第37話 王と王妃の中の人
一番近い場所だからという理由で、王妃の寝室へと運ばれる事になった私は、そのまま養生をする事になりました。
「俺はマジでショックだったよ・・なんでそっちに行くの?俺ってそこまで信用なかったのって思ったけど、確かに俺はサイテーな男だった。お前が聖女もどきのクソ女の方を信用して前に進み出たのも、仕方なくだけど理解してやるよ」
陛下の恨み言がすごいです。だけど、自分がサイテーだったって事は思い出したみたいですね。
ちなみに、お腹を刺されてほぼ死にかけていた私ですが、癒しの力を持つアマーリエ王女のお陰で死なずに済んだようなのです。
お飾り王妃ではありますが、ビスカヤ王国の人間でもある聖女が王妃である私を刺殺しかけた。これって完全に国際問題に発展しますよね。
刺された私を治してくれたのもまた、ビスカヤ王国の王女であるアマーリエ様なのですが、
「すみませんが私としても、今のビスカヤ王家は滅んで欲しいと思っているので、聖女のご乱心を理由に王家と聖女教会は揃って潰して頂けたら有難いんですけれども」
と、アマーリエ様が言い出したのです。
ビスカヤ王家の王女といえば、ヒロインであるマリアネラ王女を私なんかは思い浮かべてしまうのですが、マリアネラ王女は正妃の娘、アマーリエ王女は妾妃の娘という事になるそうです。
王様が侍女に手をつけて生まれたのがアマーリエ様で、幼い時から修道女として聖女教会に送り込まれていたらしいんですけど、至高の聖女カンデラリアからも、聖女教会からも虐待に次ぐ虐待を受けていた関係で、恨みこそあれ、助けようとは一切思わないと言うのです。
「王家も聖女教会も腐り切っているので滅ぼして欲しい」
と言うし、
「責任は俺が取ります」
と、アマーリエと一緒に来たツェーザルさんという人まで言い出すし。
ツェーザルさんは前王の王兄の孫に当たる人なので、王家の血筋の人でもあるんですね。
「それじゃあ、クーデターという形が一番良いでしょう!」
と、セレドニオ様が言い出して、お二人を部屋から連れ出してしまったのですが、一人残った陛下が恨みがましく私を見下ろす事になったわけです。
「ごめんね、敦史くんも私が二択に弱いこと知っているでしょ?あの時は、慈悲と慈愛の聖女様の方が生き残れる確率が高いかなって思っちゃったもので」
「芹那、お願いだからもうこんな恐ろしい選択をするのはやめてくれ!何かを選ぶ時には俺が選ぶから!」
そう言って陛下は私を抱きしめると、おいおい泣き出して周囲をドン引きさせたのでした。
車に挟まれて私が死んだ後、敦史くんは歩く屍状態となったそうです。
バイト先が一緒というだけで、良く知らない女性が、突如、私に嫉妬をして轢き殺してしまったわけですから、敦史くん、罪悪感でいっぱいになっちゃったんですかね?
自暴自棄になった敦史くんがその後どうなったのかは詳しく言ってはくれませんでしたが、乳母の娘であるリリアナ嬢が、私とチュスの不貞を言い出した際に、突如として過去の記憶を取り戻したのだと言います。
確かに、リリアナさんと一緒に散歩をした後の陛下は、明らかに様子がおかしいとは思いましたもの。手紙の内容も意味不明でしたけど、敦史くんが書いたと考えれば理解出来ます。
自暴自棄に陥った敦史くんは、私の死後に『天翔る聖女の聖戦』というゲームをクリアしていたので、ゲームの内容は網羅しているような状態です。
陛下の意識と混ざり合いながら、最短で敵である宰相やデメトリオ様を排除し、隣国ジェウズ侯国を滅ぼし、悪役姫(私)の敵となる三人のヒロインをも排除したというのですから、
「敦史くんらしいな〜」
と、思います。
「敦史くん、大好き、私、敦史くんと幸せになりたい」
泣いている陛下の手を握りながら私は言いました。
敦史くんはお兄ちゃんみたいな存在でしたけど、私の中では親族としてではなく、恋人に対して持つようなラブでした。
だけど、敦史くんは私の事をあくまで妹としてしか思えないのかな?と思っていたのですが、そうではない事がここに来て分かりました。
「芹那、俺も好き、本当にもう居なくならないで」
先に死んだのがトラウマになっているんですかね。
ぎゅっと抱きしめた陛下が、絡みつくようなキスを私に落とします。
うーんと、いつの間にか部屋から誰も居なくなっているんですけど、いいのかな?いいんだよね?いいって事にするか!
前の生では、キスもしたかったし、その先だってしたかった。妹ポジションだったからそれなりに我慢していたんだけど、今は妻だから我慢しなくてもいいって事だよね?
「敦史くん、しよ?」
「うん、する」
二人でお布団の中に潜り込むと、ビスカヤ王国の事はどうしようとか、聖女様の遺骸はどうするとか、聖国を復活させるっていうけど、本当に復活させる事が出来るの?とか、色々と考えなくちゃいけない事は山のようにあるのは知っているんだけど、とりあえず、今は全てを投げ捨ててしまって、貪るようにしてお互いを求め続けたのでした。
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