第3話
……おバカの頭の中を一度覗いてみたいですわね。色とりどりの花でも咲いているのでしょうか? このゲームタイトルの『花姫』とは、脳内に花が咲いているという意味ではなかったはずなのですが。
馬鹿にされたとでも思ったのか、先程よりも睨み付けて……ん? 上から見下ろすように顎の角度を上げましたわね。案の定見下すように喚きだしたわ。ホント、頭の中はどうのようになっているのでしょうか?
「誰に向かってだと? フンッ! 馬鹿には自分の立場もわかっていないようだなッ!」
お前がな、と侍女たちの目線を感じないのでしょうか? まあ、わたくしも似たように目を細めてはいますが。
「……では、その『馬鹿』にもわかるよう、教えていただけますか」
仕方がないと威張るのもいいですが、わかっていますの? あなたの頭が正常か聞かれているのですよ?
わたくし的には面白いので、そのまま回答を促しました。
「隣国の弱小国の公女のくせに、我が国の大事な国民であるララを虐めていたんだろ! お前みたいな国民を貶める他国の貴族の娘を妃になんて、こっちから願い下げだ!!」
「……では、婚約を白紙にすると?」
「そんなヌルいことをするかッ! 破棄だ! アルフレッド・ブルームの名において、ハルフリーダ=エアデとの婚約を破棄する!!」
あら。弱小国であろうがなかろうが、他国の貴族との婚約は国家間の問題。王たちが決めるのであって、第二王子ごときが決めるものではないのに……やはり、おバカでしたのね。わたくしも名を覚えていない者やおバカが配偶者になるのは嫌ですので、言質でも取っておきますか。
「……それは、このブルーム国の総意でよろしいのですね?」
「当たり前だ! 俺の言葉は、この国の総意だッ」
本当に、頭大丈夫かしら? まあ、この国の王太子様はご聡明な方ですし。国王陛下も凡庸ではありますが『バカ』ではないので、そちらと交渉しましょう。
こぼれた嘆息から視線をそらし、食堂内の違和感が目に映った。あら? 何かもの足りな、い、よう、な?
ああっ!!
そんなっ!
デカ物たちのせいで、見えていなかっただけだと思っていたのに!!
なんてことっ!
このハルフリーダ、一生の不覚だわ!!
最推しの気配すら逃してしまうなんてッ!!
驚きのあまり、扇がミシッと言ったけれど、今はそれどころではない。婚約を破棄したら、もう見ることも叶わないのに!
見逃してしまうなんて……。
動揺は扇のおかげもあって、顔には出ていなかった。けれども先程の音もあり、扇の中骨が少し欠けてしまったのを見逃さなかったおバカその
「ハッ! この婚約、もともと気に食わなかったんだ! なんで第二王子であるこの俺サマが、弱小国の婿にいかなければならんのだ! 隣国よりもこの国の発展のために、結婚相手は――ララ、君にお願いしたい」
「アルくん……っ! でも、わたしは平民で……」
「そんなこと関係ない! 平民だからこそ見える視点があるんだ。ララ、どうか俺の隣で……俺と共に国を支えてくれないか?」
「ア、ルくん……はい。わたしでよければ」
「ララッ」
「アルくん!」
……なんだか始まっていますが、それどころではなくってよ! ああ、推しを逃してしまいましたし、婚約破棄となれば国に即帰国せねばなりませんし……。消化不良ではございますが、勉強も切り上げてしまいましょうか。この国独自の文化探求学は、とても面白かったのですが……仕方がありませんわね。
何よりも、推しにももう会えませんし。
こっそりとヨハナに指示をだし、残ったイルザへ扇を渡す。わたくしは四人衆の方へ向き直り、最後の挨拶をすることにしましたの。
「婚約破棄、承りました。わたくしはお邪魔でしょうから、国に帰ろうと思います」
「フンッ! 身のほど知らずのくせに、引き際だけはわかっているんだな」
では失礼します、と食堂を出ていこうとしたら、マリモとキモ眼鏡がいつの間にか扉の前で睨み付けてきましたわ。退いていただけます?
実力行使に出ようかと手に魔力を集めようとしたら、後ろから「待て」とおバカの声が飛んできましたわ。はぁ、まだ何かありますの?
「…………なんでしょうか?」
「まだララに謝罪がない」
……まさかの、今それですか? もう、婚約破棄で話が終わったのではないのですか? おバカ方もやめておけばよろしいのに。見てみなさいな、ご自分の回りを。端の方にいる方なんて、状況をわかっているんでしょうね。青を通り越して真っ白な顔で、今にも倒れそうですわよ?
イルザをちらっと見ると、呆れすぎて手にしかけていた護身用のナイフすら片付けてしまいましたわ。気持ちはすごくわかりますわ。
「その謝罪の代わりが、『婚約破棄』だったのではないのですか?」
「そんなわけないだろッ! それとこれは別だッ」
婚約破棄だけで見逃して差し上げようと思っていたのですが、ここまで来てしまうと……『国』として、見逃すわけにはいけませんわね。おバカたちのせいで、現状を理解している人たちなんてお可哀想にね?
イルザから薄紅色の特別製の扇を受け取り、おバカたちとしっかりと視線を合わせた時だった。食堂の外がにわかに騒がしくなり、大勢の足音と共に騎士に囲まれ……いえ、護衛を追い越してなだれ込んできた国王陛下と王太子殿下が現れました。
……この世界で、いや前世でも見たことのない、スライディング土下座を初めて目にしましたわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます