かほめてッ!

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