第6話

 あのあと、おバカ四人衆は回収された。


 そのいちは王籍をはずされ、陛下の従兄弟であるヴァーチュ公爵のもとで一貴族として再教育されるそうです。公爵は『歩く図書館』の異名を持つ、ブルーム国の法務大臣です。陛下ですら音をあげるほど教育――いえ、知識にうるさい方だそうで。あのおバカに耐えれるかどうか。三年以内に成果がでなければ、平民になるご予定らしいわ。とても優しい判断なのだけれど、あのおバカにはわかる日が来るのでしょうか。

 



 筋肉マリモはご実家から廃嫡され、魔の森が広がる『エアデ国』との国境警備隊に一兵士として放り込み済みだと、謝罪文とともに伯爵からお手紙をいただきましたの。これも、わたくしが我が儘を聞いていただいているからと対面での謝罪も不要とお断りしたからですが。


 律儀なアーチャー伯は、せめて手紙でとご連絡くださいましたの。そういった彼の精神は大変好ましいのですが、ご子息には受け継がれなかったのか……いえ、受け継いでいたから最後まで彼女の味方だったのでしょうか。まあ、わたくしには関係ありませんが。



 

 一番酷いお仕置きをされたのは、キモ眼鏡。ヨハナが調べてくれた通り、そのいちとの婚約破棄されたを自分のモノにできると思っていたようですの。普通に考えれば格上の帝国の皇女がになったとしても、隣国の一貴族に下賜されるはずがありませんのにね。弱小国なら強気に出れたかもしれませんが。気持ち悪いっ。


 結局、その計画を知った宰相に、そんなに地位が欲しいならと帝国と反対側の国一つ跨いだラプロ王国へお婿に出されました。彼の国の女王陛下は来る者こばまぬ好色で有名な方。七人目の愛人として、差し出されたそうです。ブルーム国的には、若い男を捧げた代わりに色々便宜を図っていただけると確約をいただいたようで。息子を生け贄にしたとは思えないほど、宰相はほくほくとされて帰国なさったと、ヨハナが嬉しそうに教えてくれましたわ。


 基本大人しい性格ですので、裏の仕事をお願いしても顔に出さないヨハナが、ここ最近鬼気迫るものがあったので……。落ち着きを取り戻してくれたので、よかったとしましょう。




 あ、よくわからないことを仰ってたお嬢さんは、神聖国にある戒律の厳しい修道院へ王命でいれられたそうです。


 まあ『エアデ』は豊穣を意味する『加護の名』です。加護をいただいている証でもあるのですが、その加護を持つ者を愚弄したとなれば……神をまつる神聖国が黙っているはずがありませんからね。攻められる口実をなくすためでしょうが、平民なので体よく厄介払いされただけでしょうけれどね。




 いずれにせよ、名乗りもされていないのことなんて、どうでもよいのですよ。わたくしには関係ありませんものね?




 そうして。


 残りの留学期間は陛下にお約束いただいた通り、この国でしか学べない文化探求学や歴史民謡学を学び。五月蝿いおバカたちのいない学院で、穏やかな日々を過ごし。学院のお休みの日には、月一で開催される交易市に視察と称してお忍びで出掛けては、お父様や留学にあたってお口添えくださったお兄様へのお土産を買ったり。


 もちろん、お約束の護衛騎士たちの訓練も見学させていただきましたの。近衛騎士たちの訓練も一度見せていただきましたが、興味がなかったのでそれ以来行ってません。だって、ただの推し活ですからね。


 内心狂喜乱舞でも、淑女の仮面をフル装備して残念さがバレないように見学していましたのよ? 一人に渡すと良からぬことを考える輩もいますから、差し入れは護衛騎士たちだけではなく、騎士団全体にさせていただきましたし。一人だけを見つめることも我慢いたしましたの。




 だから。

 油断してたとでもいえるのでしょうか?

 完璧すぎたから、逆に不自然でしたのでしょうか?

 とっとにかくっ!

 誰かっ、この状況を説明してッ!!




 修理から戻ってきたはずの黒地の扇が、またミシッと言ったの。

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